
全国でホットヨガスタジオ「loIve(ロイブ)」などを展開し、急成長を遂げている株式会社LOIVE。その舵取りを担う代表取締役社長の前川彩香氏は、専業主婦から起業し、東証上場企業のトップへと上り詰めた稀有な経歴の持ち主だ。なぜ、未経験からこれほどの組織を築き上げることができたのか。そこには、幼少期に培われた圧倒的な「自己信頼」と、女性の力を最大化させる独自の組織論があった。人を最大の価値と位置づけ、フィットネスの枠を超えて社会変革に挑む同氏の情熱と、その経営戦略の核心に迫る。
専業主婦からの起業を支えた「自己信頼」という原点
ーー起業を決意した背景や当時の心境を教えてください。
前川彩香:
経営者を志したのは15歳のときでした。当時は人に指示されることが嫌だという単純な思いから、自らが経営者になるしかないと考えたのです。その後、早くに結婚と出産を経験します。夫との話し合いもあり、子どもが3歳になるまでは専業主婦として家庭に専念することを決めていました。
転機が訪れたのは、子どもが2歳半になったときです。「3歳になったら起業する」という目標に向け、半年前から準備を開始しました。当時、私の周囲には自分に自信を持てずに悩む女性の友人が多くいました。彼女たちが輝ける場所をつくりたいという強い思いが、私を突き動かしました。
さらに、当時東京で普及し始めていた「ホットヨガ」が北海道にはなかった点に着目。ビジネスとしての確かな可能性を感じたのです。友人たちを集めて起業を決意し、そのわずか半年後、子どもが3歳を迎えるタイミングで北海道初となるホットヨガスタジオのオープンを実現しました。
ーー行動を促すための原動力はどこにあるとお考えですか。
前川彩香:
根底にあるのは両親の深い愛情によって育まれた高い自己肯定感です。私は「自分には価値がある」と信じられたからこそ、失敗を恐れずにすぐ行動へ移すことができました。こうした自己信頼に基づく行動の積み重ねが、今の私を形づくっています。
また、心理学を学ぶ中で、子どもの自己肯定感の形成には母親の在り方が強く影響するという科学的な根拠を知ったことも大きな転換点となりました。日本の育児時間の7割以上を担っていると言われる母親がいきいきと輝くこと。それこそが次世代を担う子どもたちの未来を明るくし、社会全体を元気にする鍵になると確信しています。この確信に基づいた「自分を愛し、輝く女性を創る」という弊社のパーパスこそ、今の私を突き動かす最大の源泉です。
不測の事態を打開した迅速な意思決定の力

ーー創業当初、特にご苦労されたのはどのような点でしたか。
前川彩香:
1号店は順調でしたが、半年後に2号店をオープンした際に直面したマネジメントの崩壊が最大の苦労でした。私が2号店にかかりきりになったことで1号店の運営が疎かになり、結果的にスタッフの離職を招いてしまったのです。
そこで、形ばかりの制度を整えるのではなく、一人ひとりのマインドを根本から変えることに注力しました。社員がパーパスを自分ごととして捉え、自らの夢をかなえる手段として今の仕事があるという当事者意識を育むことが、組織再生につながったのです。この経験から、単に事業を広げるのではなく、会社のパーパスをチームで共有し、浸透させることの重要性を痛感しました。
ーーこれまでどのようにして危機的状況を打開してきたのか教えてください。
前川彩香:
コロナ禍という未曾有の危機に対し、スピード感のある決断を一つひとつ積み重ねることで乗り越えました。ピンチのときこそ企業の真価が問われると考え、目先の利益よりも社員やお客様との信頼を最優先することを心がけました。まず約100名の内定者全員を予定通り採用することを決意。さらに、お客様の不安に寄り添うため、業界でいち早く「即日休会制度」を導入したのです。これらは売上高がゼロになるリスクを伴う大きな決断でしたが、一貫した姿勢を示したことで社員のエンゲージメントが向上。お客様との強固な信頼関係を築く結果につながりました。
社員たちが「会社を守る」と一丸になってくれたおかげで、再スタート後は30%成長というスピード復帰を遂げることができました。
直営体制による理念の徹底と人材の質の最大化
ーー他社との差別化を図る強みは何だとお考えですか。
