※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

極細の銅線を幾重にも編み上げる独自の技術で、自動車産業をはじめとする日本のものづくりを支える株式会社別処電線製造所。特に自動車のモーター内部に用いられる「カーボンブラシ用リード線」では、国内トップクラスのシェアを誇る。しかし、主要取引先である自動車業界が大きな変革期を迎える中、同社もまた新たな挑戦の時を迎えている。伝統的な電線業界の常識にとらわれず、次代の柱となる事業を模索する代表取締役、別處了太郎氏。その挑戦の根底にある「前例に囚われずやってみよう」の精神と、会社の未来にかける思いを聞いた。

現場から経営へ 創業の地・大阪で育まれた若きリーダーの原点

ーー代表に就任されるまでのご経歴についてお聞かせください。

別處了太郎:
子どもの頃から、いずれは会社を継ぐのだろうと考えていました。自宅と工場が一緒で、常に父が仕事をする姿を隣で見て育ったことが原体験となっています。大学を卒業後に入社し、最初の2年間は製造現場に入りました。その後、品質管理、営業とすべての部署を経験し、会社全体の「モノとお金の流れ」を学びました。特に製造現場で培った知識は、お客様に製品の仕様や技術的な強みを説明する営業の仕事において、何事にも代えがたい大きな武器になったと感じています。

ーー経営者としての視点はどのように養われたのでしょうか。

別處了太郎:
専務に就任してからは、当時社長であった父(現会長)と共に経営に携わるようになりました。銀行が主催するビジネススクールにも通わせてもらい、異業種の経営者仲間との交流を通じて多くのことを吸収しました。専務として12年間、経営の実務を学び、2023年に代表取締役に就任しました。ちょうど電線業界が大きな過渡期を迎えるタイミングでのバトンタッチとなり、会社を存続させ、従業員とその家族の生活を守っていくためにトップとして何をすべきか、より強く、深く考えるようになりました。

原材料高騰とEVシフトの波を越え 付加価値の創造へ舵を切る覚悟

ーー電線業界が「過渡期」にある、とは具体的にどのような状況でしょうか。

別處了太郎:
電線は古くからある基礎的な製品であり、長年「安い価格」で取引されることが常識とされてきました。しかし近年、原材料である銅の価格が5年前の倍以上に高騰するなど、製造コストが急激に上昇しています。かといって、その上昇分を製品価格にそのまま転嫁するのは非常に難しいのが現実です。海外製の安価な製品に切り替えるお客様も多く、従来のビジネスモデルに固執していては生き残れません。同業の経営者と集まっても、やはり「今のままでは厳しい」という話になります。

ーーその厳しい事業状況を乗り越えるために何が必要だとお考えですか。

別處了太郎:
やはり、新しい発想でこれまでとは違う「付加価値」を提供していく必要があると考えています。弊社の場合、極細線や細い銅線を撚り合わせたり、編み込んだりする技術に確かな自信があります。特に、極細線を「編む」技術を持つ会社は国内でも少なく、高い柔軟性や屈曲性が求められるEV(電気自動車)関連の部品などに、この技術が活用できるのではないかと考えています。実際、展示会などを通じて、これまで接点のなかった業界の方々から注目していただく機会が増えてきました。

0.03mmの極細線が生み出す 他社が真似できない唯一無二の価値

ーー貴社ならではの技術的な強みをお聞かせください。

別處了太郎:
最も細いものでは0.03mmという、髪の毛よりも細い線を扱える技術力です。そうした極細線を束ねて撚ったり編んだりすることで、非常にしなやかで柔らかい電線をつくることができます。また、お客様の「もう少し硬くしてほしい」「もっと柔らかく」といった細かな要望に応え、同じ構成の製品でも5種類ほどの「つくり分け」を行うこともあります。1kgといった小ロットの注文にも対応できる点も、大手にはない弊社の強みです。

ーー機械生産でありながら、なぜそのような細かなつくり分けが可能なのでしょうか。

別處了太郎:
製品そのものは機械がつくりますが、その日の気温や湿度によって微妙に変わる機械の設定は、熟練の職人が長年の経験と感覚を頼りに調整しています。この微細な調整こそが、品質を大きく左右するのです。他社ではなかなか真似のできない、まさに「職人技」といえる部分です。このアナログな技術力があるからこそ、お客様一人ひとりの細かなニーズに完璧に応えることができています。

