
光学レンズで培った超精密技術を基盤に、産業用インクジェットヘッドの生産を手がけるコニカミノルタIJプロダクト株式会社。同社はコニカミノルタグループの一員として、高度なものづくりを支えている。代表取締役社長の金子真一氏は、過去の苦しい経験から、「何をするにも、すべては人」という確固たる信念を持つに至った。従業員一人ひとりが笑顔で前向きに働ける組織こそが、会社の未来をつくると語る同氏。その思いの原点と、未来を担う人財に向けたメッセージを聞いた。
強い組織をつくるための原動力
ーー社長のキャリアの原点についてお聞かせください。
金子真一:
学生時代は経営工学を専攻し、品質管理や生産管理等の管理技術を学んでいました。その知識を生かしてものづくりに携わりたいという思いで、1986年にコニカミノルタ株式会社の前身である小西六写真工業株式会社に入社したのが始まりです。社名や事業内容は時代と共に変化してきましたが、一貫してコニカミノルタグループでキャリアを歩んできました。
ーー社長に就任された際は、どのようなお気持ちでしたか。
金子真一:
正直なところ、全く自信はありませんでした。以前、別の関係会社に出向していた際、組織のトップとして働くことの難しさを間近で見てきました。その経験があったからこそ、その責任の重さを痛感し、「自分にできるだろうか」という不安が大きかったです。
社長という立場は、責任が非常に重いものです。従業員はもちろん、そのご家族の生活まで背負うことになります。会社の方針によって、信頼を得ることもあれば、失うこともある。だからこそ、組織の事情ばかりを優先するのではなく、従業員やその家族のことを第一に考えて取り組まなければならないと、強く心に刻みました。
逆境から生まれた組織改革への思い
ーー現在の組織風土は、どのようにして生まれたものなのでしょうか。
金子真一:
弊社が大切にしているのは、働く一人ひとりが笑顔で前向きに、やりがいと自信を持って取り組める「活気ある人財集団」としての風土です。こうした考えに至った背景には、私が10年ほど前に弊社へ着任したときに経験した、ある大きな苦い経験があります。
当時、当社工場で長年育ててきた、とある事業の生産を海外工場に移管することになり、生産を終了しなければいけない状況に直面しました。そのとき、私は3つのことを痛感し、反省しました。1つ目は、社内に「見えない壁」ができてしまったこと。海外工場へ事業を移管する部署と、これから事業拡大を目指す勢いのある部署との間に温度差が生まれ、組織がバラバラになってしまいました。2つ目は、社内に漂う「不安感」です。「自分が携わる事業も、もしかしたらまたどこかへ移管されてしまうのではないか」という不安に似た雰囲気も漂い、前に進もうとする活気が失われている状態でした。そして3つ目は、未来のリスクを見据え、日本でものづくりを続けるための改革に悔いなく本気で取り組んでこられただろうか、という点です。
こういった経験から、二度と同じことを繰り返してはならないと誓い、現在の組織運営に反映してきました。売上高や生産性も大事だが、何より、従業員が自信にあふれて働いている姿になっていれば、結果は必ずついてくる。そう信じて、未来のリスクに真剣に向き合い、他社に真似できない強さを一人ひとりの活気によってつくり出す組織と風土を追い求め続けています。
技術と文化をつなぐ次世代への期待

ーー今後の人財戦略について、どのような展望をお持ちでしょうか。
金子真一:
何よりも、人を育て、未来へつないでいくことが重要だと考えています。かつて景気の変動により採用を絞っていた時期があり、その結果、組織の年齢構成に偏りが生まれてしまいました。このままでは、技術や文化の継承が難しくなってしまいます。
だからこそ、まずは新卒・中途を問わず、人財をしっかり採用すること。そして、入社した一人ひとりと「キャリアデザイン」を丁寧にすり合わせる仕組みを整えています。会社が一方的に期待を押しつけるのではなく、本人がどうなりたいかという希望を聞き、お互いに腹落ちした方向を目指して成長を支援していく。そうしたプロセスを経て、誰もが「ここで働き続けたい」と思えるような会社にすることが、私の使命だと考えています。
ーー貴社において具体的にどのような人財が力を発揮できるとお考えですか。
金子真一:
コニカミノルタグループ全体で取り組んでいることでもありますが、組織の力を最大限に引き出せる「エンパワーメントリーダー」です。現場では多様な方々が働いていますから、一人ひとりと真摯に向き合い、信頼関係を築きながらチームをまとめられる人であってほしいですね。
もちろん、ITやDXといった専門的なスキルを持った方も大いに歓迎します。しかし重要なのは、周囲と協力し、共により良いものづくりを追求しようとする姿勢です。弊社では、生え抜きの社員か中途採用かといった区別はいっさいありません。弊社では「サクセッションプラン(後継者育成計画)」を運用しており、その対象にはキャリア採用で入社したのち、実力を発揮して経営幹部を担う人財も含まれています。意欲と実力次第で、いくらでも上のポジションを目指せるチャンスがあります。
ーー最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
金子真一:
技術がどれだけ進歩しても、それを使いこなし、価値を生み出すのはいつの時代も「人」です。私たちが目指す、笑顔で活気にあふれる組織風土は、お金で買うことはできず、一朝一夕に出来上がるものでもありません。難しいことだからこそ挑戦する価値があり、それが実現できたとき、他社には真似できない本当の強さになると信じています。私たちの思いに共感し、一緒に未来をつくっていきたいという方との出会いを楽しみにしております。
編集後記
主力事業の海外移管という逆境のなかで、同氏が見つめ直したのは、数字だけではなく「働く人の心」だった。一人ひとりと向き合い、共に未来を描く。その地道な積み重ねが、何物にも代えがたい組織の強さを生んでいる。困難を乗り越えたからこそ辿り着いた「すべては人」という信念は、単なるスローガンではなく、同社の確かな競争優位性そのものであると感じた。個人の意欲が組織の力となり、それがさらなる技術革新や顧客価値へとつながっていく。人を中心とした組織運営を貫く同社の挑戦の先には、まだ見ぬ新しい価値を創出し続ける未来が広がっている。

金子真一/1964年東京都生まれ、東京理科大学卒業。1986年小西六写真工業株式会社に入社し、感光材料生産技術、光学事業の事業企画を経て、2016年にコニカミノルタオプトプロダクト株式会社の代表取締役社長に就任。2022年コニカミノルタIJコンポーネント事業部生産部長 兼 コニカミノルタケミカル株式会社の代表取締役社長に就任。2023年コニカミノルタIJプロダクト株式会社の代表取締役社長に就任。各拠点を飛び回って後進の育成に力を注ぐ。