※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

首都圏を中心に『中国ラーメン揚州商人』を38店舗展開する株式会社ホイッスル三好。創業者の父が築いた唯一無二の世界観を受け継ぎながら、組織基盤を根底から作り変えてきたのが代表取締役社長の三好一太朗氏だ。かつて月間離職率が33%に達し、崩壊寸前だった現場をいかにして「人が辞めない組織」へと変貌させたのか。外部コンサルティング会社で学んだ定量的思考と、コロナ禍で貫いた「人を守る経営」。その裏側にある、論理と情熱が融合した経営の真髄に迫った。

コンサル時代に学んだ「すべてを数値化する」思考法

ーー家業である貴社に入社されるまでの経緯をお聞かせください。

三好一太朗:
学生時代から、『中国ラーメン揚州商人』や他社の飲食店でアルバイトをしていました。高校1年生の頃から厨房に入り、現場の空気をずっと肌で感じてきたのです。ただ、大学卒業後はすぐに家業には入らず、お世話になっていたコンサルティング会社へ就職しました。そこでの経験が、今の私の経営スタイルの原点です。徹底的に叩き込まれたのは「定量的思考」でした。飲食店経営において「お客様の喜び」や「感動」といった要素は、どうしても感覚的な言葉で語られがちです。しかし、その会社では定性的な事象をすべて「売上高」や「昨年対比」といった具体的な数字に落とし込み、客観的な事実として分析するよう求められました。この時に培った「曖昧さを排除し、数字で語る」という習慣が、後の組織改革における強力な武器となったのです。

離職率33%の惨状と 専務時代の改革

ーーその経験は、入社後どのように活かされたのでしょうか。

三好一太朗:
2012年に専務へと就任した当時、会社は拡大期にありましたが、組織の内側は課題を抱えていました。アルバイトを含めて月間の離職率が33%に達し、30店舗あるなかで月に30人以上が辞めていく。現場は常に疲弊していました。原因は明確でした。評価基準が曖昧だったのです。どれだけ頑張っても、それが正当に報われる仕組みがない。そこで私は、人事評価制度の刷新に着手しました。感情や印象論で語られがちな「成果」を定量的な指標へと変換し、給与やポストに直結させる公正な仕組みを構築したのです。評価軸が明確になったことで社員の納得感が高まり、定着率は徐々に改善しました。

社長の孤独と「味を磨く」ための決断

ーーその後、社長に就任されてからはどのような変化がありましたか。

三好一太朗:
専務時代は「仕組み」を作れば機能しましたが、社長として最終的な意思決定を下し、全責任を負う立場はまた一段上の覚悟を要するものでした。論理だけでは人は動かない。カリスマ性のあった父の情熱を、いかに今の組織に実装するか。その取り組みの一つが「味」への向き合い方でした。私は、弊社の強みである味について「守る」のではなく「磨く」という言葉を使います。その象徴がセントラルキッチン(以下、CK)です。かつて店舗数が17店を超えた頃、味のブレからお客様に厳しいお叱りを受けたことがありました。その反省から、高度な技術を要する工程をCKに集約し、どの店舗でも最高品質の味を提供できる体制を整えたのです。これは単なる効率化ではなく、品質向上のための投資です。

コロナ禍で証明した「人を守る」覚悟

ーーコロナ禍の苦境において、どのような対応をとられたのでしょうか。

三好一太朗:
売上高が半減する月もありましたが、私は即座に「給与は100%保証する。」と決めました。さらに、他社が採用を控える中で、あえて採用活動も継続しました。当時は「会社がなくなるかもしれない」という不安が社会全体を覆っていました。そんな時だからこそ、従業員の生活を何としても守り抜く。その姿勢を示すことが、会社への信頼を揺るぎないものにすると考えたからです。結果として、コロナが落ち着いた2022年、2023年には過去最高益を記録しました。苦境において社員の給与を下げず、守り抜いた判断が、組織の結束力を強くしたのだと思います。

「ビジネスアスリート」と共に世界へ

ーー今後の展望についてお聞かせください。

三好一太朗:
現在はフランチャイズ(以下、FC)展開の強化と、海外進出を見据えています。FCに関しては、単に店舗数を追うのではなく、弊社の理念や味へのこだわりに深く共感していただけるパートナーと組んでいきたい。海外については、ヨーロッパを視野に入れ、日本のラーメン文化を世界に広げる挑戦を始めています。

ーー最後に、求める人物像について教えてください。

三好一太朗:
私は々「ビジネスアスリート」という言葉を使います。スポーツ選手が記録更新のために日々トレーニングを積むように、仕事においても自身のスキルを磨き、高みを目指せる人と働きたい。常に新しい挑戦を続ける仲間と共に、次のステージへ進んでいきたいと考えています。

編集後記

「数字」という客観的な物差しを持ちながら、その根底には『中国ラーメン揚州商人』への熱い愛がある。三好氏の言葉からは、伝統を背負いつつ、それを現代的な経営手法でアップデートし続ける強い意志が感じられた。特に、未曾有の危機において「給与を下げない」という一手を打った決断は単なる美談ではなく、組織の求心力を最大化するための合理的な投資でもあったのだろう。攻めの姿勢を崩さない同社のこれからに、期待が高まるインタビューとなった。

三好一太朗/玉川学園大学経営学部卒業後、2009年4月株式会社オフィス井上に入社。2010年1月株式会社ホイッスル三好に入社。2012年1月専務取締役に就任。2018年7月代表取締役社長に就任。