ーー主力製品は、私たちの身近な暮らしの中で、どのように使われているのでしょうか。

別處了太郎:
主力製品は、自動車のウインドウやワイパーなどを動かすモーター内部にある、「カーボンブラシ」という部品に使われるリード線です。弊社の売り上げ構成でも約65%から70%が自動車用カーボンブラシが占めており、国内トップシェアを誇っています。その他、家電製品や家庭用のブレーカー、各種産業機械など、多くの電気機械製品に弊社の電線が組み込まれ、社会のインフラを支えています。

「とりあえずやってみよう」の精神で常識を打破し、新領域を切り拓く

ーー自動車業界以外の新規顧客開拓は、どのように進められていますか。

別處了太郎:
約10年前から、電線を「加工」した製品の取り扱いを始めました。きっかけは、長年取引のある外注加工メーカーが新しい加工機を導入したことにあります。それまではお断りしていた加工の仕事も「とりあえずやってみよう」と始めたところ、EVやデータセンター、メガソーラーといった成長分野のお客様から少しずつお声がけいただくようになったのです。特に展示会では、素材の供給だけでなく加工まで手掛けている点が、お客様の目に留まりやすいと感じています。

ーー固定観念にとらわれない製品開発のエピソードはありますか。

別處了太郎:
業界には「電線は丸いもの」という常識があります。ある時、お客様から「四角い電線はつくれないか」という相談を受けました。社内にはそんな発想はなかったので驚きましたが、これも「とりあえずやってみよう」と挑戦しました。四角く成形するための金型に投資して試作したところ、非常に精度の高い綺麗なものができました。「できない」と決めつけず、まずは挑戦してみる。そうした姿勢こそが、新しい技術や製品を生み出すきっかけになると確信しています。

ーーお客様とはどのようなパートナーシップを築いていきたいですか。

別處了太郎:
これまでは単なる「部材の仕入れ先」という関係でしたが、これからはお客様と一緒になって新しいものづくりに挑戦していきたいです。お客様が持つ技術と弊社の技術を組み合わせれば、今まで考えられなかったような面白いものが生まれるかもしれません。共に新しい価値を創造していく「共創パートナー」として、より強固な関係を築いていきたいです。

従業員と家族の幸せを守り抜くため 次代を担う新たな事業の柱を築く

ーー会社を成長させていく原動力、その根底にある思いは何でしょうか。

別處了太郎:
従業員とその家族を幸せにしたい、という思いに尽きます。かつて自動車業界の成長と共に会社が大きく伸びた時期、従業員は皆、幸せそうな顔をしていました。しかし、コロナ禍や世界情勢の不安定化で仕事が減った時期は、皆に不安な思いをさせてしまいました。会社が成長し、安定した経営基盤を築くことが、従業員の幸せに直結します。そのために、私自身も新しい挑戦を続け、会社を大きくしていきたいと考えています。

ーー今後の事業展開と、注力されている分野について教えてください。

別處了太郎:
現在は売上の多くを自動車用リード線が占めています。今後はこれに代わる事業の柱を、新たに2本は構築したい考えです。その有力な候補として、大きな可能性を秘めた「データセンター関連事業」に注目しています。1案件の規模が大きく、弊社の売上を底上げする原動力になると期待しているからです。長年培った技術を応用し、新分野でも盤石な基盤を築く決意です。

編集後記

電線の価格が高騰し、海外製品との競争が激化する厳しい事業環境。そして、主力である自動車業界の構造転換。別処電線製造所は、まさに大きな変化の渦中にある。しかし、別處氏は悲壮感を見せることなく、未来への静かな情熱を語った。その根底にあるのは「とりあえずやってみよう」という挑戦の精神である。顧客のニーズに応えるため、常識すら覆して挑戦する姿勢こそ、同社が新たな時代を生き抜くための最大の武器である。従業員とその家族の幸せを願う強い思いが、その挑戦を力強く支えている。

別處了太郎/1977年大阪府生まれ、大阪学院大学卒業。2003年に入社後、2006年に取締役、2012年に専務取締役に就任。2023年、代表取締役に就任し、現在に至る。