
24時間365日・13言語対応の多言語コンタクトセンター事業と、大手インフラ企業向けのセールスアウトソーシング事業を手がけるインバウンドテック株式会社。同社を率いる代表の東間大氏は、建築士からIT業界へ転身した経歴を持つ人物だ。ものづくりの本質を追求し続ける同氏は、上場取り下げという困難さえも、人気者になれる“ネタ”に変える独自の信条を持つ。同氏に、キャリアの転機、事業の強み、そして目指す未来について伺った。
建築士からIT業界へ 変わらぬ「ものづくり」の本質
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。
東間大:
私のキャリアは、株式会社長谷工コーポレーションでの建築士から始まりました。10年ほど設計を担当していました。元々ものづくりが好きでその道を選んだのですが、バブル崩壊後、状況は一変します。コスト制約が厳しくなり、納得のいかない、不本意な設計をせざるを得ない時代が来たことで、行き詰まりを感じました。
そこで、より自由にものづくりができる場を探し始めたのです。当時、ITの世界は勢いがありました。元々ネットワークシステムが好きだったこともあり、思い切ってインターネットコミュニティの会社へ転職しました。
ーー建築とIT業界で、どのような違いがあったのでしょうか。
東間大:
意外に思われるかもしれませんが、建築の工程管理や本質は、システム開発でも全く変わりませんでした。日本のゼネコンのものづくりの能力は世界一と言われますが、その考え方はシステムの開発でも共通していたのです。
特に、マンション設計時代に追求した「お客様に喜んでもらう建物とは何か」という視点は、コミュニティサイトを構築する際も「お客さんが喜ぶものは何か」という問いに置き換わりました。本質的な価値観がブレなかったため、対象が違えども、違和感なく移行できたと感じています。
競争優位性につながる法令遵守と販売実績の両立
ーー貴社の事業内容について教えてください。
東間大:
大きく2つあります。一つは24時間365日・13言語対応の多言語コンタクトセンター事業。もう一つは、電力会社やキャリアなど大手インフラ系企業を中心としたセールスアウトソーシング事業です。
セールスアウトソーシング事業の最大の強みは、法令遵守を徹底しながら、確実に販売実績を上げられるノウハウを持っている点にあります。大手企業の販売は、守るべき法令が非常に多く、少しのトラブルが何十億円という甚大な損害につながりかねません。
私たちはそのリスク対策を何よりも優先します。品質管理のメンバーを特別に選抜し、徹底した教育プログラムを組んでいるのです。この「法令遵守」と「販売実績」を両立させる知恵と体制こそが、弊社の競争優位性を生み出しています。
ーー経営者として大切にされている考え方はありますか。
東間大:
私たちが持つ資産は工場や機械といった有形資産ではなく、「人」です。そして、販売しているものは、お客様の課題を解決する「知恵」にほかなりません。だからこそ、社員には「考えないことが一番お客様に失礼にあたる」と強く伝えています。
大手企業が大きなことを考えるのに対し、私たちはスピードと、小さいことにまで徹底して考え抜く「知恵」で戦います。これが、ニッチな分野でナンバーワンを目指し、勝ち抜くための不可欠な要素だと信じています。
地域の課題解決に貢献する多言語事業の積極展開

ーー多言語コンタクトセンターの特徴を教えてください。
東間大:
特徴は、単なる通訳の提供ではなく、より付加価値の高いコンシェルジュ的な業務を提供していることです。これは、観光案内や病院窓口でのケアなど、お客様の状況に寄り添った対応を希望される企業が増加した結果でもあります。
また、日本で働く外国人労働者が増えている状況にも対応しています。英語や中国語だけではカバーしきれない、ネパール語やベトナム語、ポルトガル語など13言語で手厚いサポートを提供します。日本での生活や労働が円滑に進むよう貢献することを目指しています。
ーー業務の効率化について、社内ではどのような取り組みをされていますか。
東間大:
AIと人の協働を積極的に推進しています。社内では「BizTAP AI(ビズタップAI)」というAIサービスを全社員が利用し、現在すでに3割以上の業務効率化が実現しました。これは単に既製品のツールを導入したのではなく、API技術を使って開発した全社的な取り組みです。