前川彩香:
最大の強みは、圧倒的な熱量を持つ「人材」にあります。私たちは「人が商品」であると考えており、スタッフ一人ひとりの高いサービススキルや仕事への意欲、お客様への情熱は、他社には真似できない差別化要因です。その価値は入会率や継続率といった数字にも明確に表れています。広告だけでは伝えきれない価値を、お客様が店舗に足を運んでくださった瞬間に感じていただけることが、弊社の強みなのです。
こうした人材の質を担保するために、弊社は全店舗を「直営」で展開することにこだわっています。収益性の高さや投資回収の早さも理由の一つですが、何よりパーパスを組織の隅々まで浸透させやすい点が重要です。
全員が正社員として共通の理念を持ち、本社スタッフも定期的に現場研修に入ることで、全社が一貫して同じ方向を向く文化を醸成しています。現場にしか答えはないと考え、私自身も月に数店舗を回り、スタッフとの対話を続けています。こうした密なコミュニケーションが、直営ならではの強固な組織力をつくっているのです。
ーー女性中心の組織運営をする上で、大切にされていることはありますか。
前川彩香:
個人の競争ではなく、チーム全体で一つの成果を追求する文化を最も大切にしています。科学的な知見によれば、女性は利己的な動機よりも「誰かの役に立ちたい」という利他的な動機で行動する際に、ドーパミンが分泌されやすい傾向があります。
そのため、弊社ではあえて個人のインセンティブは設けず、チームで目標を追いかけるコンテストなどを実施しています。一人で出す成果よりも、仲間たちと共に試行錯誤してつくり出す成果の方が、より大きな充実感とつながりを生みます。この「つながり」を組織の土台に据えることが、パフォーマンスが高まる鍵になると考えています。
女性活躍の固定観念を変革する新規事業の展望
ーー現在注力している新しい取り組みを教えてください。
前川彩香:
自社で培ってきたマネジメント手法を外部へ提供する、人財育成プログラム「Mission’S」をスタートさせました。弊社の社員がいきいきと働く姿を見た経営者の方々から「その秘訣を知りたい」という声をいただいたことが、この事業の始まりです。パーパスを浸透させるノウハウや、女性の強みを最大限に活かす独自のマネジメント手法を、プログラムとして体系化し提供しています。この事業を通じて、日本における女性活躍に対する固定観念そのものを変えていきたいと考えています。
ーー今後、会社をどのように成長させていきたいですか。
前川彩香:
ピラティス市場でのシェア獲得と海外展開を軸に事業を拡大させ、理念に共感し当事者意識を持つ仲間と共に成長を加速させていきます。フィットネス事業では、シニア層へのサービス拡大や物販強化を進め、将来的には海外進出も視野に入れています。研修事業との両輪で、リアルな体験だからこそ提供できる価値を国内外に広めていく計画です。
こうした成長を支える鍵となるのは、私たちの理念に深く共感し、当事者意識を持って取り組める人材に他なりません。会社が勝手に成長するのではなく、「あなたがいるからこそ成長した」と胸を張れる仲間と共に、熱狂的なコミュニティをつくり、新たな挑戦を楽しみながら進んでいきます。
編集後記
「自分には価値がある」という絶対的な自己信頼。前川氏の全ての行動の原点は、この揺るぎない信念にある。その力が自信を失った友人たちを惹きつけ、今や多くの女性が輝く大きなムーブメントを生み出している。利益や制度設計から入るのではなく、まず人の「あり方」に目を向ける。その一貫した姿勢が、社員一人ひとりの当事者意識を育み、未曾有の危機さえも成長の糧に変えたのだ。同社が新たに挑む新事業は、フィットネス業界の枠を超え、日本の未来を明るく照らしていくことだろう。

前川彩香/2008年専業主婦から創業。「自分を愛し、輝く女性を創る」という理念のもと、成果と理念の両輪で経営を推進。女性リーダーの育成に注力し、新しい女性の生き方を社会に発信。現在、全国に185店舗以上の女性専用フィットネススタジオをマルチブランドで直営展開し、社員数は約1,000名、99%が女性。2025年4月東証グロース市場に上場。2025年秋、人財研修プログラム「Mission’S」をローンチ。