
1970年代から日本の広告映像業界を牽引する株式会社ピラミッドフィルム。近年はAI専門チーム「PYRAMID AI」をいち早く立ち上げ、最先端の技術を取り入れた表現を追求している。同社のトップに立つ代表取締役社長の山本和樹氏は、若手時代に年間約30本以上の映像制作で現場を渡り歩き、数々のヒットCMを手がけてきた演出家だ。圧倒的な現場経験と、創業者から受け継ぐものづくりへの情熱を胸に、次世代の映像制作を見据える同氏に、これまでの歩みと未来へのビジョンをうかがった。
テレビCMの面白さに惹かれた原点と圧倒的な場数を踏んだ20代
ーーまずは、映像業界に興味を持ったきっかけから教えていただけますでしょうか。
山本和樹:
人口1000人もいない香川県小豆島から離れた島(豊島)で生まれ育ちました。高校生の頃、テレビを見ていると番組本編よりもCMのほうが面白く感じたのが、すべての原点です。「こんなに面白いことをしてお金がもらえるなら」という純粋な興味から映像の世界を志望しました。専門学校を経て上京し、小さなプロダクションに飛び込みで拾ってもらったのがキャリアの始まりでした。
ーーそこからどのようにディレクターとしてのキャリアを築かれたのでしょうか。
山本和樹:
入社後、1年間の制作現場での実務を経て、幸運にも22歳という若さでディレクターデビューを果たしました。しかし、最初から規模の大きな仕事が回ってくるわけではありません。当時は予算が限られた小規模な案件を年間30本以上ひたすらこなす日々。しかし、たとえ低予算でも、企画立案、撮影、編集、音楽の選定といった工程自体は大規模な案件と全く同じです。若いうちに映像制作の全工程を体に叩き込み、圧倒的な場数を踏んだ経験は、今の私にとって大きな財産であり、演出の第一線で培った視点は、経営の舵取りを行う上でも確固たる土台となっています。
広告の力で世の中を動かす実感と社会現象

ーー貴社へ入社後は規模の大きな仕事も数多く担当されたのでしょうか。
山本和樹:
弊社へ移ってからは「ペプシマン」の企画に参加をしたり、ペプシ「スター・ウォーズ」のボトルキャップ、ケンタッキーフライドチキンのクリスマス、日産X-TRAILといったCMのディレクターをやらせてもらいました。とくに「スター・ウォーズ」のキャンペーンは社会現象を巻き起こし、店頭から商品が飛ぶように売れていく光景を目の当たりにしました。自分の携わった広告が世の中を動かし、人々の熱狂を生み出す。そのダイナミズムを肌で感じ、「こんなに面白い仕事はない」と心の底から実感した瞬間でした。
「PYRAMID AI」の立ち上げと妥協なきクオリティへのこだわり
ーー「PYRAMID AI」を立ち上げられた背景を教えていただけますでしょうか。
山本和樹:
「社長就任を機に会社へ新しい風を吹き込みたい」と考えていた時期に台頭してきたのがAI技術でした。映像制作の未来は確実に変わっていくと直感し、その可能性を期待してプロダクションとしては最も早くAI専門チームを立ち上げたと自負しています。
私たちがAIを活用する目的は、決して「時短」や「安売り」ではありません。予算や物理的な制約によってこれまで諦めざるを得なかった「よりよい表現」を実現するため。つまり、表現の幅を広げるための強力な選択肢なのです。弊社が50年近く培ってきた広告制作の知見を土台にしつつ、クオリティへの妥協なき姿勢を貫く。そこにAIという新たな武器を掛け合わせることで、これまで以上に映像の可能性を追求しています。
偉大な創業者へのリスペクトと次世代へのメッセージ

ーー社員を率いる上で、創業者から受け継いでいる精神はありますか。
山本和樹:
弊社の名誉会長である操上和美は、90歳を超えた現在でも、写真家として現役のトップクリエイターとして最前線に立っています。自ら現場でシャッターを切るその姿勢には、尊敬の念しかありません。偉大なクリエイターが立ち上げた会社だからこそ、私たちもその精神を継承しています。ものづくりへの純粋な情熱と、クオリティへの執念。これこそが、私たちが何よりも大切にしている信念です。
ーー最後に、映像業界を目指す若い世代へのメッセージをお願いできますでしょうか。
山本和樹:
映像制作は、決して楽な仕事ではありません。しかし、若くても数千万円単位の予算を動かし、自分より年上のプロフェッショナルたちと交渉を重ねながら、世の中に残る作品をつくり上げる。これほどまでにやりがいのある仕事は、他にないと断言できます。困難を乗り越えた先には、必ず世の中がワクワクするような景色が待っているのです。純粋に「映像をつくりたい」「世の中を驚かせたい」という情熱を持つ方々と、ともに新しいものづくりに挑戦できる日を楽しみにしています。
編集後記
生涯約700本以上CMを世に送り出し、現場で培った泥臭い制作力と、いち早くAI専門チームを立ち上げる先見性。山本氏の原動力は、テレビCMに魅了された少年時代から変わらない「映像で世の中をワクワクさせたい」という純粋な探求心にある。創業者が築き上げたものづくりへの情熱を次世代へとつなぎ、最先端の技術で表現の限界を押し広げる同社。同社が切り拓く映像表現の新たな次元に期待したい。

山本和樹/1967年香川県小豆島豊島生まれ。専門学校を卒業後、朝日プロモーションに入社し、翌年企画演出部へ。ディレクターとして実績を積み、7年後、株式会社ピラミッドフィルムへ入社。5年後企画演出部部長、執行役員、取締役を経て、2024年4月に同社代表取締役社長に就任。現在も演出家を兼ねて活動中。