※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

ITコンサルティングを軸に、大手企業のプロジェクトを数多く成功に導く株式会社Grant。同社を率いる代表取締役社長CEOの井上真生氏は、開発職での挫折を経てコンサルタントへ転身。さらにM&Aアドバイザリーの現場を通じて、数多くの企業変革に向き合い、経営の最前線を間近で見続けてきた人物だ。そうした経験の中で、自身の幸福の在り方を問い直し、たどり着いたのが「願いを叶える、叶えさせる」という創業理念である。事業モデルそのものよりも、「誰とやるか」「どんな組織であるか」を重視する井上氏。その軌跡と、組織づくりに込めた思いをひもとく。

開発職での挫折から見出した「顧客と向き合う」価値

ーー大学卒業後のキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

井上真生:
新卒で大手IT企業に営業職を志望して入社しました。ところが、実際に配属されたのは開発職。ITの専門知識はほとんどなく、基礎の基礎から学ぶような状態でした。周囲には、優秀な先輩たちが泊まり込みで仕事に打ち込む姿があり「自分よりできる人が、自分よりもはるかに努力している」という現実を突きつけられました。正直なところ、最初は大きな挫折感を味わいました。それでも「ここで辞めたら負けだ」という意地のようなものだけを頼りに、必死に食らいつきました。

ーーキャリアの転機となった出来事について教えてください。

井上真生:
ある時、トラブル対応が求められていたお客様先に常駐する機会がありました。そこで初めて、エンドユーザーのリアルな反応に触れたのです。それまでは自分の仕事の先にいる相手を、PC画面の向こう側としてしか捉えられていませんでした。しかし、ちょっとした機能改善が業務の前進につながったり、不具合ひとつで現場が大きく混乱したりする様子を目の当たりにし、自分の仕事が誰かの意思決定や行動に直接影響していることを実感しました。そこで初めて「価値を提供する」ということの重みと手応えを感じたのです。

この経験をきっかけに「お客様と直接向き合い、その人が思い描いている理想を、現実に近づけていく仕事がしたい」と考えるようになり、コンサル部門への異動を希望しました。異動後は開発経験で培った技術知識が強みとなり、「顧客と対話できてシステムの中身も理解している」という独自の立ち位置を築くことができた。それが評価につながったのだと思います。

経営者への道 M&Aの現場で覆された起業の固定観念

ーー30歳でM&Aアドバイザリーの会社に転職された背景を教えてください。

井上真生:
理由は大きく二つあります。一つは、成果がそのまま評価に返ってくる、実力主義の環境で自分の力を試したかったこと。もう一つは、以前から経営者を志しており、より経営に近い立場で、企業の意思決定に踏み込む提案ができる仕事に挑戦したいと考えたからです。転職先は、各業界のトップセールスが集まる非常にレベルの高い組織でした。非営業職からの転職は私一人という異例の採用で、最初は思うように成果が出ずかなり苦労しました。

ーー起業を決意した、最大のきっかけは何だったのでしょうか。

井上真生:
M&Aの仕事を通じて、何千社もの中小企業を調査する機会がありました。その中で得た一連の「気づき」が、起業を意識するようになった最大のきっかけです。

まず感じたのは、世の中には革新的な発明や突出した技術がなくとも、目の前のお客様と真摯に向き合いながら、着実に成長している会社が数多く存在するという事実でした。それまで私は「起業するには、Appleのような圧倒的にイノベーティブな何かが必要だ」と、どこかで思い込んでいたのだと思います。

さらに、多くの経営者と直接お会いする中で、自分の中にあった「社長像」も大きく影響を受けました。経営者の在り方は実に多様で、必ずしも特別な才能やカリスマ性を備えた人だけが経営者なのではない、ということを実感したのです。

こうした気づきを重ねるうちに、「社長とは特別な存在だ」という思い込みは少しずつ外れていきました。そして、「自分にも挑戦できる余地があるのではないか」と感じるようになり、起業への心理的なハードルが一気に下がったのです。

幸福度の追求と創業理念 「誰とやるか」を問う組織論

ーー起業にあたり、どのような「想い」を最も大切にされましたか。

井上真生:
年収が上がり、責任ある立場を任されるようになっても、自分の幸福度は思ったほど高まっていない――そんな違和感を抱くようになりました。振り返ってみると、開発の現場でも、コンサルタントとして働いていた時も、本当にやりがいを感じていたのは、誰かの前進を後押しできた、あるいは願いの実現に少しでも貢献できたと実感できた瞬間でした。

その気づきが「自分は何のために働き、何を大切にしたいのか」を改めて考えるきっかけとなり、会社を立ち上げる決意へとつながりました。そんな決意を抱いて創業したGrantという社名には「自分も家族もお客様も大切な人の願いを叶え、理想の実現を支えられる存在でありたい」という想いを込めました。

