
1963年の創業以来、静岡県富士市を拠点にペットシーツや猫砂などの製造・販売を手掛ける株式会社コーチョー。「やさしさをかたちに」という企業理念のもと、高品質な製品でペットと飼い主の暮らしを支え続けてきた。現在、同社はメーカーの枠を超え、地域資源の活用や障がい者支援など、社会課題の解決を事業の核に据えた変革を進めている。商社マンとして世界を飛び回った経験を持ち、2021年に家業へ戻った取締役副社長の渡邉俊氏に、組織改革の裏側と未来へ向けた新たな挑戦についてうかがった。
「止まったら停滞」商社時代に培った行動指針
ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。
渡邉俊:
幼少期から「いつかは家業を継ぐ」という意識はありましたが、まずは外の世界で力を試したいと考え、新卒で双日株式会社に入社しました。そこでは約15年間、財務や化学品の輸出入を含む営業を経験し、中国やインド、シンガポールなど発展著しい海外市場にも身を置きました。特に海外では、物価も給料も上がり続けるのが当たり前という活気ある環境で、アグレッシブなマインドセットを叩き込まれました。また、シンガポール駐在から帰国後にはリサイクル事業への出資に関わり、環境に配慮したビジネスの重要性を肌で感じたことも、今の経営判断に生きています。
ーーその後、家業に戻られた際、社内の雰囲気はどう映りましたか。
渡邉俊:
非常に優秀な社員が多く、創業からの精神である「やさしさをかたちに」という理念も浸透している素晴らしい会社だと感じました。ただ一方で、少し「内弁慶」な部分があり、せっかくのポテンシャルが社内だけで完結してしまっているもどかしさもありました。そこで、社員がもっと外の世界に触れ、視野を広げることができれば、この会社はさらに伸びると確信しました。
その指針として、若手社員と共に新たな企業ビジョンを策定し、「『ケア』が当たり前となる社会を『かたち』にする」と再定義しました。
地域資源を価値に変える「ハッピーサイクル」の実現

ーー貴社の強みと、現在注力している取り組みについて教えてください。
渡邉俊:
弊社の強みは、ペットシーツと猫砂という二大消耗品を、同一地域で製造・販売している国内唯一の企業である点です。これにより、物流面での優位性を持ちながら、高品質な商品をリーズナブルに提供することが可能です。
この強みと技術力を活かし、現在注力しているのが「Kocho's Happy Cycle Action」という社会課題解決型の新事業ブランドです。その象徴となるのが、新工場で製造を開始した『茶葉まるごとin帰宅後もニオイ気にならない砂』です。
ーーユニークな商品名ですが、開発の背景にはどのような思いがあるのでしょうか。
渡邉俊:
静岡県はお茶の産地ですが、実は飲料製造の過程などで大量の茶葉が廃棄処分されており、その量は年間数万トンにも及びます。この地域課題を解決し、廃棄される茶葉を価値あるものに変えたいという思いから開発がスタートしました。新工場に茶葉専用の乾燥設備を導入し、カテキンの消臭効果や緑茶の香りを最大限に活かした猫砂を製品化しました。飼い主様やペットにとって快適であることはもちろん、商品を使うこと自体が茶葉の廃棄問題解決につながる。そんな循環を生み出すことが、私たちが目指す「ケア」の形です。
「やさしさ」を行動へ 地域社会と共に育む未来
ーー企業として地域社会とはどのように関わっていますか。
渡邉俊:
弊社では20年以上にわたり、特別支援学校の生徒の職業体験実習を受け入れてきました。卒業後に正規雇用され、実際に戦力として活躍してくれている社員もいます。彼らが社会で輝ける場所を作ることは、企業の責務と言えるでしょう。また、全国知的障害特別支援学校高等部サッカー選手権大会『もうひとつの高校選手権大会2025 Presented by KOCHO』への協賛も、ひたむきに頑張る彼らを応援したいという純粋な思いから続けてきました。「やさしさをかたちに」という理念は、こうした地道な活動の積み重ねによって本物になっていくのだと思います。
ーー今後の組織づくりや人材育成についてはどのようにお考えですか。
渡邉俊:
これからの時代、指示を待つのではなく、自ら考えて行動できる人材が不可欠です。そのため、人事評価制度も見直し、新たな行動指針である「Kocho’s Action」を体現できる社員を高く評価し、会社として教育や成長を全力でサポートする仕組みへと変えました。また、視野を広げるために、他社の工場見学など外部との接点を積極的に設けています。実際に社員の発案で、地元の岳南電車株式会社とコラボレーションし、ペット同伴で乗車できるイベントを実現させた事例も生まれました。5年後、10年後を見据え、ペット用品メーカーという枠組みを超えて、社会課題を解決できる企業へと成長していきたいですね。
編集後記
「やさしさ」という抽象的な言葉を、ビジネスという具体的な形に変換し続ける渡邉氏。商社時代に培ったグローバルな視点と、家業が守り続けてきた地域への愛情が見事に融合している点が印象的だった。廃棄茶葉を猫砂に変えるアップサイクルの取り組みは、まさに「三方よし」の精神を現代版にアップデートしたものと言えるだろう。社員一人ひとりが社会課題を自分ごととして捉え、行動する「Kocho’s Action」が広がった先に、どのような優しい社会が実現するのか、同社の今後の展開に期待が高まる。

渡邉俊/1982年静岡県富士市生まれ。明治大学商学部卒業。2006年、双日株式会社に入社。同社にて15年間にわたり、財務部門および化学品部門の営業に従事する。2012年から2018年まではシンガポールに駐在し、海外拠点での実務経験を積む。2021年より現職。