
セイノーホールディングスの社内ベンチャーとしてtoC事業を立ち上げ、買い物代行や食品宅配といった“ラストワンマイル”を開拓してきたココネット株式会社。その事業成長に伴い、2024年4月1日から新組織「セイノーラストワンマイル株式会社」として、さらなる飛躍を目指し再始動した。この新体制を牽引するのは、新卒でドライバーを経験し、今なお自ら現場に立ち続ける代表取締役社長の河合秀治氏だ。現場を知り尽くした独自の経営哲学と、日本、そして世界を見据えた物流の未来図について、詳しく話を聞いた。
すべての原点は現場に 全社視点とマネジメントの礎を築いた若き日々
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
河合秀治:
1997年に西濃運輸株式会社へ入社し、最初の1年間は現場研修としてトラックドライバーを経験しました。愛知県豊川市の支店に配属され、土地勘のない場所で配達と集荷に明け暮れる毎日。当時は作業給の割合が大きく、先輩たちに負けじと荷物を運び続けました。夏は酷暑、冬は極寒の中で働き、お客様と直接やりとりをしたこの1年間の経験が、間違いなく私の仕事の原点になっています。
ーードライバーを経験された後、どのような業務に携わったのですか。
河合秀治:
ドライバーの後は岐阜県大垣市の本社に配属され、業務監査の仕事を担当しました。全国に約200カ所あった支店をすべて回り、全業務のルールやマニュアルを頭に叩き込みました。社長直轄の部署だったため、グループ全体の社長や支店長クラスの方々と話す機会にも恵まれ、社内の人脈を築くことができたのは大きな財産となりました。会社の良い部分も悪い部分もすべて知る立場にあり、全社的な視点を養うことができました。
ーー若いうちから大きなプロジェクトを任された経験はありますか。
河合秀治:
入社3年目の頃、ISO9001(品質マネジメントシステム)取得プロジェクトに、私と同期の若手2名が抜擢されました。一度頓挫しかけたプロジェクトでしたが、半年という短期間で膨大なマニュアルをデータ化し、国際基準へ整備し直しました。この成功体験が、新しいことに恐れず挑戦する私のベースになっています。
また大阪の支店では、プレイングマネージャーとしてトラックに乗りながら営業やデータ処理もこなしました。40~50人の組織で、メンバーは全員年上。限られたリソースと各人の適性を見極め、いかに仕事を回していくかというマネジメントの面白さを、実践の中で学びました。
ゼロからの挑戦 社内ベンチャー「ココネット」誕生秘話
ーーココネット株式会社を立ち上げた経緯を教えていただけますか。
河合秀治:
本社復帰後、新しい価値を作りたいという思いから、高齢者の方々の重い荷物を自宅へ届ける“お買い物サービス”のプロジェクトを2010年に立ち上げました。しかし、実際に始めると、メーカーから問屋、店舗へといった企業間物流(BtoB)とはルールも車両も人財も全く異なることに気づきました。同じ会社の枠組みでは歪みが生まれると判断し、役員会で別会社化をプレゼン。承認を得て2011年10月、ココネットが誕生しました。
ーー創業当初から事業は順調だったのでしょうか。
河合秀治:
実は設立2年後には資金ショート寸前の危機に陥りました。「2カ月で黒字化できなければ撤退」という条件で私が社長に就任し、徹底した現場起点のトップセールスを行いました。私自身が配達に出ていたからこそ、「あのスーパーはパックの量が多すぎる」といった高齢者の生の声をスーパーの経営陣に届けることができ、それが説得力となって会社を立て直すことができました。今でも私が配達を続けているのは、現場の感覚を経営に直結させるためです。
社会インフラとしての使命 多様な担い手と共に未来を拓く

ーー現在、会社として特に注力していることは何ですか。
河合秀治:
次世代のマネジメント層の育成です。ラストワンマイルの領域は、ドローンやロボットによる完全な自動化が難しく、最終的には“人”の力が不可欠になります。事業のニーズは増え続けていますが、担い手がいなければ応えることができません。そのため、多様な人財が活躍できる環境づくりに力を入れています。たとえば、弊社のラストワンマイルの現場では7〜8割が女性で、結果的にグループ内でも女性管理職比率がトップクラスになっています。
ーー多様な人財が活躍するために、どのような工夫をしていますか。
河合秀治:
業界では珍しい、アルバイト・パートのドライバーを積極的に採用しています。地図を読むのが苦手な方でも安心して働けるよう、AIが最適な配送ルートを指示する自社システムをいち早く導入し、会社支給のスマートフォンにて簡単に確認できるようにしました。また、使用する車もオートマの軽自動車が中心です。これにより、運転経験の浅い方や女性でも、安心して仕事に取り組める環境を整えています。
ーーその他、取り組んでいることはありますか?
