
埼玉県吉川市を拠点に、半世紀以上にわたりダスキン事業を展開する株式会社エポック。長く続く安定企業でありながら、2代目として事業承継した代表取締役の鈴木達也氏は今、自社を「50年目のスタートアップ」と呼び、大改革に乗り出している。背景には、業界に根強く残る「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージがある。そこから派生した「稼げない、夢がない」という諦めへの危機感が、改革の原動力だ。壮絶な営業経験を経てたどり着いた境地、そして「清掃業を憧れの仕事にする」という挑戦の全貌に迫る。
「死んだほうがマシだ」と思った新人時代
ーーまずは、家業に戻られるまでの経緯を教えてください。
鈴木達也:
新卒で入ったのは出版社で、完全歩合制の教材販売を行う営業職でした。そこがいわゆるブラック企業で、私の社会人生活は過酷な洗礼から始まりました。忘れられない出来事があります。ある地域を回っていた際、知らずに訪問してはいけないタブーとされる場所に足を踏み入れてしまったのです。訪問先で激怒され、長時間正座をさせられたあげく、土下座まで強要されました。最終的には警察沙汰になりました。しかし、駆けつけた警察官は、監禁に近い状態だった私を見て逆に守ってくれたほどでした。
ーーそれは強烈な体験ですね……。
鈴木達也:
地獄はそこから始まります。そのエリア担当を外れることは許されず、営業を続けるしかありませんでした。しかし、その一件以来、訪問するたびに水をかけられたり、石を投げられたりといった嫌がらせが日常茶飯事になりました。罵声を浴び、心身ともに追い詰められ、毎朝「このままホームから飛び込めば楽になれる」と本気で考えるようになりました。正常な判断ができなくなる寸前で、逃げるようにその会社を辞めました。
ーーそこから、お父様の会社(エポック)へ?
鈴木達也:
いえ、すぐには戻りませんでした。いくつかの職を転々とし、自分を見つめ直す時間を過ごしました。その中で、中学生の頃から漠然と抱いていた「社長になりたい」という夢を思い出し、父に頭を下げて入社しました。驚いたのは、ダスキンの営業をしていると、断られはしても石を投げられることはないんです。「いらないよ」と普通に断られることが、私にはあまりに平和で、ありがたく感じられました。あの地獄のような日々があったからこそ、少々のことでは動じないメンタルが出来上がっていたのだと思います。
「他責」から「自責」へ 退路を断つためのビッグマウス
ーー入社後、経営者としての自覚はすぐに芽生えましたか?
鈴木達也:
正直なところ、最初は「本部がやってくれないから」「業界の仕組みが悪いから」と、うまくいかない理由を外に求めていました。しかし、ある経営者勉強会での出会いが私を変えました。「自分を成長させるために投資できない経営者は廃れていく」という言葉を突きつけられ、目が覚めたのです。それからは思考が「自責」へと完全に切り替わりました。本部がやらないなら、自分がやればいい。むしろ自分がロールモデルになって変えてやろうと。
今の私は、あえて周囲に大きな目標を公言するようにしています。いわゆる「ビッグマウス」ですが、これは自信があるからではありません。後ろに下がれば崖から落ちる、という状況を自分で作り、前に進むしかなくするためです。一番難しい「言行一致」を成し遂げるための、私なりの覚悟の決め方です。
ーー経営において、絶対に譲れないルールはありますか。
鈴木達也:
「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」です。お客様が喜び、従業員が幸せになり、会社にも利益が出る。この三つが揃わない仕事は、たとえ何百億円の利益が出る話でも断ります。かつて自分がブラックな環境で苦しんだからこそ、社員を不幸にする利益など無意味だと確信しています。また現在は、この考えを広く発信するためのSNS活用や、BreakingDownで活躍する井原良太郎選手の、メインスポンサーとしての支援も行っています。格闘家として心身を研鑽する中で付く「激しい練習の証(汚れ)」を、我々の技術で支える。そんな彼らのキャラクターを通じ、清掃の価値を親しみやすく発信しながら、自社の認知度やブランド価値を高めていく戦略です。
清掃会社を「ディズニーランド」にしたい

ーー現在、組織改革に力を入れていると伺いました。なぜ今、改革が必要なのでしょうか。
鈴木達也:
採用への危機感です。この業界には「3K」のイメージに加え、現代の若者には「稼げない、夢がない」という諦めがあります。かつての私は「中小のフランチャイズ企業に、優秀な新卒が来るはずがない」という固定観念を持っていました。しかし、ブランディングに長けた経営者との出会いで、その考えは間違いだと気づきました。人が集まらないのは業界のせいではなく、会社自体に魅力がないからです。会社を「ディズニーランド」のように面白く、ワクワクする場所に変えれば、人は必ず集まるはずだと考えています。
ーー具体的にはどのような変革を行っていますか。
鈴木達也:
評価制度の見直しを進めています。単に売上をつくった人ではなく、お客様を喜ばせた人を評価する。具体的には「ベストギバー賞」のような表彰制度を設け、数字には表れない貢献や顧客満足度を称える文化をつくろうとしています。まだ道半ばですが、社員がやらされる仕事ではなく、自ら楽しんで働ける環境への転換を急いでいます。
50年目のスタートアップが描く未来
ーー今後の展望について教えてください。
鈴木達也:
「清掃業といえばエポック」と誰もが名前を挙げてくれるような、地域No.1の存在を目指します。そのために、2026年春には新会社を設立し、新しいコンセプトの洗剤事業をスタートさせます。また、弊社が保持している2万6000件の顧客情報を活用し、顧客同士をつなげ、ブランド品買取やリフォームなどを紹介する事業も強化する方針です。既存のダスキン事業という枠組みにとらわれず、新しい挑戦を続けることで、会社全体に相乗効果を生み出していきたいと考えています。
ーー最後に、これから社会に出る若い世代へメッセージをお願いします。
鈴木達也:
弊社を「50年目のスタートアップ」だと思って飛び込んできてほしいです。歴史はありますが、変えるべきことは山ほどあります。皆さんが期待するようなキラキラした環境が、初めからすべて用意されているわけではないかもしれません。しかし、裏を返せば、これから自分たちの手で理想の会社を一緒に作っていけるということです。10年後、「エポックという会社を面白くしたのは自分たちだ」と胸を張って言える。そんな経験をしたい方と、ぜひ一緒に働きたいと願っています。
編集後記
鈴木氏の言葉には、過酷な過去を乗り越えた者だけが持つ圧倒的な説得力が宿っている。清掃業を「ディズニーランド」のようなワクワクする場所へ昇華させる挑戦は、単なる事業改革の枠を超え、働く人々の尊厳を再定義する試みでもあるのだろう。「50年目のスタートアップ」として自ら退路を断ち、ビッグマウスを現実に変えていく覚悟の強さに、組織変革の真髄を見た。既存の枠組みを打ち破り、業界の新たな地平を切り拓いていく同社の飛躍に、今後も注目していきたい。

鈴木達也/1976年埼玉県生まれ、中央学院大学卒。ダスキン西新支店に入社し、3年の働きさん研修を経て、20年前に現在のダスキンエポックに入社。昨年度より同社代表取締役社長に就任。REAL VALUE CLUBに参加し、新規事業の立り上げに注力している。