※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

病院や製薬会社などで不可欠な滅菌装置。サクラエスアイ株式会社は、産業向けの滅菌装置やバイオ関連設備、そしてそれらをつなぐ自動搬送システムにおいて、高い技術力と提案力を持つ専門メーカーだ。顧客の要望に合わせた「一品一様」のものづくりで、国内外の医療・製薬インフラを根底から支えている。27歳でグループ会社に入社し、製図担当から営業、そして海外市場の開拓を牽引してきた木下正道氏。代表取締役社長就任以降も、現場主義と誠実さを貫く同氏に、これまでの歩みと今後の事業ビジョンについてうかがった。

製図から営業へ 未知の領域を開拓した日々

ーーまずは、貴社に入社された経緯をお聞かせください。

木下正道:
私は27歳の時に、弊社の母体であるサクラ精機株式会社に入社しました。高校時代に全国製図コンクールで3年間連続で入賞した経験もあり、機械製図の学校に1年通った後、製図担当として入社したのです。しかし、いきなり営業部門へ配属されることになりました。当時のサクラ精機は、ユーザーのほとんどが病院関係でしたが、私は病院以外の製薬会社や医療用具メーカーなど、産業関係向けの滅菌装置を開拓する営業活動を始めました。図面を書いたのは最初の2年ほどで、あとは営業として自ら打ち合わせに行き、自分で図面も書いて販売するという日々でしたね。

ーー営業として実績を積まれる中で、特に印象に残っている出来事は何ですか。

木下正道:
新しい機械の販売など、常にチャレンジし続けたことですね。滅菌装置の中に品物を入れるための自動搬送システムを社内で最初に手がけたり、海外への販路開拓を自ら進めたりして、少しずつ結果を出していきました。タイやベトナム、インドネシアなど東南アジアを中心に回り、タイだけでも約190回は訪問しました。10年ほど前のタイの大洪水では、お客様の工場に納品した装置が水没してしまい、長靴を履いて泥だらけになりながら復旧作業に向かったこともあります。そうして実績を積み重ね、最終的には営業部門全体を統括する立場を任されるようになりました。当時の海外開拓が、現在の売上高の約20%を占める海外案件の基盤にもなっています。

「嘘をつかない」誠実さと実証データに基づく提案力が信頼を生む

ーー社長就任後、経営において大切にしている考えを教えてください。

木下正道:
まず第一に「嘘をつかないこと」です。社員に対しても営業担当として「〜だろうと思いました」といった曖昧な受け答えをするのは絶対にダメだと伝えています。分からないことは「分かりません、少し調べます」と正直に言うべきです。

第二に「適正利益をもらうこと」。儲けすぎるのではなく、適正な利益をいただくことで、お客様と長く付き合っていくことが重要です。そして「自分で勉強すること」です。お客様である大手製薬会社の担当者や、工場建設に関わるゼネコンの方々は非常に優秀で詳しい方が多いです。そうした方々に信頼していただくためには、自分自身で常に学び続ける姿勢が欠かせません。

ーー貴社の事業概要と、競合と比べた強みについてお聞かせください。

木下正道:
現在は、滅菌装置、注射薬の仕込み水やバイオ関連の装置、そしてそれらの周りを自動で担う搬送関係の3つが事業の柱です。

弊社の最大の特徴は、既製品(ロット生産)を売るのではなく、お客様の新製品一つひとつに最適化した滅菌装置を「一品一様」で設計・製作している点です。毎回が開発品であり作品のようなものですね。

競合他社との差別化という点では、「提案力」も強みになっています。長野県に実験機を2箇所持っており、お客様の新しいサンプルの滅菌テストを事前に行います。そこで得られた温度履歴などのデータをきちんとお渡しして検討していただくことで、テストを実施した案件の9割以上は受注につながっています。

「地産地消」と「協業」で描くグローバルな未来像

ーー今後の展望についてお話しいただけますか。

木下正道:
今後の大きな戦略の一つが、海外における「地産地消」の推進です。かつては人件費の安さを求めて東南アジアに工場を作る企業が多かったのですが、今は現地の生活水準が上がり、医療も発展しています。

たとえば、昔はタイやインドネシアで人工透析を受けられる人はごく一部の大金持ちだけでしたが、今はクリニックが急増しています。そうした成長市場において、現地で生産し、現地で消費するという流れに合わせ、弊社もベトナムで製造した装置のメインパーツをインドネシアへ輸送し、現地の協力工場で組み立てを行うことで、東南アジア全域へスピーディーに供給できる体制を整えつつあります。

ーー他社との協業にも力を入れているとうかがいましたが、いかがでしょうか。

木下正道:
弊社の強みと他社の強みをかけ合わせることで、新しい価値を生み出したいと考えています。たとえば、現在、弊社では「蒸留水製造装置」と「滅菌装置」を事業の柱としていますが、医薬品の製造ラインにおいて、この2つの工程の間に不可欠なのが、蒸留水を使って器具や容器を洗う「洗浄工程」です。

これまで弊社では洗浄装置は製造していませんでしたが、現在イタリアのメーカーと協業に向けた話し合いを進めています。品質規格の厳格化に伴い、優れた洗浄機のニーズが高まっているため、お互いの技術や機密を守りながら、日本市場への展開を目指しています。

ーー最後に、これから入社される方へメッセージをお願いします。

木下正道:
弊社の仕事は、明確なカタログから商品を選ぶのではなく、ゼロからプランニングしてつくり上げるため、一筋縄ではいかない難しさと、それゆえの深い面白さがあります。独自性と提案力が求められるため、新入社員が一人前になるには早い人でも3年はかかるでしょう。1〜2年で一人前になるとは思っていません。ですから、焦る必要はありません。長い目で、じっくりとあなたを育てていく準備はできています。

弊社の手がける滅菌装置は、病院や製薬工場の中で使われる、完全な「黒子」です。一般の人の目に触れることはありません。しかし、コロナ禍以降増えているさまざまなワクチンの製造設備など、国や社会を根幹から支える重要な役割を担っています。自分たちが提案し、手がけた設備から製品が生み出され、それが市場に出回っていく。その光景は、家族にも自慢できるほどの大きなやりがいになるはずです。社会を支える誇りを胸に、私たちと共に歩んでいける方をお待ちしています。

編集後記

「滅菌装置」というニッチながらも社会に不可欠な領域において、一品一様の提案力で確固たる地位を築く同社。木下氏の「嘘をつかない」「適正利益」といった商売の基本を徹底する姿勢が、顧客からの厚い信頼を生んでいるのだろう。完全な黒子でありながら、世界の医療や製薬を支え、グローバルな地産地消へと歩みを進める同社の、堅実かつ大胆な挑戦に今後も注目したい。

木下正道/1954年8月3日生まれ。東京都立練馬工業高等学校 機械科を卒業後、1980年に職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)機械製図科を経て、1981年4月1日にサクラ精機株式会社へ入社。2005年1月、同社からの分社独立に伴い、サクラエスアイ株式会社に転籍。