
愛知県を中心に、リフォームや外壁塗装など住まいに関する事業を多角的に展開する株式会社平松建工。創業55年を超える同社の3代目として2023年に代表取締役に就任した平松利彦氏は、大手リフォーム会社での過酷な飛び込み営業を経て家業に戻り、独自のマーケティング戦略と大胆な権限委譲によって会社を急成長させている。業界にはびこる悪徳業者に憤りを感じ、「日本中の奥様を笑顔にする」というビジョンを掲げる平松氏。異端とも言えるその経営手腕と、新サービスを通じた業界変革への熱い思いをうかがった。
おとなしい少年から一転 完全歩合の飛び込み営業で学んだ「営業の本質」
ーー幼い頃から家業を継ぐことを意識されていたのでしょうか。
平松利彦:
私が子どもの頃に住んでいた環境は、同世代の遊び相手が女の子しかおらず、その影響もあってか、今では考えられないほどおとなしい子どもでした。高校や大学も建築関係ではなく、進路については親から一切強制されずに自由に育ててもらいました。就職活動の時期になって初めて家業に向き合い、どこかの企業でサラリーマンとして働くよりも、家業に自分の人生を懸けた方が、より豊かな道が開けるのではないかと直感したのです。そして、まずは自分の力で勝負しようと、完全歩合制の業界No.1の大手リフォーム会社に飛び込んだのです。
ーー完全歩合制の飛び込み営業となると、かなり過酷な環境だったのではないですか。
平松利彦:
最初は数撃てば当たる「まぐれ」のようなものでしたが、当たり前のことをやり続けた結果、名古屋で1位になり、2年目には全国で1位になりました。ただ、訪問販売は基本的に嫌がられる仕事なので、毎日落ち込むこともありました。そんなときは、団地の中で大声で「俺はいけてるんだ!」と100回くらい叫んで、つらい気持ちを乗り越え、自分を奮い立たせていましたね。今思えばセルフアファメーションですが、当時はそれくらい自己認識を高めないと前に進めませんでした。その根底にあった原動力は、「絶対に負けたくない」という強い意地です。この過酷な時代にどんな商品でも売れる「営業の本質」を学べた経験は、今の私の大きな財産になっています。
前職を反面教師に 圧倒的な「権限委譲」で自走する組織をつくる

ーー家業に戻られた際、どのようなことを感じられましたか。
平松利彦:
前職の大手企業で私は「人は使い捨て、協力業者は道具、お客様に対してごまかしているような感覚」を感じており、それが大企業の組織なのかと憤りを覚えていました。一方で父の会社は、規模こそ大きくありませんでしたが、社員や協力業者を家族のように大切にするという、中小企業ならではの強い絆がありました。私はその両極端を見てきたからこそ、それぞれの強みと弱みを深く理解しました。そして、人を大切にする家業のよさを守りつつも企業の拡大を目指すというバランスを心がけ、会社を変革する経営を行ってきました。
ーー具体的に、組織づくりでこだわっているポイントはありますか。
平松利彦:
弊社の重点テーマでもある「採用」と、圧倒的な「権限委譲」です。私は、責任者に対して予算や役割を明確に提示した後は、彼らの主体性を尊重し、ほとんど任せています。月に2回の面談で軌道修正はしますが、それ以外は口出ししません。任せて期待し、自信を持たせることで人は成長します。実際、弊社の9つの部門の責任者は、経営者目線で動ける優秀な人材に育っています。
ーー採用において、求める人物像はどのような方ですか。
平松利彦:
素直に努力できて、自分なりの「夢」や「ビジョン」を持っている方です。大きな夢でなくても、「2年後に結婚したい」「家を買いたい」といった個人の夢で構いません。入社時に「欲しいものリスト」をつくらせることもあります。個人の夢達成の集合体が、会社のビジョン達成につながると考えているからです。こうした個々の挑戦を後押しし、組織の核となる人材を育てるため、現在はリーダー候補生を積極的に募集しています。未経験からでも活躍できる営業スキームと教育システムを整えており、意欲ある方の成長を全力でバックアップします。
専門性を際立たせる「多角化」と逆張りの「社長ブランディング」
ーー貴社のマーケティング戦略やこだわりについて教えてください。
平松利彦:
リフォーム業界でかつて主流だった総合的な「何でも屋」としてのスタイルは、今の市場から求められていないと感じ、専門性の高い屋号を複数展開する多角化に舵を切りました。塗装なら塗装専門、リノベーションならリノベーション専門といった具合に、ホームページの雰囲気も分けています。これは以前の経験から学んだ集客のこだわりポイントであり、飲食店のグループ展開を参考にしました。狙っているお客様にしっかりと情報が届くようになり、弊社の最大の強みである集客の最大化、そして強固なマーケティング基盤の構築につながっています。
ーーご自身が積極的にメディアに出られているのも戦略の一つですか。
平松利彦:
私が徹底しているのは。経営者の思いを可視化する社長ブランディングです。業界には悪い業者がまだ多く存在する中で、私は3代目の覚悟として顔を出し、55年地域に根ざしてきた信用や誠実なストーリーをお客様に伝えています。「同じ商品を買うなら、信用できそうな、あの若社長の会社で買いたい」と思ってもらえるようにする。他社がやらないことをやる「逆張り」が、私のマーケティング戦略の基本です。
業界をクリーンに 新たな挑戦に込めた思い

