※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

日本企業の業務効率化を支援するDress Code株式会社。現在、多くの企業では部門ごとに異なるITツールが導入され、情報の分断が起きている。同社はこの現状を打破するため、あらゆる業務を一箇所で完結できる基盤「DRESS CODE」を開発した。

代表取締役の江尻祐樹氏は、連続起業家としての過去の成功に安住することなく、15年以上にわたる業務アプリケーション領域での深い知見を武器に、再びゼロから世界市場へ挑む。日本発のソフトウェアが世界で勝つための道筋をどう描くのか。その壮大なビジョンと、それを支える独自の経営理念に迫った。

連続起業家が再びゼロから挑む理由

ーーまずは、これまでの経歴について教えていただけますか。

江尻祐樹:
新卒でコンサルティングファームへ入社後、当時日本最大手のソフトウェア会社だった株式会社ワークスアプリケーションズに入社しました。ここでは約10年間、人事や会計、サプライチェーン、Eコマースといった企業の基幹となるERP(統合基幹業務システム)領域に従事。その間、アメリカ法人の立ち上げやインドでの開発など、グローバル領域での経験を積みました。

その後、スタートアップ企業を創業しました。約5年で組織を数百名規模に拡大させ、数百億円の資金調達や三桁億円の受注を実現するなど、起業家としての一通りの経験をすることができました。

ーーこれまでの成功がありながら、なぜ再びゼロからの創業を選ばれたのでしょうか。

江尻祐樹:
前職で会社を数多くの従業員を抱える規模まで成長させ、一定の形を実現できましたが、私の中にはまだ燃え尽きることのない情熱とエネルギーが溢れていました。一度起業を経験し、時間やお金の制約がなくなったことで、以前よりも大きなリスクをとれる状態になったのです。

初めての起業であれば躊躇してしまうような、壮大なロマンや夢のある挑戦がしたい。国内の着実なマーケットを狙うのではなく、日本発のプロダクトでグローバル市場を獲りにいきたい。そうした思いが、私を再びゼロからの創業へと向かわせました。

ーー現在の事業領域を選んだ背景を教えてください。

江尻祐樹:
最大の理由は、業務システムのなかでも最も複雑とされる領域に10年以上身を置き、アメリカやインドでの開発を含め、現場の最前線に立ってきた経験があるからです。この領域では業界や業務に関する深い知見を持っていることが、そのまま圧倒的な強みになります。

実際、自社プロダクト「DRESS CODE」の開発において、最初の製品をリリースするまで顧客へのヒアリングを一切行いませんでした。これは決して顧客軽視ではなく、10年近く数百社の現場で顧客の声を深く吸収し続けてきた経験から、私の中に「あるべき理想の姿」が明確に見えていたからです。多くの企業は要望を聞きながら機能を継ぎ足しますが、それでは全体の統一感が失われます。私たちはまず、揺るぎない共通基盤を提示し、そのリリース後にお客様の声を徹底的に反映して磨き上げることで、世界で戦える事業をつくれると確信したのです。

ガラパゴスSaaSからの脱却という使命

ーー現在の日本のソフトウェア業界に対して、どのような課題を感じていますか。

江尻祐樹:
日本のソフトウェア産業、特にSaaSは、今まさに「ガラパゴス化」の危機に直面していると感じています。たとえば、プライム市場に上場している国内SaaS企業の海外売上高比率は、現状ほぼゼロです。これは、日本の製品が国内市場向けにのみ最適化されており、海外では通用しないことを意味します。

かつて、独自の進化を遂げた日本の家電は「ガラパゴス家電」と呼ばれ、世界市場での競争力を失いました。現在の日本のソフトウェア業界も、まさに同じ道を辿ろうとしているのです。

ーー具体的に、どのような問題が起きているのでしょうか。

江尻祐樹:
一つの企業のなかで、特定の業務に特化したツールが乱立し、それぞれのデータがつながっていない状況が起きています。「勤怠管理」や「労務管理」、「採用管理」など、それぞれの業務はデジタル化されて便利になりました。しかし、ツールがバラバラなため、かえって業務の「摩擦」、つまりストレスが増大しています。

たとえば、採用管理システムには「来月の入社予定者」のデータがあります。しかし、それが備品管理のシステムと連携していないため、「PCの在庫はあるか」「ソフトウェアライセンスが足りているか」といったことを、いちいち担当者に確認しなければなりません。このようにシステムが分断されていることで、本来不要な確認作業や連絡の手間が発生し、企業全体の生産性を下げてしまっています。

