
ハイクラス向け人材紹介事業を主軸に、業界の構造的課題に挑むsincereed株式会社。「めぐりあいを、人とテクノロジーの力で必然にする。」というミッションを掲げ、独自のプラットフォーム事業も展開する。代表取締役社長の南雲亮氏は、リクルートでの新規事業の失敗経験から「四方よし」を貫く経営指針を確立した。HR業界でAI活用が進む中、「テクノロジーはあくまで人を支えるパートナーであるべき」と語る。その信念の源泉と、同社が目指す未来について話を聞いた。
リクルート時代の失敗で学んだ「四方よし」という指針
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
南雲亮:
就職活動では、メーカーや広告、金融など、さまざまな業界を見て回りました。しかし、業界を絞ってしまうと関わる相手がある程度限られてしまうと感じていました。そんな中、友人に誘われて参加した人材会社の説明会が転機となります。
進路を模索していた私にとって、あらゆる業界の法人や個人の方と接点を持てる人材サービスの世界は、非常に魅力的に映りました。この環境ならば、広く多様な価値観に触れられると考えたのです。また、明確な商材がないからこそ「自分自身」が商品になるという、仕事の醍醐味にも強くひかれました。
そして、人材エージェントとして業界で圧倒的な強さを誇っていたリクルートグループを知りました。会社説明会に足を運ぶと、そこには「よりよいサービスをつくりたい」という共通の目標に向かって突き進む、社員たちの圧倒的な熱量がありました。その一員になりたいと強く思い、入社を決意したのです。
入社後は、同期の多くがリクルーティングアドバイザーとして配属される中、私は営業企画という珍しい配属となり、新規事業の立ち上げを任されました。取り組んだのは、従来の成果報酬型ではなく、面接課金型のサービスです。飲食店や小売店など、採用単価を抑えたい企業のニーズに応えるための挑戦でした。しかし、立ち上げ直後にリーマン・ショックが発生し、事業は大きな苦境に立たされることになったのです。
ーー新規事業において、特に難しさを感じたのはどのような点でしたか。
南雲亮:
このサービスは、ビジネスモデルそのものに難しさがありました。採用に至らなくても費用が発生するため、お客様からは「これでこの金額か」と厳しいお言葉をいただくことが少なくありませんでした。一方で、低単価で採用が決まった場合は、お客様には喜んでいただけますが、高い営業目標を追いかける営業担当者側は苦境に立たされます。
この経験から、誰かが無理をしたり、納得感を持てなかったりする仕組みでは、事業はうまくいかないと痛感しました。近江商人の「三方よし」という言葉がありますが、私は働く個人としての「自分」を加えた「四方よし」を目指すべきだと考えています。自分、会社、お客様、そして社会のすべてが幸せになる状態こそが、私が大切にしている考え方です。
社会人としての最初の数年間で、こうした非常に難度の高い現場を経験できたことは、今となっては大きな財産です。入社1年目の過酷な状況を乗り越えた経験があるからこそ、その後に直面したどのような困難も、決してあきらめずに前向きに取り組めるようになりました。
「ワクワクする」という感情に従った人生の大きな分岐点

ーーその後、社内ではどのようなキャリアを積まれたのでしょうか。
南雲亮:
新規事業が終了した後、人材紹介のキャリアアドバイザーの部署に異動しました。最初の新規事業の経験があったからこそ、転職者、採用企業、そして自社も喜ぶ成果報酬型のビジネスモデルの素晴らしさを実感できました。その後は、HRテック関連のプロジェクトに携わる機会が増えました。ビッグデータを活用して業務の生産性を上げるプロジェクトの責任者などを任せてもらい、経営層に近い立場で仕事をさせてもらえたことは、本当に素晴らしい経験で、会社には感謝しかありません。
ーー独立を決意された背景をお聞かせください。
南雲亮:
前職の株式会社リクルートキャリア(現・株式会社リクルート)には13年間勤めましたが、30代半ばを過ぎた頃から自分自身の成長に物足りなさを感じ始めたことが、独立のきっかけです。
また転職エージェント業界が全体的に、仕組みや効率を最優先するシステム主導の考え方が強まりつつある時期でもありました。もちろんそれも一つのイノベーションですが、私はあくまでエージェントという「人」が主役であり、テクノロジーはそれをサポートするパートナーであるべきだと考えていたのです。そうした事業に対する考え方の違いも、外の世界で挑戦しようと決意する大きな要因となりました。
