
私たちの生活に必要なエネルギーをつくる太陽光や風力の発電所。株式会社スマートエナジーは、そんな再生可能エネルギー発電所の運用・保守を行う企業だ。太陽光発電所の運用・保守事業において業界トップシェアを誇り、全国展開している。同社の代表取締役社長、大串卓矢氏に、就任までの経緯や事業内容、今後の展望などについて話をうかがった。
環境対策の理想と現実を経て選んだ起業の道
ーーまずは、キャリアの原点について教えていただけますか。
大串卓矢:
幼少期から周りの空気や水などに敏感な子どもで、環境というものに興味を持っていました。その後、高校生の頃には、砂漠化や森林伐採といった環境問題が話題になってきたことがきっかけで関心度がさらに高まり、将来は環境に関わるキャリアに進みたいと思うようになりました。
大学では環境学を専攻し、将来は環境に関わるキャリアを歩みたいと考えていました。就職の時期を迎えた頃に、当時志望していたコンサルティング会社が環境サービスを開始したと知り、入社に有利な公認会計士の資格を取得。念願が叶い、PwCの監査法人への入社を果たしました。
ーーPwCでは、どのような業務を経験されたのでしょうか。
大串卓矢:
当初は会計士として実務経験を積む日々でした。転機が訪れたのは入社から6年が経った頃です。社内で新たに環境サービスの部署が立ち上がることになり、自ら手を挙げて異動させていただきました。当時は京都議定書が採択され、気候変動問題が世界的に注目され始めた時期で、私はマネージャーとして企業の対策支援を担当していました。
しかし、実際の業務は、私が思い描いていたものとは少し異なる側面があったのです。クライアントであるエネルギー関連の大企業にとって、環境規制の強化はビジネスへの大きな打撃となりかねないものでした。そのため、求められるのは必ずしも「環境を守るための支援」そのものではなく、「規制強化による事業への影響をどう抑えるか」という視点からの助言でした。
「気候変動対策なんて経済的に意味がないのではないか」といった反対派の議論に触れる中で、アドバイザーとしての限界を感じると同時に、「世の中にはこういう仕事もあるのか」「何が本当なんだろう」と深く考えさせられる貴重な経験となりました。
ーーそこから起業を決断されたのは、どのような背景があったのですか。
大串卓矢:
PwCでの経験を通じて、気候変動対策を本気で進めるためには、単にアドバイスをするだけでは不十分だと痛感しました。助言するだけではなく、自らが資金を投じて設備を動かし、直接削減に寄与する主体になりたいと考えたのです。だからこそ、アドバイザーという立場を離れ、自ら事業を牽引する道を選びました。
起業後は大手エネルギー事業者とファンドを組成し、省エネ設備を自社で所有して二酸化炭素を削減する事業に取り組みました。助言に留まらず、自らが事業を営む会社としてリスクを負い、目に見える成果を出す。その姿勢が、弊社の原点です。
「規制」と「経済」の両輪を回し、現場の課題を解決する

ーー貴社の事業内容について教えてください。
大串卓矢:
弊社は環境問題を解決する会社として、「太陽光・風力O&M」「発電所売買仲介・売却支援」「新電力サポート事業」「アセットマネジメント」「環境経営コンサルティング」の5つの事業を行っています。
その中でも1番売上高が大きいのは、発電所の点検や管理といった運用保守を行うO&M事業です。運用・保守は、非常に地道な仕事です。広大な敷地に並ぶ膨大な数のパネルを、人の手で一枚ずつ清掃するのは現実的ではありません。また、発電を妨げる草木を切りたくても、断念せざるを得ないときもあります。私たちは、こうした現場特有の課題に日々向き合ってきました。業界トップシェアを誇るからこそ、蓄積したノウハウを活かし、効率的な管理手法を提案できるのです。
ーー直近で新たに注力されていることはありますか。
大串卓矢:
現在は、既存設備を蘇らせる「リパワリングサービス」と、電力の需給を調整する「アグリゲーション事業」に注力しています。まずリパワリングとは、いわば発電所の「リノベーション」です。太陽光発電所の普及から10年が経過し、老朽化した設備を最新技術で作り直し、発電効率を高めます。
一方のアグリゲーションとは、蓄電池を用いた運用の代行を指します。再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するため、蓄電池による調整が欠かせません。たとえば300カ所もの発電所を持つお客様が、各地の蓄電池を自ら管理するのは非常に手間がかかります。弊社は、リパワリングから日々の管理、蓄電池の制御までワンストップで引き受けることが可能です。このワンストップ体制の利便性こそが、多くの大手企業から選ばれてきた理由だと考えています。
ーー環境ビジネスにおける市場の変化をどう捉えていますか。
大串卓矢:
気候変動のスピードは年々加速しており、状況は複雑化しています。環境ビジネスの本質は、ある意味で「規制産業」です。たとえば、お風呂のお湯は出しっぱなしにするのが一番手間がかかりません。しかし、「水を無駄にしてはいけません」というルールがあるため、人は蛇口を締めます。
二酸化炭素も同じで、規制がなければ排出され続けてしまいます。排出を制限する「規制」と、それに対応して動く「経済」。この両輪が揃わなければ、環境問題の解決は前に進みません。私たちは政治や規制の動向を注視しながら、経済合理性のある解決策を社会に実装していく役割を担っています。
キャリア採用のベテランと若手が融合 未来を拓く技術者集団

