※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

東海地区を中心に全国で約60校のテニススクールを展開し、地域の人々の健康づくりを支える株式会社テニスラウンジ。4歳から90歳代まで幅広い世代が通う同社の施設は、単なる運動の場ではなく、人と人がつながる「社交場」としての役割を担っている。アルバイトからキャリアをスタートさせ、20年以上にわたり現場で顧客と向き合い続けてきた代表取締役の江口夏樹氏。「サービス業のプロであり、先生にはならない」という社訓を掲げ、顧客の人生に寄り添う同社の強みの源泉と、ウェルネス事業を通じて描く未来について話を聞いた。

「より良く」を実現し続け、現場から全役職を経て社長へ

ーー社会人として最初のキャリアについてお聞かせください。

江口夏樹:
大学時代、弊社でアルバイトをしていました。テニススクールならではの「密な人との関わり」に大きなやりがいを感じていました。しかし、当時はテニスコーチという仕事が職業として成り立つのか実感が持てず、まずは社会の仕組みを学ぶために、上場企業への就職を選んだのです。

外の世界で営業職として働く中で、改めて気付かされたのは、サービス業のようにお客様から直接「ありがとう」と感謝の言葉をいただける仕事の素晴らしさでした。

また、弊社であればテニスに一生関わり続けられるだけではなく、店舗展開を通じて自分自身が「一国一城の主人」として経営に携わるチャンスがあることも知りました。「自分の頑張りが、目の前のお客様の喜びに直接つながる」。そんな手応えを一番感じられる場所で働きたいと考え、正社員として戻る道を選びました。

ーー社長に就任されるまではどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

江口夏樹:
入社後は現場のインストラクターから始まり、1店舗の運営、支配人、そしてエリア統括と、弊社の全ての役職を一つひとつ経験してきました。その後、執行役員や副社長を経て、現在の代表という役割を担うことになったのです。

実は、もともと「上を目指したい」という強い上昇志向があったわけではありません。私の原動力は常に、「お客様やスタッフにとって良いことを実現したい」というシンプルな思いにあります。

ただ、目の前の人を幸せにしようと取り組む中で、どうしても「役職」が必要になる場面がありました。たとえばレッスンのチェック一つにしても、自分の都合ではなく「相手が望むタイミングで、しっかり見てあげたい」と考えます。そうした、お互いが幸せになれる環境をより多く、よりスピーディーにつくろうとすると、相応の決裁権や予算が必要になってくるのです。

「自分ができる範囲のことをすべてやりきろう」と模索し、目の前の「良くしたい」を積み重ねてきた結果、気がつけば代表という立場にいた、というのが正直なところです。

技術を教える先生にはならない 心身の健康を支えるプロの流儀

ーーお客様との関係づくりにおいて、どのような点を心がけていますか。

江口夏樹:
何よりも大切にしているのは、ちょっとした一声をかけるといった、心の通ったコミュニケーションです。

そのためのこだわりとして、スタッフはあえて名札を着用していません。名札があれば、意識せずとも名前を確認できてしまいますが、それでは甘えが生じてしまいます。あえて名札をなくすことで、「お客様一人ひとりの名前を必ず覚えよう」というプロとしての責任感と、向き合う姿勢をスタッフ全員に徹底させているのです。

また、特定のクラスに縛られず多くの方と交流できるよう、コーチが各コートを回る「ローテーション制」を取り入れているのも特徴です。まさに社名の「ラウンジ」が意味する通り、テニスを通じて会員様同士のつながりも生まれるような、温かい「社交場」をつくっていきたいと考えています。

こうした中で、お客様の人生への深い関わりを実感することも少なくありません。学校に行けないお子様が通ってくれたり、転勤時に涙を流して別れを惜しんでくださる方もいます。中でも、かつての教え子が今はヘッドコーチとして共に働いてくれていることは、特に感慨深いです。事業を通して人の人生に豊かさをもたらせる点が、何よりのやりがいです。

ーーテニススクールの運営において、どのような指針を大切にされているのでしょうか。

江口夏樹:
弊社には「サービス業のプロであり、先生にはならない」という社訓があります。一般的にテニススクールは、技術を教える「指導業」だと思われがちです。しかし、私たちが目指しているのは、テニスを通して心身の健康を支える「ヘルスケア事業」なのです。

もちろん、トップ選手を育成するスクールも素晴らしいですが、私たちが目指すのはそこではありません。技術を教え込む「先生」という立場に立ってしまうと、どうしても上達させることばかりに意識が向いてしまいます。しかし、週に1回のテニスを心から楽しんでいただき、長く続けていただくこと。長く続けるからこそ、健康という価値をお届けできると考えています。

だからこそ、技術を教える「先生」になるのではなく、お客様の生活に寄り添い、ともに健康をつくる「サービス業のプロ」であることを、一番大切にしています。

世代をつなぐ「帰れる場所」と運動の土台をつくる新事業の展開

ーー他のテニススクールと比べ、貴社ならではの強みは何でしょうか。

江口夏樹:
独自の「ローテーション制」に加え、土日に開催している「ファミリーコース」が非常に好評をいただいています。これは、親子が同じ時間に、それぞれ別のコートでレッスンを受けられるプログラムです。お子様との時間を大切にしながらも、「親御さん自身もしっかり運動を楽しんでほしい」という思いから考案しました。行き帰りの社内や食事の場で、テニスの話題が自然に広がる、そんな一日を提供したいと考えています。