ーーその課題をどのように解決しようとお考えですか。

江尻祐樹:
国内に乱立する数多くのサービスは、今後数社に集約・統合するべきだと考えています。内需でのシェア争いに終始するのではなく、外貨を稼げる強い産業へと進化させなければならないからです。まずは国内市場を一つにまとめ上げなければ、世界とは戦えません。かつて、バラバラだった携帯電話の機能がスマートフォンという一つの基盤に集約されたように、業務ソフトの世界でも「共通の土台」をつくる必要があります。

私たちのような後発だからこそ、従来のツールでは解決できない、全体が統合されたプラットフォームならではの価値を提供できると考えています。それぞれの機能で先行する企業に追いつき、組み合わせによる価値で差別化を図る。そうして初めて、グローバルで戦うためのスタートラインに立てると信じています。

ビジネス界のiPhoneを目指す独自の製品思想

ーー貴社のプロダクトは、どのような考え方でつくられているのでしょうか。

江尻祐樹:
私たちが目指しているのは、「ビジネス界のiPhone」です。iPhoneは、OSという共通の基盤の上に、ユーザーがそれぞれの趣味やライフスタイルに合わせて好きなアプリを入れて使います。私たちのプロダクトも同じで、すべての企業が共通のプラットフォーム基盤を使い、その上に自社に必要な機能を載せていくイメージです。

基盤が完全に統一されているため、どの機能を使っても操作性が同じで学習コストが非常に低いのが特徴で、個別のツールを使うストレスから解放され、誰もが直感的に使いこなせる。そんな世界の実現を目指しています。

ーー設計するにあたって、どういった点に特にこだわっていますか。

江尻祐樹:
あらゆる企業のニーズに標準機能だけで応えるため、個別の「特注品」をつくらないという点に徹底してこだわっています。

通常、大企業向けのシステムでは、その会社だけの要望に応じたカスタム開発が行われがちです。しかし、私たちはそれを一切行いません。その代わりに、あらゆる業界の業務パターンを私たちが事前にすべて想定し、オプションではなくあらかじめ「標準機能」として製品に組み込んでいます。これにより、どんなお客様でもパズルのように機能を組み合わせるだけで、自社に最適なシステムを構築できるのです。

「価値」の定義で生み出す、永続的な組織の仕組み

ーー組織づくりにおいて、特に重視していることは何ですか。

江尻祐樹:
「価値」という目に見えないものを、誰もが客観的に判断できる状態にすることを大切にしています。

私たちは非常に複雑な製品をつくっているため、メンバー間で「何が良いものか」という解釈がズレると、良いものはつくれません。そこで、社内では「誰がどんな課題を、どう解決して、どんな効果を出すか」という要素を細かく定義し、一つの記録として管理しています。さまざまな役割の人が集まって一つのものをつくるからこそ、全員の理解がぶれないように、言葉の定義や解釈を徹底的に合わせることにこだわっています。

まずは社内での共通認識をしっかりとつくる。この揺るぎない土台があるからこそ、私たちは迷わずに価値のある製品を追求し続けることができるのです。

ーー長期的に成長し続けるために、どのような考え方を持っていますか。

江尻祐樹:
私たちの事業は、自動車産業のように、5年、10年、20年という長い時間をかけて価値を積み上げていくものだと考えています。派手な一発逆転を狙うのではなく、誠実に、着実に良いものをつくり続けていくことが不可欠です。

そのために私たちが大切にしているのは、お客様が求めていて、かつ私たちにしか提供できない価値を増やし続けることです。

一般的に、製品が市場に受け入れられることを「PMF(プロダクトマーケットフィット)」と呼びますが、私たちは一度受け入れられて終わりだとは思いません。先行する他社の製品に追いつくだけでなく、組み合わせによって生まれる独自の便利さを、絶えず磨き続けていく。この終わりのない改善を繰り返すことこそが、私たちが長期的に成長し、世界で勝ち続けるための唯一の道だと信じています。

ーープロダクトの進化を、どのように定義し管理されているのでしょうか。

江尻祐樹:
弊社は、製品が提供する価値を「レベル」という指標で明確に定義しています。まずレベル1は、競合に負けている部分はあるものの、特定の課題は解決できる状態です。この段階では、価格が安ければ選んでいただけます。次にレベル2は、負けている部分が少なくなり、勝っている部分が一定以上ある状態です。価格が同じであれば、おおむね私たちの製品が選ばれます。そして私たちが目指すレベル3は、競合に負けている点が一つもなく、独自の強みが圧倒的に際立っている状態です。目玉となる導入効果が非常に明快で、他社と比較されても迷わず選んでいただける、最高水準の価値を指します。

