
歯ブラシや歯間ブラシなどオーラルケア製品の企画開発を手がける、株式会社クリエイト。自社工場を持たないファブレスメーカーとして、高い商品開発力と機動力を武器に、多くの大手ドラッグストアやホームセンターのプライベートブランド(PB)商品を支えている。同社を率いる代表取締役の谷口善紀氏は、大手システム販売会社で全国トップの営業成績を収めた経歴を持つ。2003年家業に戻ると、海外製品の開拓やPB商品開発を機に事業を急拡大させた。逆境を好機に変えるアイデアと、その先に見据える「信用で選ばれる会社」への道のりについて話を聞いた。
トップ営業からの転身 家業を継ぐ決意の裏側
ーー社会人として最初のキャリアについてお聞かせください。
谷口善紀:
大学卒業後、実力主義の環境に惹かれて大手システム販売会社に入社し、営業からキャリアをスタートさせました。最初は苦戦しましたが、必死に働く中で3年目に努力賞をいただき、少しずつ手応えを感じ始めたのです。
ただ、長く働き続けるためには量だけでなく質も重要だと気づき、4年目からは効率を重視したスタイルへと転換しました。社内の情報の流れを俯瞰し、ニーズの高いお客様へいち早くアプローチできる独自のルートを模索した努力が実り、成績も順調に伸長。その結果として、入社7年目には念願の全国トップの営業に与えられる最優秀賞を受賞しました。
ーーその後、家業に戻る決断をされた理由を教えてください
谷口善紀:
最優秀賞の受賞を一つの区切りとし、父からの打診もあったため家業に戻ることを決断しました。大企業では上のポストが詰まっており、さらなる昇進の難しさや窮屈さを感じていました。それよりも、たとえ規模は小さくても、自分の裁量で自由に動かせる領域が広く、自身の手腕で会社を変えていける環境に魅力を感じたためです。
2003年、家業に戻った当初は、業界特有の伝統的な商習慣やアナログな体制にギャップを感じる場面もありました。しかし、裏を返せばそこには大きな改善の余地があったのです。前職で培った営業手法や組織論を導入すれば必ず飛躍できると確信し、そこからファブレスメーカーとしての体制構築と事業拡大へ舵を切りました。
危機を好機に変えた開発力で市場シェアを高めた逆転劇

ーー事業を大きく成長させる転機は何だったのでしょうか。
谷口善紀:
大きな転機は、私が入社した当時に着手した海外製品の輸入販売です。デンタルフロスや歯間ブラシなど、国産品に比べて価格競争力のある商品を自ら開拓して取り扱いを始めました。これらが当たり、入社時に2億円未満だった年商は、わずか3年で5億円規模にまで拡大しました。
さらに追い風となったのが、ドラッグストアチェーンの台頭という市場の変化です。各社が競ってプライベートブランド(PB)の開発に注力し始めた時期と、私たちが輸入品などで実績を作っていた時期がちょうど重なりました。私たちの専門性と老舗や大手企業にはないフットワークの軽さが重宝され、企画段階から深く入り込むことで独自の地位を築き上げたのです。

ーーこれまでの事業活動の中で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。
谷口善紀:
最も印象深いのは、ゴムタイプの歯間ブラシを開発した際のことです。競合他社の特許切れを機に参入しましたが、先行商品の意匠やデザインと酷似しているとして、市場の公正な競争を維持する観点から、独自の独自性をより明確に打ち出す必要に迫られました。
しかし、私たちはこれを単なる修正で終わらせず、製品をより進化させる好機と捉え直したのです。そこで、軸を折れにくい素材へ改良したほか、ゴム部分への抗菌剤の配合による衛生面の向上と、携帯用ケースの付属という、当時他社にはなかった2つの付加価値を加えて再構築を図りました。この逆転の発想が市場で爆発的な支持を集め、結果としてピンチをチャンスに変え、シェアを一気に拡大させる大ヒット商品となりました。
暮らしを磨く体験を届ける「総合オーラルケアメーカー」への挑戦

ーー組織づくりではどのような点に注力されていますか。
谷口善紀:
営業体制の強化と、次世代を担うリーダーの育成です。現在は少数精鋭の体制で運営していますが、今後のさらなる事業拡大を見据えると、現在の人数では手が回りません。また、中心メンバーが40代に偏っていることも課題です。会社を永続させていくためには、20代などの若手層を迎え入れ、次世代を担う組織のピラミッド構造を構築していく必要があります。将来を見据えた組織の若返りと、経営幹部候補の育成に今から着手しています。
こうした組織の若返りを図る上で、私たちは採用のあり方も大切にしています。大手媒体などで広く募集をかけることはほとんどせず、社員が「一緒に働きたい」と願う知人や友人を自ら誘う、リファラル採用を中心としてきました。
気心の知れた仲間が集まるからか定着率は非常に高く、共に高め合える人材を自分たちの手で迎え入れる文化が、結果として離職率の低さと、強固な組織基盤に繋がっています。
ーー今後の戦略や展望についてお聞かせください。
谷口善紀:
現在は売上の約7割をPB商品が占めており、各チェーン店様のブランドを裏方として支える役割が中心です。今後はその実績を土台としつつ、自社の名前が信頼の証となる「信用で選ばれる会社」への変革を図ります。これは単に自社の名前を売るという意味ではありません。お客様から「クリエイトの商品なら安心だ」と指名していただけるような、強固な信頼関係を築く挑戦です。
その第一歩として、歯とともに心も磨く「リフレッシュ&リボーン体験」というコンセプトを掲げています。歯磨きを単なる作業として考えるのではなく、その時間を自分と向き合い、気持ちを切り替える大切な機会として提案していきたいと考えています。現在は、この世界観をより親しみやすい形で可視化し、製品が提供する「体験価値」を直接お客様へ届けるための仕組みづくりに注力しています。製品を通じ、お客様が自分自身と向き合えるような新しい習慣を提案していく考えです。
将来的には、歯磨き粉といった医薬部外品も扱う総合オーラルケアメーカーとして、お客様の「暮らしを磨く」お手伝いをしたいです。ものを売るだけでなく、生活に寄り添う文化をつくっていきたいと考えています。
編集後記
大手システム販売会社で頂点を極めた後、家業であるオーラルケアメーカーへ転身した谷口氏のキャリアは、一見、大きく舵を切ったように見える。しかし、顧客の潜在ニーズを的確に捉え、最適な提案で課題を解決するという本質は、前職も今も変わらない。特許の壁に阻まれた製品を逆転の発想で大ヒットに導いたエピソードは、同社の柔軟性と開発力の高さを雄弁に物語っている。製品を通じ、人々の暮らしを磨き上げる文化を創造しようとする同社の挑戦を、今後も追い続けたい。

谷口善紀/1970年東京都生まれの奈良県育ち。中央大学法学部卒業後、大手システム販売会社に入社し、全国トップの成績を収める。父である先代社長からの声かけにより、2003年株式会社クリエイトへ入社。2008年同営業部長に就任。先代社長の急逝をうけ、2013年より代表取締役に就任し、現在に至る。八尾ロータリークラブに所属し、地域社会への奉仕活動にも注力している。