
商業施設を中心とした店舗内装の企画・設計・施工をワンストップで手がける、株式会社藤田建装。創業100年を超える歴史の中で培われた、高い制作管理能力というハードの強みを武器に、顧客の多様なニーズに応え続けている。五代目として事業を受け継いだ代表取締役の藤田一之氏は、海外でのバックパッカー経験や異業種への出向といったユニークな経歴の持ち主だ。その多様な経験から導き出された経営の核は「信頼」と「コミュニケーション」。社員の主体性を引き出し、次世代のリーダーを育てる組織づくり、そして原点回帰の新ブランドに懸ける思いに迫る。
父の教えを昇華させた「縁」と「信頼」
ーー藤田社長の生い立ちと、家業への意識についてお聞かせください。
藤田一之:
実家が家具工場を兼ねていたこともあり、1階が作業場、2階が住居という環境で育ちました。職人さんたちが常に身近にいる生活は、私にとってごく日常的な光景でした。祖父も父も長男として家業を継いでいたため、周囲からは自然と「将来の社長」と呼ばれていました。当時は将来を深く意識していたわけではありませんが、周囲の言葉によって「自分は後を継ぐものなのだ」という感覚が、幼いころから刷り込まれていたように思います。
ーー社会人としての歩みから、家業に戻られるまでの経緯を教えてください。
藤田一之:
大学受験を控えたころ、いわゆる反抗期も重なり「決められたレールの上を歩みたくない」という思いがありました。あえて家業とは距離を置こうとしながらも、無意識のうちに身近だった建築の道を選んで進学し、卒業後はハウスメーカーに就職しました。しかし「広い世界を見たい」という思いを抑えきれず、退職して3カ月ほど欧州を放浪しました。言葉も通じない中で、見知らぬ人たちとコミュニケーションをとり、つながりをつくっていく楽しさを知ったこの経験は、今の私の基礎となっています。
その後、2000年に帰国して家業に入りますが、すぐに取引先のコンビニチェーンへ出向することになりました。店長やスーパーバイザーとして、24時間365日お客様と向き合うこと、それに伴い発生する課題の中で、さまざまな方と接しながら培った忍耐力と対応力は、現在の経営に活きています。
ーー経営者として、一貫して大切にされていることは何ですか。
藤田一之:
やはり「縁」です。ありきたりな言葉に聞こえるかもしれませんが、私たちが浅草の地で100年以上商売を続けてこられた理由は、この一言に尽きると考えています。
私の父は浅草神社との縁も深く、私も幼い頃から祭りの文化の中で育ちました。神輿というのは、一人では決して担げません。多くの人が肩を入れ、呼吸を合わせるからこそ、重い神輿が動き出し、熱狂が生まれます。ビジネスも全く同じで、お客様はもちろん、社員、そして現場を支える職人さんたちとの「縁」があり、信頼関係があって初めて、良い空間をつくることができます。先代たちが築き上げてきたこの「和」の精神こそが、弊社の根幹なのです。
一度は家業を離れ、海外や異業種という全く異なる環境に身を置いたからこそ、合理的でドライな関係性だけでは生まれない、人と人との温度ある関係性の強さを感じました。外の世界を知った上で戻ってきた私にとって、この浅草に根付く精神は、単なる伝統ではなく、確固たる信念となっています。一度生まれたご縁を大切にし、誠実に向き合い続ける。それこそが、私が守り抜くべき信条です。

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
藤田一之:
主に、飲食店や物販店、オフィス、ホテルなどの商業施設の内装を手がけています。いわゆる「非住居」の空間づくりです。建築物が建った後の、内装をトータルで担っています。
最大の強みは、現場の制作管理まで一貫して自社で手がける「ハードの力」です。各工程のパートナー企業と直接連携し、弊社が全体を管理することで、お客様の意図をダイレクトに現場へ反映できます。また、間に余計な会社を挟まないため、コストを抑えることも可能です。社員には膨大な知識が求められるため大変ですが、「いいものをつくろう」というマインドが浸透している点が、私たちの誇りです。
ーー長年にわたり、多くの協力会社からも選ばれ続けているのはなぜでしょうか。
藤田一之:
一つは、チェーン展開されているお客様とのお取引が多いため、継続的にお仕事をお願いできる点です。安定して長くお付き合いできることが、信頼につながっているのだと思います。