ーー創業後の最初の仕事は、どのようにして決まったのですか。

井上真生:
起業した当初は、明確な事業アイデアがあったわけではなく、自分にできる仕事はないかと各地を回る日々でした。そんな中で声をかけていただいたのが、強いご縁のあるお客様でした。新卒で入社した会社のコンサル時代に初めて担当し、その後M&Aアドバイザリー時代にも初受注をいただいた、福岡の病院です。創業のご挨拶に理事長のもとを訪ねた際、「君が導入したシステムに、君が提案してきた病院の制度を組み合わせるのは君の仕事だろう」と声をかけていただきました。こうして、創業後最初の仕事が決まりました。

ーーこれまでのご経験を通じて、組織づくりで最も重視していることは何でしょうか。

井上真生:
私は一貫して「何をやるか」よりも「誰とやるか」、そして「どんな組織であるか」を重視しています。事業内容は環境や時代の変化によって変わっていくものです。だからこそ、どんな事業に挑戦するにしても、その土台となる組織文化が健全であることが重要だと考えています。優れた組織文化さえあれば、形を変えながらでも成長し続けることができる。それが、これまでの経験から得た確信です。

その考え方は、結果として現在の事業にも表れています。弊社は中小企業でありながら、超大手企業のプロジェクトを数多く任せていただいてきました。これは、特別な戦略があったというよりも、社員一人ひとりが現場で価値提供を積み重ねてきた結果だと捉えています。そうした日々の積み重ねが組織としての信頼につながり、その信頼が、営業力や技術力、提案力として結実している。それが、Grantの強みです。

100名の壁を超えて描く次世代育成と成長戦略

ーー今後の事業展開における注力テーマを教えてください。

井上真生:
主に三つのテーマに注力しています。

第一に「経営幹部の育成」です。会社が成長し拠点や取引先が増えていくと、事業全体の複雑性は一気に高まります。その変化に対して幹部の育成が追いつかなければ、判断の質やスピードが落ち、やがて管理不全を招いてしまう。結果として、お客様や社員にしわ寄せがいくことになります。そうした事態を防ぐためにも、持続的な成長を見据えて幹部の育成に力を入れています。

第二に「管理部門の体制強化」です。今年、ホールディングス化に踏み切ったのも、組織の成長に構造が追いつくようにするためでした。グループ全体の経営効率を高めるべく、経営管理本部のような機能を集約・高度化し、各社へのガバナンス強化を進めています。

第三に「人材採用の強化」です。これは単なる人数の拡大ではなく、会社としてのブランディング強化とほぼ同義だと考えています。継続的に良い人材と出会うためには、私たちがどんな価値観を持ち、どんな文化を大切にしている会社なのかを、言葉にして発信し続ける必要があります。前期から新卒採用も開始しましたが、こうしたメディアでの発信も採用ブランディングの重要な一環だと捉えています。

これらの取り組みはすべて、組織が次の成長段階へ進むための準備です。社員数が100名に近づく中で、いわゆる「100名の壁」に直面しています。これまで機能してきた属人的でウェットな関係性だけに頼るのではなく、根底にある人への敬意や愛情は大切にしながらも、より仕組み化された、再現性のある組織へと進化させていきたいと考えています。

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

井上真生:
本業で培ってきた知見や資金は、次なる成長に向けたチャレンジへ積極的に投資していく方針です。その一つがM&A戦略。事業領域や人材の幅を広げることで、単なる規模拡大ではなく、グループ全体としての成長スピードと選択肢を一段引き上げていきたいと考えています。

M&Aを通して既存事業と掛け合わせて新たな価値を生み、次の挑戦につなげていく。その循環をつくることで、チャレンジが連鎖的に生まれる組織を目指しています。こうした挑戦の場には積極的に社員を送り込み、事業責任者や経営的な役割を担ってもらうことも意識しています。

成長フェーズが変わる中で、人事評価制度の見直しも進めています。会社の成長スピードに対して、評価や報酬の仕組みが追いつかなければ、挑戦は生まれません。成果や役割の変化を正しく評価し、次の挑戦へと背中を押せる制度へとアップデートを続けています。これからも社員の成長を起点に、私たちならではの進化を加速させていきます。

編集後記

開発職での挫折から始まった井上氏のキャリア。しかし、その後の道のりで得た経験と気づきが、独自の経営理念を生んだ。事業モデルではなく、人と組織の力を信じ、社員の願いを叶えることを自らの使命とする。その視線はコンサルティングの枠を越え、宇宙という壮大なフィールドへと向けられている。同社の挑戦はこれからも続いていくだろう。

井上真生/九州大学を卒業後、応募4万人の中から最優秀賞の成績で大手IT企業へ入社。大規模ERPシステムの製品開発本部で開発技術を身につけた後、コンサル部門にて大企業の業務改革を支援しシステムと業務の両方に精通。2016年、株式会社日本M&Aセンターに入社し、多数のM&Aを成約に導く中で営業経験を磨く。2019年に株式会社Grantを創業し、代表取締役社長CEOに就任。中小企業では困難と言われる大企業案件を次々と受注・成功させ、業界屈指の急成長率を牽引する。