
埼玉県川越市に本社を置き、LIXILの販売パートナー「マドリエ」として住宅資材販売を手がけるe-cubeホームテクノ株式会社。その実態は住宅資材販売に留まらず、介護、美容、海外事業と、柔軟に領域を広げる多角経営を実践している。指揮を執る代表取締役の榎本広行氏は、20代をプロのレーシングドライバーとして過ごした経歴を持つ人物だ。一見、無関係に見える事業展開の裏には、レーシングドライバー時代に培われた客観的な視点と、「単一事業への固執」への強い危機感に基づいた生存戦略があった。
レーシングチーム運営で学んだ「資金調達」と「マネジメント」の原体験
ーーキャリアの出発点と、なぜモータースポーツの世界に身を投じたのか教えてください。
榎本広行:
18歳でトーヨーサッシ株式会社(現・株式会社LIXIL)に入社、建材商売の基礎を叩き込まれました。しかし、元々好きだった車の世界を諦めきれず、21歳で自動車関連の会社を立ち上げ、実業家と、プロレーシングドライバーとして歩みだしました。
レースは単なる趣味ではなく、過酷なビジネスそのものでした。自らスポンサーを回り資金を集め、メカニックやスタッフを束ねてチームを運営するマネジメント能力が不可欠だったからです。この「目的のためにリソースをかき集めて結果を出す」というプロセスは、今の会社経営の基盤になっています。
ーーそこからなぜ、住宅資材の世界に戻ったのでしょうか。
榎本広行:
プロとして走る中で、才能の限界を感じたのと景気後退による業界の衰退を感じたのが最大の理由です。レースの世界で一生食えるのは一握り。地に足の着いた実業に戻るべきだと判断しました。そして1999年、住宅資材販売事業で会社を設立。この領域を選択したのは、経験を活かして、自分が最も勝算を持てると判断したからです。
住宅×介護 点と点がつながる「必然」の多角化
ーー住宅資材販売から介護や美容へ事業を広げている理由についてお聞かせください。
榎本広行:
一つの業種に固執するのは、変化の激しい現代では「死」を意味するからです。私が重視するのは「成長産業であること」と「本業との接点」の2点。たとえば、参入した介護事業は一見、建材とは無関係です。しかし、利用者様の「自宅に手すりをつけたい」「段差をなくすスロープをつけたい」という要望は、そのまま本業のリフォーム案件に直結します。介護保険の申請から施工まで自社で完結できる。これは住宅会社、介護事業所、双方にとって強力な武器になります。
ーー美容や海外事業については、どのような点がリンクしているのでしょうか。
榎本広行:
これらは「人材」と「商流」の活用です。弊社では10年前からベトナム人の技能実習生を受け入れていますが、彼らが帰国した後の雇用先として現地法人をつくりました。そこでLIXILの現地法人と連携し、建材販売を行っています。
美容事業で協力事業として扱う「使い捨てタオル」も、ベトナムでの活動によってコネクションが生まれ商品化しました。美容サロン等の負担を減らす仕組みとして、さまざまな事業経験で培ったノウハウを転用して製造しています。一見、関連性がない事業も、すべては「人」と「仕入れルート」でつながっているのです。
遊び心と危機感 「常識」の枠を超え続ける未来戦略

ーー住宅事業において、現在温めている新たな構想はありますか。
榎本広行:
新たな挑戦として、大人の遊び心を形にする体験型ショールームを展開しています。近年、自分だけの趣味の空間を持ちたいという需要が高まっていますが、図面だけでは具体的なイメージが湧きにくいものです。そこで、実際に車やゴルフシミュレーターなど、大人の遊び道具を詰め込んだ空間をつくり、お客様に一日貸し出して遊んでいただくことにしました。
実際に体験することで、「こんな空間が自宅に欲しい」という具体的な想像を膨らませてもらう。単に家を売るのではなく、その先にある豊かな時間を提案し、潜在的なニーズを掘り起こしていきたいと考えています。
ーー今後、どのような組織を目指して会社づくりを進めるのでしょうか。
榎本広行:
一つの業種に固執するのは危険だと常々考えています。一つの業界だけに絞ってしまうと、どうしても業界の常識という偏った見方がかかり、新しい情報や異質なアイデアが耳に入らなくなってしまいます。それは変化の激しい現代において、経営上の大きなリスクです。だからこそ、私はあえて異なる業種へ参入し、多様な視点を取り入れるようにしています。介護や美容、海外事業など、違う分野のスタッフが集まることで、社内に新しい風が吹き、柔軟な発想が生まれるのと、私自身にも刺激になるからです。
目指すのは、社長がいなくても社員一人ひとりが考え、自走する組織。偏りをなくし、常に新しい空気を取り入れ続けることこそが、長く必要とされる企業であり続けるための条件のひとつだと信じています。
編集後記
「同じ場所に留まることは、リスクでしかない」。榎本氏の言葉には、レーシングドライバー時代に培った、瞬時の判断で状況を打開してきた勝負師の考えが宿っている。住宅業界の枠を超え、介護や美容、海外事業、そして遊び心あふれるガレージハウスへと事業を展開するその姿勢は、単なる多角化ではない。組織に異質なものを取り込み続けることで、硬直化を防ぎ、常に新陳代謝を促すための生存戦略なのだ。同社の進化は、さらなる成長を目指すすべての企業にとって、一つの道標となるはずだ。

榎本広行/1967年埼玉県川越市生まれ。埼玉大学中退。1986年にトーヨーサッシ株式会社(現・株式会社LIXIL)へ入社。3年間の勤務を経て1989年に独立。その後10年間は「連続起業家」として、自動車関連、マリンスポーツ事業、不動産事業など多岐にわたる事業の設立と売却を手がける。また、1992年から1996年にかけてはレーシングドライバーとしても活躍するなどの経歴を持つ。1999年に住宅資材販売会社 株式会社えのきトーヨー住器(現・e-cubeホームテクノ株式会社)を設立。設立以降、徐々に事業領域を拡大し、2011年の介護事業参入を皮切りに、フィリピン・セブ島での観光事業、美容事業、ベトナム進出などの海外事業を展開。現在も多角的な視点でビジネスを創出し続けている。