※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

過去の壮絶な裏切り経験から「人の言うことは信じない」という確固たる信念に行き着き、独自の採用基準と評価制度を構築した株式会社オレコン代表取締役社長の山本琢磨氏。Amazonを徹底的にモデリングした原体験から始まり、ゲリラマーケティングと科学的分析を武器に事業を展開している。さらには「教育は自分の劣化版コピーが生まれるだけ」という独自の信念からあえて手厚い教育を排除し、24時間フルリモートと組み合わせることで、個人のパフォーマンスを最大化させる仕組みを構築している。経営トップをも客観的なデータで評価できる独自の制度を通じて、企業の生産性を根底から高めたいと語る山本氏に、その生存戦略と組織づくりの全貌を聞いた。

「細部への執着」とWebの即時性に魅了された原点

ーーまずは、起業の原点となるご経験から教えてください。

山本琢磨:
ブランド洋食器店「ル・ノーブル」に勤めていた頃、通販の担当になったのが大きな転機でした。当時は新聞のチラシなどで広告を出していましたが、企画からデザインを作成し、実際に反響が分かるまでに何ヶ月もかかっていました。しかし、Webサイトの担当になり、少し修正すればすぐに結果が返ってくるというWebの即時性に魅了され、その面白さに気づいたのです。この実感が、私自身の起業を決意する原点となりました。

ーーそこからどのように売上高を伸ばしたのでしょうか。

山本琢磨:
当時、Amazonが「ワンクリック購入」の特許を持っており、購入までのステップ(クリック数)が少ないほど購入率が上がるという論文のデータがありました。私はその構造を徹底的にモデリングし、不要な表紙ページなどを省いて、お客様がすぐに商品をクリックして購入できるような仕組みを再現したのです。その結果、売上高が3倍ほどに跳ね上がりました。この細部への執着と、Amazonの徹底的なモデリングこそが、現在の事業が始まった出発点です。

1億円の持ち逃げ 裏切りから生まれた「仕組み」への信頼

ーー独立後、事業は順調に進んだのですか。

山本琢磨:
実は、共同経営者に裏切られるという壮絶な過去を経験しました。知人と一緒にマーケティング支援の会社を立ち上げ、半年で1億円の売上高を立てたのですが、いざ次のプロモーション費用を使おうとしたら、口座に1000万円も残っていなかったのです。共同経営者がお金を引き出しており、私は給料も払えないような状態に追い込まれました。この1億円を持ち逃げされた経験が、私の中での大きなターニングポイントになり、「人の言うことは信じない」という信念を持つに至りました。

ーーその絶望的な状況をどう乗り越えましたか。

山本琢磨:
個人的な恨みや「復讐してやろう」という感情で頭がいっぱいになりましたが、それを打ち消すためにオーディオブックを活用しました。オーディオブックを2倍速で聴き続けることで、常に耳からビジネスやマーケティングの情報を強制的に入れ込みました。聞くのに必死で考える時間をなくしたのです。これが感情を捨てるための極めて合理的な解決策として機能し、その困難を乗り越えることができました。

ーーその経験は、今の経営にどう影響していますか。

山本琢磨:
当時の共同経営者は親族に近い知人で、家族ぐるみの付き合いもあり、さらには大変な資産家でもありました。そのため、当時の私は「これだけお金持ちなのだから、金銭面で問題が起きるはずがない」と安易に判断し、相手を盲信してしまったのです。

この手痛い失敗を経て、自分のポンコツさ、自分の見る目のなさを痛感しました。そして、「人」を盲信するのではなく、「仕組み」を徹底して信頼するという、現在の私の経営スタイルが確立されました。その結果、人の感覚を完全に排除し、面接をすべて録画してデータに基づいた採用基準と評価制度という仕組みを構築したのです。

ゲリラマーケティングと「教育しない」組織論

ーー貴社のマーケティング支援の独自性はどこにあるのでしょうか。

山本琢磨:
私たちは、一般的な会社がやらないようなゲリラマーケティングと科学的分析を使います。たとえば、AIによるレビュー分析を行い、競合商品の有効成分が少ないといった、人間が言語化できない裏のニーズを突いて商品を改善したり、放置されていた星1のレビューに徹底的に返信したりするといったアナログなリーチも重視しています。

これにより、成約率が10倍になった事例もあります。「マーケティングは隠すもの」という言葉の通り、表面的な情報だけでは他社と差別化できません。顧客の隠れた不満を分析して商品ページの細かな文言を改善するといった緻密な施策と、人間が言語化できないニーズを突く視点と泥臭い手法を組み合わせているのが私たちの強みです。

ーー組織づくりについてはどのような方針を掲げているのですか。

山本琢磨:
社員の教育はしていません。「教育は自分の劣化版コピーが生まれるだけ」という事実に気づき、手厚い教育を排除しました。私が直接教えると、前例を超えることができなくなってしまうからです。そのため、答えは自分や上司以外から得るべきだと考え、社員には毎週自力でリサーチさせ、その結果を引き継ぐことを評価しています。これが物事の本質を突く「第一原理思考」(※)のトレーニングになっています。

(※)第一原理思考:既存の前提や常識を捨て、物事を物理的な真実や最も基礎的な要素まで分解し、そこから再構築する思考法。

ーー貴社で実践している働き方についても教えてください。

山本琢磨:
「24時間フルリモート」という方針を打ち出しています。これは、単に「自由な働き方ができる」という話ではありません。実は私自身、導入前は「みんなサボるのではないか」と疑っていた一人でした。しかし、監視カメラや管理ツールで社員を見張るのは無駄の極みです。

そこで私たちがたどり着いたのが、監視ではなく「正当な評価」で解決する方法です。一円単位で明確に設定された評価基準をクリアすれば、時給が上がる仕組みをつくり、上司への忖度を完全に排除するための合理的な仕組みを整えました。これにより、個人のパフォーマンスを最大化しています。

ーー最後に、今後のビジョンをおうかがいできますか。

山本琢磨:
劣化版をつくらないための「自力リサーチ」を評価するこの独自の評価制度を、より多くの企業に導入していただき、社会実装していきたいと考えています。評価や採用のPDCAデータを蓄積し、生産性の低いと言われる日本の働き方をゲームのように楽しく、かつ生産性の高いものに変えていきたい。役員や経営トップをも客観的なデータで評価できる仕組みを世に広め、企業経営における属人性を排除することで組織の生産性を根本から高め、働くことの意味合いそのものをアップデートするのが私の目標です。

編集後記

壮絶な裏切りという過去を「仕組みへの信頼」へと昇華させた山本氏の言葉には、徹底した合理主義とビジネスへの深い洞察が宿っていた。人の感覚や感情に依存せず、顧客の隠れた不満から商品ページの文言を改善する緻密な施策や、科学的なアプローチで勝負する姿勢は、まさに「マーケティングは隠すもの」という鋭い洞察を体現している。手厚い教育を手放し「自力リサーチ」を評価することで劣化版をつくらない自律型組織を実現した同社が、今後どのように評価制度を社会実装し、日本の生産性をハックしていくのか、その未来から目が離せない。

山本琢磨/1978年生まれ、京都府出身。デジタルマーケター、グロースハッカー、ビジネス効率化のエキスパート。2013年に株式会社オレコンを設立。これまでにWebデザイン、マイクロコピー、トラストフォーマットなど、ウェブページのA/Bテストやデータ分析に裏付けた改善方法で多くの企業にトレーニング、企業研修を実施。