ーー貴社の採用や人材育成について教えてください。
大串卓矢:
弊社は、高いスキルを持つ人材の採用と、入社後の教育環境づくりを共に重視しています。採用面では、定年を65歳に設定しているのが特徴です。これにより、豊富な経験を持つベテランの技術者がキャリア採用で入社し、長く活躍できる環境となっています。また、育成面では、こうした頼れる先輩たちの存在が大きなメリットです。
弊社には、難易度の高い「電気主任技術者」の資格を持つ社員が多く在籍しています。若手社員は、知識も経験も豊富なプロの背中を見て、安心してスキルを磨くことができます。ベテランから若手へ技術を継承するサイクルが、弊社の成長を支えています。
ーー今後の事業拡大に向けて、どのような人物像を求めていますか。
大串卓矢:
大きく分けて2つの要素を持つ方を求めています。1つ目は、インフラ構築に不可欠な資金調達や事業設計に長けた方です。弊社では、太陽光や風力、蓄電池などを組み合わせた新しい電力システムをつくろうとしています。こうしたインフラをつくるには巨額の資金が必要です。こうした事業の仕組みを理解し、資金の流れを設計できる人材は非常に重要です。
2つ目は、新しい仕組みをつくることにワクワクできる、知的好奇心と行動力のある方です。私たちは、単に言われたことをこなすのではなく、アイデアを出し合う文化を大切にしています。「こうすればもっと良くなる」という自発的な提案こそが、成長の源泉だからです。変化の激しい環境で、自らも新しい知識を吸収し、成長し続けたい。そんな意欲を持つ方と一緒に、未来のインフラをつくりたいと考えています。
日本のシェア15%を担うインフラ企業へ
ーー技術を活用した具体的な取り組みがあれば教えていただけますか。
大串卓矢:
2年ほど前にリリースした太陽光発電所向けのAI警備システム「Solar AI asilla」を活用し、設備の盗難対策を行っています。銅線は電力供給に不可欠ですが、近年は価格高騰により、転売目的の盗難が増えています。人の動きを正確に検知するAI技術であれば24時間監視をし続けられるので、そのシステムを使って、業界内の問題解決に貢献していきたいと考えています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
大串卓矢:
現在、「再生可能エネルギーの連携に関与する量で日本一になる」という目標を掲げています。第七次エネルギー基本計画によると、2040年には国内電力の約半分を再生可能エネルギーで賄う目標が定められています。私たちスマートエナジーは、そのシェアの3割、国内電力の約15%に関わることを目指しています。現在はシェア1%ほどですが、これを15倍にするという野心的な目標です。
グローバル展開については、現在は慎重に検討を進めている段階です。環境ビジネスは規制の影響を受けやすく、国ごとに政治情勢も異なります。そのため、まずは日本市場で圧倒的な基盤を築くことが最優先だと考えています。国内の連携量で日本一という目標を達成した先に、世界の道が見えてきます。日本で培った技術や仕組みを武器に、将来的には世界で戦える企業を目指します。
ーーさらにその先の未来に見据えているものはありますか。
大串卓矢:
将来的には、宇宙でのエネルギー開発にも挑戦したいと考えています。宇宙で活動するためのエネルギー源は、主に太陽光か原子力です。50年後、火星などの惑星でいかに発電システムを構築し、運営していくか。未知の領域で新しいインフラをつくることには、大きな可能性を感じています。これまで培ってきた運用・保守の技術を活かし、地球を飛び出した未来の社会基盤づくりに寄与することにいつか挑戦してみたいですね。
編集後記
業界トップの運用・保守事業を軸に、AI技術による課題解決にも挑む同社。大串氏はアドバイザーという立場を超え、自らリスクを負って事業を行うことで環境問題に挑んできた。「国内電力の15%を支える」という目標は、単なる数字ではない。金融と技術を融合し、新たなインフラを築く同社の挑戦は、日本のエネルギー産業に変革をもたらすだろう。さらなる発展と成長に向け、挑戦を続ける同社の飛躍に期待したい。

大串卓矢/東京大学農学部環境学専攻卒業。公認会計士資格を取得後、PwC監査法人に入社。排出権取引関連事業を立ち上げ、PwC気候変動チームリーダーを務める。2007年、株式会社スマートエナジーを設立。経済産業省国内J-クレジット制度発起委員会事務局長、公認会計士協会排出量取引専門部会長を歴任するなど、国内クレジット制度(温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度)の立ち上げに寄与した。気候変動問題の解決に技術・金融・ITの知力を使い、ビジネスで解決する手法を探求している。
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