実は転職活動も行ったのですが、他社で似た役割を担っても得られる経験は大きく変わらないと感じ、あまり心が躍ることはありませんでした。正直、起業には恐怖もありましたが、それ以上に想像できない未来へ挑戦することへの期待が勝ったのだと思います。最後は論理ではなく、「ワクワクする」という直感に従っての決断でした。実際に起業したいま、本当に良い選択だったと実感しています。
ーー創業当初、特に印象的だったご苦労はありますか。
南雲亮:
最も苦労したのは、キャッシュフローの管理です。弊社はベンチャーキャピタルなどからの資金調達をせず、自己資金と借り入れでスタートしました。しかし、最初からシステム開発に多額の投資を行ったことで、驚くほどの速さで手元の資金が減り続け、いつ倒産してもおかしくない状況に陥ってしまったのです。
この危機を乗り越えるため、私自身がこれまでの経験を活かした業務委託のコンサルティング案件を何社も請け負いました。文字通り、必死で働いてキャッシュを生み出すことに奔走したのです。このときの経験を通じて、「経営のリアル」を肌で感じることができました。
短期的な成果に縛られず品質第一で歩み続ける持続可能な成長
ーー現在の事業内容について、改めて詳しく教えていただけますか。
南雲亮:
現在は、大きく3つの柱で事業を展開しています。1つ目は、ハイクラス層を対象とした人材紹介サービスです。主に大企業への転職を検討されている方々を対象に、質の高いマッチングを提供しています。様々なエージェント企業で研鑽を積んだメンバーが、そのネットワークを活かして支援を行っているのが強みです。
2つ目は、人材紹介会社向けの求人データベースプラットフォーム「Resumee(レジュミー)」の運営です。国内に約3万事業所ある人材紹介会社の多くは小規模で、自社で開拓できる求人数に限りがあるという課題を抱えています。そこで、大企業との取引実績が豊富な弊社が保有する求人案件を、プラットフォームを介して共有できる仕組みをつくりました。これにより、小規模なエージェントの方々であっても、求職者へ対して幅広い提案を行うことが可能となります。
そして3つ目が、企業の採用活動を支援する採用コンサルティングです。人事部門の中に入り込み、戦略の設計から実務の代行まで、パートナーとしてお客様の採用課題を根本から解決へと導きます。これら3つの事業を通じて、HR業界全体の価値向上を目指しています。
ーー今後の展望についてお話いただけますか。
南雲亮:
今後5年以内に、日本のハイクラス層向けのキャリア支援カンパニーとして、トップ3に入るという目標を掲げています。現在、転職を検討する方は年間1000万人規模に増え、企業側も中途採用を通じたイノベーションの加速を重視するなど、私たちエージェントに求められる役割はますます大きくなっています。
ただ、規模の拡大だけを目指すわけではありません。私たちが最も大切にしているのは、企業の志と求職者の想いを誠実につなぐことです。利益率が高いビジネスモデルだからこそ、安易に利益のみを優先せず、企業と求職者、双方にとって最良のマッチングを実現することに徹底してこだわります。
また、私たちは外部からの資金調達をしていないため、短期的な成果に追われることなく、サービスの品質を第一に考えながら持続可能な成長が可能です。これからも組織のスピード感を自分たちでコントロールしながら、関わるステークホルダーにとって価値ある存在へと進化を遂げていく。それが、私たちが描いている未来の姿です。
編集後記
南雲氏が語る「四方よし」という言葉には、新卒時代の原体験に裏打ちされた確かな重みがあった。「顧客」・「社会」・「自社」・「自分自身」のすべてが幸福でなければ事業は続かない。このシンプルな真理を、同氏は決して揺るがない軸としている。テクノロジーの進化が加速するHR業界において、あくまで「人」を信じ、その可能性を最大化しようとする誠実な姿勢は、同社が目指す未来像を明確に示している。

南雲亮/1985年生まれ。明治大学商学部卒業後、2008年に株式会社リクルートキャリアへ入社。キャリアアドバイザーやマーケティング企画職を経て、リクルートエージェントの事業企画、プロダクトマネジメント、およびDX推進のマネジャーを経験。その後、HRテクノロジー領域の新規事業開発に従事し、SaaSプロダクト「リクナビHRTech」の立ち上げに参画。同事業の新規事業開発およびエージェントサービス企画部長を歴任する。2021年、sincereed株式会社を創業。