AIが一次対応し、人間的な配慮が必要な場合のみオペレーターが引き継ぐハイブリッド体制を開発しています。これにより、人手不足やコストといった課題に対応しつつ、今後、電話応対自体のAI化もさらに進めていく方針です。
ーー今後、事業を拡大していきたい分野についてお聞かせください。
東間大:
私たちは、多言語事業を地方公共団体や観光業、地域振興に関わる方々へも積極的に展開したい考えです。オーバーツーリズムや労働力不足に悩む地域が増えており、「外国人客が押しかけて困っている」といった地域の困りごとを遠隔サポートで解決できるからです。
AIと人のセットで地域の課題解決に貢献し、日本の社会課題解決と、地域社会の活性化につなげていきたいと願っています。
ーー事業を通じて、どのような社会を実現したいですか。
東間大:
米国、ヨーロッパの事例を見ても、多様化する人々のコミュニケーション不全が移民への偏見を生み、社会の不安定さにつながっています。少子化が進む日本も、外国人の方々を受け入れざるを得ない状況にあると考えています。
この課題を解決するのは、親切で誠実なコミュニケーションから始まる価値観の共有しかありません。私たちは、偏見を持たず、愛想と素直さをもって、コミュニケーションの「架け橋」を目指します。日本社会が多様な人々を円滑に受け入れられるよう、社会の安定という大きなテーマに寄与できると確信しています。
つらい経験は人気者になれる“ネタ”という仕事観
ーーこれまでのキャリアで、困難をどう乗り越えてこられましたか。
東間大:
変わった見方ですが、つらい話やトラブルは人気者になれる“ネタ”になると思っています。年齢を重ね、さまざまな経験をしてきましたが、人は成功した話よりも「こんな辛いことあったんだ」という昔話の方が、皆が聞きたがると感じるからです。なので、つらいことがあると「また人気になれるな」と思うようにしています。
特に印象的だったのは、2018年に上場の承認までたどり着いた後、取り下げたことです。当時はかなりのショックでした。しかし今では、経営者の皆さんに「どういうことだったの?」と聞かれることが多く、その時のモチベーションの保ち方などをお話しするようにしています。悩んでいる若者にも、失敗を恐れず、その経験を将来の“ネタ”にすればいいと伝えています。
ーー今後の目標についてお聞かせください。
東間大:
上場会社として、2030年目標で売上100億円は達成しなければならないと考えています。これを実現するため、戦略の主軸は提携先の拡大とM&Aの積極的な実行です。
M&Aでは、AI技術や新たな販売チャネルなど既存事業とのシナジーを追求し、ヘルスケアといった新領域へも挑戦します。多言語とAIのシナジーを活かし、ニッチ分野で日本トップを目指して事業を広げていくため、これらの戦略を覚悟を持って実行し、目標を達成していきます。
編集後記
東間氏の言葉からは、逆境さえもポジティブな経験として捉える強い信念が伝わってきた。同氏が事業を通じて目指すのは、「親切で誠実なコミュニケーション」による社会の安定だ。同社は、AI技術を駆使しつつ、多言語による人の温かさが介在するコンシェルジュサービスによって、地方の観光や労働力不足という喫緊の社会課題に挑んでいる。単なるビジネスに留まらず、社会の「架け橋」となるこの事業に共感し、周囲と協力しながら、仕事の本質を「考え抜く力」をつけたいと志す若者にとって、これほど機会に満ちた環境はないだろう。

東間大/1990年、株式会社長谷工コーポレーション入社。2000年以降、IT・Web業界にてシステム会社、コンサル会社を経て、2002年に株式会社イージーユーズおよび株式会社イーオーエルの取締役に就任。2004年、株式会社ウィリオ代表取締役に就任し、2006年の合併に伴い株式会社エーツーメディア(現 株式会社a2media)専務取締役に就任する。その後、Navara Securities (Private) Limited Director、プロップテック株式会社代表取締役などを歴任。2015年に株式会社インバウンドテック取締役、同年9月より現職。