もう一つは、やはり現場の「空気感」ではないでしょうか。私たちの現場では、お客様のこだわりを実現するために、時に高い技術や難易度の高い対応が求められることもあります。しかし、そんな局面こそ「一緒にいいものをつくろう」と職人さんたちとワンチームになって取り組める土壌があるのです。単なる発注者と受注者という関係を超えて、切磋琢磨できる。この一体感こそが、選んでいただいている理由かもしれません。
社員の主体性が成長の鍵 次世代を見据えた組織づくりの実践
ーー事業を受け継いだ後、どのような改革から着手されたのでしょうか。
藤田一之:
私が入社した当時は、創業メンバーのリーダーシップのもとで運営される組織でした。しかし、企業規模が拡大する中で、個人の判断に頼る経営スタイルでは限界が来ると感じていました。そこで、まずは社員が意見を言いやすい環境づくりから始めました。当初は私が間に入っていましたが、徐々に皆が自発的に発言し、新しい施策を考えられるような雰囲気づくりを心がけました。
ーー社員の主体性を引き出すために、どんな取り組みをされていますか。
藤田一之:
社員には「やりたいことをやっていいよ」と、常に伝えています。その上で、具体的な施策として、全社員との個別面談や、普段関わらない部署のメンバーと役員が一緒に昼食をとる「シャッフルランチ」を定期的に実施しています。こうした場では、フレックスタイム制度の改善案や、新たな拠点設立の要望など、現場のリアルな声が数多く上がってきます。社員の意見を経営に活かすことで、一人ひとりがやりがいを感じられる会社にしていきたいと考えています。
ーー次世代のリーダー育成について、どのようにお考えですか。
藤田一之:
会社の持続的な成長には、20代などの若手からリーダー候補を見出し、育てていくことが不可欠だと考えています。そのためには、まず私たち経営層の考え方を変えなければなりません。私たちの世代は厳しい環境で育ってきた分、知らず知らずのうちに同じ基準を若い世代にも求めてしまうことがあります。しかし、それでは今の時代の若者は育ちません。私たち自身がマインドセットを変え、若手の意見に耳を傾け、積極的にチャレンジさせる姿勢が不可欠だと考えています。
創業101年目の挑戦 原点回帰の家具ブランドと描く未来
ーー新しく立ち上げた事業ついてお聞かせください。
藤田一之:
2022年にオーダーメイド家具ブランド「cazari」を立ち上げました。これは、私たちの原点回帰ともいえる挑戦です。もともと弊社は藤田店飾専門店という家具屋から始まっていますので、いつか自社ブランドを持ちたいという思いは長年温めていました。コロナショックで事業が停滞した時期を好機と捉え、長年の構想を実現させた形です。これまではお客様からのご要望に応える形でものづくりをしてきましたが、そこに加えて、これからは自分たちから主体的に提案し、新たな価値を創造していきたい。その思いが詰まったブランドです。
ーー最後に、貴社が目指す今後の展望を教えてください。
藤田一之:
これまで培ってきた制作管理というハードの強さを軸にしながら、デザインや企画提案といったソフトの力もさらに伸ばしていきたいです。この両輪を一体化させることが、次の成長につながると確信しています。また、飲食や物販といった既存の領域だけでなく、たとえばウェルネス・ヘルスケア系のような、これから成長が見込まれる新しい分野にも積極的に挑戦していきたいです。
そして、本業で得た知見を活かし、浅草という地域に根差した企業として地域創生にも携わりたいという思いもあります。昨年、創業100周年を迎え、私たちは次の100年に向けて歩み始めました。未来に向けて、さまざまな種をまいていく。今は、その大事な時期だと考えています。
編集後記
家業を継ぐ立場に生まれながらも、一度は家業から離れて世界を旅し、異業種で揉まれた藤田氏。そのユニークな経験が、同社の経営の根幹をなす「信頼」と「コミュニケーション」という信念を育んだ。社員一人ひとりの声に耳を傾けて主体性を引き出し、組織を活性化させる。そして原点回帰の新ブランドで、未来への種を蒔く。創業100年を超えてなお、変化を恐れず挑戦を続ける同社の姿勢は、次の時代を生き抜くための確かな道標となるだろう。

藤田一之/大学卒業後、ハウスメーカーに勤務。その後スペインおよびイギリスへの留学を経て、2000年に株式会社藤田建装に入社。制作・購買業務に従事した後、2004年に同社100%出資の現地法人 上海藤建家具有限公司の工場立ち上げに参画。以降13年間にわたり、中国・上海にて生産管理を中心とした拠点運営全般を指揮。2017年に帰国後は、海外で培った知見とノウハウを活かし本社業務の改革を推進。2019年3月、代表取締役社長に就任。