
警視庁公安部。日本の治安を守る最前線で15年間任務を全うした男が、なぜ安定した公務員の地位を捨て、ゴルフビジネスの世界へ飛び込んだのか。東京・神田で会員制ゴルフスタジオ「golf GT&Relaxsh」(以下、golf GT)を運営する株式会社GTRealiser代表取締役社長の土屋源人氏は、前職とは対照的な領域において独自の才覚を発揮する経営者だ。「仕事とは、自らの命を懸けるほどの覚悟で臨むもの(死事)」と言い切るその言葉の裏には、多額の負債を背負い、家族や従業員の生活を守り抜くという経営者としての不退転の決意が込められている。そこには、綺麗事だけでは語れない、泥臭くも熱い「生存戦略」があった。
自分の実力を試したい 組織の論理に抗い独立を決意した日
ーーまずは、キャリアのスタートについて教えてください。
土屋源人:
大学卒業を控えた当時、私は特段の野心もなく、ただ自慢の体力を活かそうと警視庁の門を叩きました。現場での経験を積み、やがて徹底した規律が求められる公安部へと身を置くことになります。15年間にわたる奉職期間は、治安維持という重責を担いながらも、どこかで組織の看板に守られた安定を享受していたように思います。着実な歩みを望む者には最高の環境でしたが、この「約束された安泰」に身を置くうちに、自らの力で勝負したいという挑戦心に火が付いたのです。
ーー安定した環境にいながら、なぜ起業というリスクを取ったのでしょうか。
土屋源人:
組織の中にいると、個人の成果はどうしても「組織の功績」に集約されます。どれだけ体を張って結果を出しても、それは東京都や警察の手柄。逆に、誰かのミスが連帯責任となることも少なくありません。努力した人間もそうでない人間も一律に評価される。その平等性に、私は強烈な違和感を覚えるようになりました。組織の看板を外し、自分の実力一つでどこまで通用するのかを試してみたい。その渇望が抑えきれなくなり、安定を捨てて起業する道を選びました。
ーー独立を決意された際、なぜ「ゴルフ」という事業を選んだのでしょうか。
土屋源人:
私自身ゴルフが趣味でしたが、公務員時代は立場上の制約やしがらみが非常に多く、心から楽しめないもどかしさがありました。しかし、世の中には私と同じように、組織に属しているがゆえの不自由さや、多忙な日常から練習時間を確保できない方々が数多くいます。そうした方々が、周囲に気兼ねなく、最短ルートで効率よく上達できる。そんな「本気でゴルフと向き合える場所」をつくりたいと考え、この事業に舵を切りました。
借金6000万円の恐怖と「死事」への覚悟

ーー立ち上げ当時の状況をお聞かせください。
土屋源人:
初期は客足が伸びず、1日の来客が数名という日も珍しくありませんでした。約6000万円という巨額の投資を前に「このまま全てが水泡に帰すのか」と、公務員を辞めた選択を自問自答するほど、底知れぬ恐怖に襲われる夜もありました。
ーーそのような苦境を、どのように乗り越えましたか。
土屋源人:
最終的な成否を分かつのは、現代では敬遠されがちな「気合と根性」、そして何より負ければ終わるという執念です。技術や努力が前提の経営において、私は仕事を「仕えること」ではなく「命を懸けること(死事)」と定義し、不退転の覚悟で取り組んでいます。昨今の風潮にはそぐわないかもしれませんが、従業員やその家族の人生を背負う経営者には、それほどの覚悟が必要不可欠です。警察官時代、極限の状態を幾度も乗り越えてきた経験が、今の私にとって「何があっても這い上がる」ための強固な精神的支柱となっています。
ゴルフで貧困をなくしたい 世界を見据えた「100年時代」の構想
ーー現在の事業における強みや特徴についてお聞かせください。
土屋源人:
私たちは「ゴルフ100年時代」を掲げ、単なる技術向上に留まらず、長く競技を愉しむための健康な体作りを支援すべく、レッスンにジムとストレッチを融合させています。指導面では現役のプロゴルファーを招聘し、結果のみならず「なぜ打てなかったのか」という過程を徹底して言語化することで、初心者から87歳のご高齢者までが納得して通える環境を整えています。
ーー今後の展望をどのように描いていらっしゃいますか。
土屋源人:
目指しているのは単なる規模の拡大ではなく、ゴルフを通じた発展途上国の貧困救済という社会的意義の実現です。インドア環境の提供により「富裕層のスポーツ」という既成概念を打破し、スラム街からスター選手が誕生することで、その国に新たな産業が根付くサイクルを本気で構築したいと考えています。
ーー最後に、キャリアに悩む人々へメッセージをお願いします。
土屋源人:
かつての私のように組織での評価に悩む方には、自身の真価を問うべく一度その看板を外して挑戦の道へ踏み出すことを提案します。不退転の気合と根性さえあれば、たとえつまずいても何度でもやり直すことは可能です。死ぬ瞬間に後悔しない生き方を貫いてください。
編集後記
「仕事とは、命を懸けることである」。土屋氏が語るその不退転の覚悟は、平穏を尊ぶ現代のビジネスシーンにおいて、ある種の衝撃を以て響くかもしれない。しかし、その言葉の裏にあるのは、自身に関わる全ての人生を背負おうとする経営者としての純粋な責任感だ。警視庁という安泰を投げ打ち、退路を断って挑んだ者だけが見る景色がある。ゴルフを通じて世界の難題に挑む土屋氏の「生存戦略」は、閉塞感漂う現代社会に熱く強烈な一石を投じている。

土屋源人/1984年東京都生まれ、大学卒業後警視庁に入庁し、警視庁公安部を最後に15年勤務。2023年に株式会社GTRealiser代表取締役社長として、シミュレーションゴルフ事業に注力している。