ーー今後の展望についてお話しいただけますか。
平松利彦:
弊社のビジョンは「日本中の奥様を笑顔にする」ことです。お客様はもちろん、社員や協力業者の家族も含めて、まずは3年で1万人を笑顔にしたいですね。
そしてもう1つ、2026年の4月から始めようとしている新サービスがあります。リフォーム業界は参入障壁が低く、悪質な業者が多いことに私は強い憤りを感じてきました。自社の売上高や利益の追求は会社として当然のことですが、それ以上に業界全体を良くしていきたい。その熱い思いから、業界全体をクリーンにするため、リフォーム会社向けの経営コンサルティング事業を立ち上げます。
ーー具体的にどのようなサービスなのでしょうか。
平松利彦:
売上高はあっても利益が残っていない、人が定着しないといった課題を持つ売上高1.5億〜10億円規模の会社に対し、弊社が実践してクリアしてきたノウハウを伝えます。単なるコンサルではなく、将来的に業界をよくしていく仲間づくりをしていきます。正しい経営ができる地域一番店を全国に増やし、悪徳業者が入り込めない業界構造をつくりたい。私自身が次世代の業界のトップランナーとして背中を見せ、影響力を持つことで、日本のリフォーム業界をよりよくしていきたいと本気で考えています。
編集後記
飄々とした語り口の中に、経営者としての冷徹なまでの合理性と、業界に対する熱い情熱が同居する平松氏。「飛び込み営業時代を、叫んで乗り越えた」という泥臭いエピソードは、現在の緻密なマーケティング戦略や組織づくりの根底にある、現場の強さを感じさせた。利益の追求にとどまらず、自らの手で業界の悪しき慣習を断ち切り、クリーンな市場をつくり上げようとする彼の視座は高い。圧倒的なスピードで成長を続ける株式会社平松建工と、新たに始まるコンサルティング事業が、日本のリフォーム業界にどのような変革をもたらすのか。その動向に注目していきたい。

平松利彦/1989年愛知県生まれ。名城大学卒業。某業界大手リフォーム会社に入社し、2年目には営業成績全国No.1を経験。3年9か月の修業を経て、2015年に株式会社平松建工に入社。2023年に同社代表取締役に就任。3億だった会社を10年で7倍の21.3億まで成長させる。「日本中の奥様を笑顔にする」経営ビジョンを掲げ、日々経営に邁進している。