社内で共有するロードマップも、単なる機能のリリース計画ではありません。それぞれのプロダクトが、いつまでにどの価値レベルに到達するのか。その状態を実現するために何が必要か、という価値を基点とした視点で描かれています。

パートナーシップで拓くアジア市場と「AIオペレーター」の未来

ーー今後のグローバル展開について教えてください。

江尻祐樹:
海外進出にあたっては、自前主義にこだわらず、現地の有力企業と手を組むパートナーシップ戦略を重視しています。特にアジア市場においては、すぐに海外拠点を設立することにはこだわりません。それよりも、各地域で強力な販売網や顧客基盤を持つパートナーを見つけ、私たちの製品を通じて彼らに成功してもらうことを優先します。パートナーの成功を積み重ねることで、確固たる存在感を示していきたいと考えています。

また、展開にあたって徹底しているのが、国ごとのカスタマイズを一切しないことです。たとえば、タイやベトナムなど国ごとの異なる商習慣があって、それを別製品にするのではなく、一つの製品のなかに「標準機能」としてすべて含めています。

一つの完成された製品が世界中のあらゆる企業のニーズに応えられる。この「標準化」の考え方こそが、国ごとに個別の製品をつくる手間をなくし、スピーディーなグローバル展開を可能にする鍵だと考えています。この製品力と現地パートナーシップを軸に、世界でのシェア拡大を目指します。

ーー社長自身を突き動かす原動力とは何なのでしょうか。

江尻祐樹:
1つは、私自身の性格でもある、あらゆる物事への強い知的好奇心です。常に変化し、新しいことを学び続けたいという欲求があります。海外市場への挑戦も、まだ知らないことを学べる最高の機会だと捉えています。

そしてもう1つは、15年以上身を置いてきた日本のソフトウェア業界への恩返しをしたいという思いです。残念ながら、この業界は世界では全く知られていません。この状況を変えるためにも、いつか世界で「日本のITといえばDress Code」と言われるような会社をつくりたい。それが実現できれば、私自身もうれしく思いますし、集まってくれた仲間たちも誇りに思えるはずです。

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

江尻祐樹:
まず直近の展開として、今年の半ば頃には、弊社が提供する統合的な価値が、お客様にとって非常に分かりやすい形で実感いただけるプロダクトの状態になると見込んでいます。そのタイミングを捉え、そこから一気にマーケティングやブランディングに注力していきます。これまで私たちのことを知らなかった方々にも、「何か全く新しい、すごいものが出てきたぞ」と感じていただけるような仕掛けをしていきたいですね。

さらに来年以降の計画になりますが、私たちの統合プラットフォーム上で完全に自律して動作する「AIオペレーター」を世に出すことを構想しています。これは、昨今よく聞くAIエージェントとは一線を画すものです。特定の条件下において、人間の手を介さずに入社手続きや給与計算といった一連の業務を自動で完結させることを目指しています。

オペレーションそのものを自動化する。これはすべてのデータが分断されず、一つのプラットフォーム上にあるからこそ描ける世界です。この構想を現実に変え、日本発の技術で世界のビジネスシーンを変革していきたいと考えています。

編集後記

「ガラパゴスSaaS」が乱立する国内市場を一つにまとめ上げ、世界で勝負する。江尻氏が語るビジョンは壮大だが、その根底には15年以上の経験に裏打ちされた深い洞察と、極めて緻密な戦略があった。「ビジネス界のiPhone」という製品構想から、曖昧な「価値」を徹底して言語化する組織論まで、すべてが世界標準のプロダクト創出へとつながっている。過去の成功に安住せず、あえて困難な「基幹システムの統合」という領域で再び世界へ挑むその姿勢は、停滞する日本のIT産業に新たな可能性を示すものだ。同社が提示する新たな「標準」が、日本のソフトウェアを外貨の稼げる強い産業へと進化させる、確かな一歩になるのではないだろうか。

江尻祐樹/1985年3月生まれ、石川県出身。2008年リンクアンドモチベーショングループ、2009年株式会社ワークスアプリケーションズを経て、2018年8月株式会社ビットキー創業、代表取締役CEOに就任。2024年1月STAND&FORCE株式会社創業。2024年9月にグローバルに展開するコンパウンドSaaS事業としてDress Code株式会社を設立し、2025年4月に正式創業。現在は、月に一度は自らアジアへ赴き、営業をしている。