このコースをきっかけに、素敵な循環も生まれています。お子様が成長して一旦卒業されても、親御さんは残ってくださったり、かつての教え子が親になったときに、また家族を連れて戻ってきてくれたりするのです。

こうした世代を超えたつながりを守るために、私たちは地域密着には強くこだわってきました。事実、創業以来、自社都合での店舗撤退は一度もありません。お客様にとって「いつでも帰ってこられる場所」であり続けることは、私たちの強みであり、何よりの誇りです。

ーー貴社が取り組まれている他の事業についても教えていただけますか。

江口夏樹:
ウェルネス事業として、フットサルやホットヨガ、野球、子ども向けの運動教室など、テニス以外のスポーツも幅広く手がけています。

また、長く健康に運動を続けるには、体を整えることが不可欠です。そこで今春からは、運動を楽しむための土台づくりとして、ストレッチ特化型ジムの「STRETCH30(ストレッチサーティー)」を開始しました。当初は無人運営も検討していました。しかし、スタッフとの会話を楽しみにしてくださるお客様が多いことから、私たちが提供すべき価値はやはり「コミュニケーション」にあると再認識し、有人運営を採用しました。

現在は、この「STRETCH30」の多店舗展開を急いでいます。私たちの思いに共感し、この事業を共に一気に広めていけるような、熱意ある責任者候補の方にもぜひジョインしていただきたいと考えています。

個性を組織力に変え健康寿命延伸へ 現場が顧客に集中するための大改革

ーー社長に就任後、特に力を入れて取り組まれていることは何でしょうか。

江口夏樹:
現在、会社としての大きな変革に取り組んでいます。これまでは店舗ごとに店長の個性を生かすスタイルでしたが、全国約60校まで広がった今、お客様からは「テニスラウンジだから」という期待を寄せていただくことが増えました。その期待に応えるため、会社としての「ブランドの約束」をより強固に守っていく必要があると考えています。

そこで、これまで各店舗で行っていた集客や顧客管理などの業務を、本部に集約しました。これは、現場のメンバーがこれまで以上に、目の前のお客様と向き合う時間に集中できるようにするためです。

また、教育面では徹底した「原点回帰」を進めています。単にルールを守らせるのではなく、一つひとつの行動に込められた「意図」を共有することに重きを置いています。たとえば、「あえて名札をつけない理由」や「コートにコーンを一つ置く意味」まで、全員がその背景を自分の言葉で説明できる状態を目指しています。

「テニスラウンジで働くことイコール、高いホスピタリティを提供すること」。そんな文化を全員で醸成し、足元をしっかりと固めたうえで、さらなる飛躍へとつなげていきたいと考えています。

ーー今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

江口夏樹:
まずは「テニスラウンジ」の知名度を高め、テニスの持つ魅力をより多くの方に届けていきたいと考えています。実は、テニスには「健康寿命を9.7年延ばす」というエビデンスが世界的に発表されています。こうしたテニスが持つ素晴らしい力を最大限に生かせる環境を整えていくことが、私たちの使命です。

また、後継者不足などに悩むスクールも少なくありません。そうした地域の方々と手を取り合い、テニスができる場所を守り、マーケット全体を拡大させていきたい。テニススクールがない地域にも、新たな「社交場」をお届けできるよう全力で取り組んでまいります。

読者の皆様には、まずご自身の健康に意識を向けていただければ嬉しいですね。ただ、自分一人で運動を継続するのは、意志の力だけではなかなか難しいものです。継続のコツは、ご自身の生活リズムの中に「運動する時間」を仕組みとして組み込んでしまうことです。週に1回、コーチが待っているスクールに通うという「休めない環境」をつくることが、健康への一番の近道になります。

私たちは、テニスを通じた「健康」と「コミュニティづくり」を何より大切にしています。この価値観に共感し、共に働いてくれる仲間も募集中です。ぜひ一度、私たちのスクールをのぞいてみてください。

編集後記

取材を通して一貫して感じたのは、江口氏の「人」に対する真摯な眼差しである。それは顧客だけでなく、共に働くスタッフにも等しく向けられている。アルバイトから社長へというキャリアは、常に目の前の人のために何ができるかを追求した結果であることが、言葉の端々から伝わってきた。「社交場」というコンセプトは単なるビジネスモデルではなく、人と社会を豊かにしたいという同氏の信念そのものである。同社の挑戦が、日本のウェルネスの未来をどう変えていくのか、今後も注目していきたい。

江口夏樹/1984年愛知県生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒業。1年間の営業職を経て、2003年に株式会社テニスラウンジへ入社。現場での経験を積み重ね、2023年に同社代表取締役に就任。社名にある「ラウンジ」の通り、テニススクールを単なる運動の場としてだけでなく、人々の「社交場」として提供。スポーツを通じて、心身ともに健康な社会の実現を目指している。