河合秀治:
社会課題の解決です。物流は社会インフラであり、物を運ぶことを通じて様々な貢献ができると考えています。たとえば、NPO法人と連携し、ひとり親家庭へ食料品をお届けする“こども宅食”や、経済的に厳しい状況にあるお母さんへ化粧品をお届けするプロジェクトの配送面を支援しています。企画はあっても物流のノウハウがない団体は多く、私たちの仕組みを提供することで、活動の幅を大きく広げられます。
日本から世界へ ラストワンマイルの可能性を次世代に
ーー今後の事業について、どのような展望をお持ちですか。
河合秀治:
これからは海外展開を本格的に考えています。特にアフリカなど、これから経済成長が見込まれる国々では、BtoB物流より先にラストワンマイルの需要が爆発的に伸びる可能性があります。日本の人口が減少していく中で、グローバルな視点は不可欠だと考えています。
ーー海外展開は具体的にどのように進めていくお考えですか。
河合秀治:
まずは日本で海外の方に活躍してもらうことから始めています。もうすぐインドネシアから5名の女性ドライバーが特定技能制度で来日する予定です。彼女たちに日本でラストワンマイルのノウハウを学んでもらい、5年後に母国へ帰った時、現地で事業を立ち上げるのを私たちが支援する。そうやって、共に成長していくモデルを世界中に広げていきたいと考えています。
ーー最後に、この記事を読む若い世代へメッセージをお願いします。
河合秀治:
最近の学生の方々は、社会課題の解決に強い関心を持っていると感じます。私たちの仕事は、単に物をA地点からB地点へ運ぶだけではありません。お届け先で96歳のおばあちゃんと会話を交わすような、人と人との繋がりを生み出す価値があります。これから世の中に出ていく皆さんには、まだ誰も通ったことのない道を作るやりがいを、ぜひ私たちの事業の中で感じてほしいです。
編集後記
顧客である高齢者のインサイトを捉え、会社の危機を救ったのは、新卒時代のトラック運転経験だった。そして今、その視線は世界へ向かう。河合氏の話は、一貫して“現場”と“人”に根差していた。物流という社会インフラの担い手が不足する中、同社が示す多様な人財が活躍できるモデルと、国境を越えた未来への投資は、業界だけでなく、これからの日本社会にとっても大きな希望となるだろう。

河合秀治/1997年に西濃運輸株式会社へ入社後、トラックドライバーとしてキャリアをスタートし、社内ベンチャー、ココネット株式会社を2011年に設立。同社が取り組む社会課題解決型ラストワンマイル事業の展開を図るため、2024年4月にラストワンマイル関連グループ会社を統合管理する事業持株会社セイノーラストワンマイル株式会社代表取締役社長に就任。同社傘下5社の代表取締役を兼務すると共に、セイノーHD専務執行役員ラストワンマイル推進チーム担当、オープンイノベーション推進室長、CVCを管掌し、グループ全体の新しい価値創造とイントレプレナー育成に取り組んでいる。