鉄筋工事のプロフェッショナル集団である株式会社松伸。創業50周年を迎えた同社は、鉄筋の加工から運搬、施工までをワンストップで手がける。「明るく楽しく元気な会社」を掲げ、新人からベテランまで幅広い世代が活躍。自社の運送部門や直用の職人を擁し、北海道から静岡まで幅広く事業を展開する。今回は、「職人の誇り」を取り戻すべく挑戦を続ける同社の代表取締役会長、松本美幸氏にお話をうかがった。
職人の誇りを取り戻す使命を感じた
ーー貴社に出会ったきっかけを教えてください。
松本美幸:
私自身の結婚がきっかけです。夫の父が弊社の創業者で、夫は専務を務めていました。当時は給与の支払いが手渡しだったので、毎月給料日になると懇親会を開いて、親方さんたちに料理をつくって振る舞っていたのです。私はそうした料理のお手伝いから始めて、徐々に会社の業務に携わるようになっていきました。
ーー大切にしている考えをお聞かせください。
松本美幸:
「明るく楽しく元気な会社」という価値観です。とても簡単な言葉に聞こえるかもしれませんが、悩みがあったり辛いことがあったりするときに、前向きに考えるのは難しいですよね。そういった状況にならないためにも、職場環境を整えることが大事だと思うのです。
もちろん、給与や通勤時間も重要ですが、悩みの種は職場環境にあることが多いと考えています。そのため、私が副社長に就任した際に、まずは社員の皆さんに「噂話やいじめはこの私が許しません」と明言しました。明るく楽しい職場づくりが、会社の発展には不可欠だと考えているからです。
ーー松伸に入社されてからの印象的な出来事を教えてください。
松本美幸:
建設業界に入って最も驚いたのは、職人さんたちの自己評価の低さでした。あるとき、職人さんから「自分達の仕事は底辺だから」という言葉を聞いて、大変驚いたのです。日本の誇るべき技術を持つ職人さんが世間に認められていない底辺の仕事とそう感じているのはとても残念で悔しくて、これを変えたいと強く思いました。
そこで、松伸をブランド化することで、職人さんたちに誇りと自信を持ってもらいたいと考えたのです。建築業界全体を一気に変えるのは難しいかもしれません。しかし、まずは弊社を、職人さんが誇りを持って働ける場所にすれば、それが他の会社にも広がっていき、いずれは業界全体を変えられるのではないかと思っています。
日本の建築技術は世界に誇れるものなので、職人さんたちにもっと自己肯定感を高めてもらい、しっかりと評価される業界にするべく貢献していきたいですね。
ワンストップで実現する、迅速な対応力
ーー貴社の事業内容と特徴を教えてください。
松本美幸:
弊社は鉄筋工事業を営んでいます。マンションや倉庫、木造住宅の基礎や、道路など、さまざまな建築物の鉄筋工事を手がけています。特徴的なのは、鉄筋の加工から運搬、取り付けまでを一貫して行っていることですね。工場での加工、運送部による運搬、現場での組み立てという全工程を自社で完結できる体制を整えています。
社内の特徴としては、30代の活躍が挙げられるでしょう。千葉県の野田工場では、工場長と副工場長がともに30代で、早い段階から活躍してくれています。一方で、80歳を超えるベテランが現役で働いていたり、海外実習生の方も働いていたりするなど、幅広い人材がいる環境ですね。また、家族や友人の紹介で入社する方も多く、働きやすい環境がつくれていると自負しています。
ーー貴社の強みはどのようなところにありますか?
松本美幸:
私たちの強みは、機動力です。特に運送部門を持っていることが大きな強みになっています。現場で急に材料が必要になったときなど、迅速に対応できることが元請けの方々にも好評です。また、北海道から静岡まで、幅広い地域で事業を展開しているので、広範囲の案件に対応できることも強みですね。
さらに、松伸として職人(本隊)を抱えているため、柔軟に人員を配置できます。これにより、人材不足に悩まされずに、繁忙期にも迅速に対応できる体制を整えています。
未来を見据えた「松伸ブランド」の確立
ーー今後の展望についてお聞かせください。
松本美幸:
これまでの時代は「土の時代」と呼ばれ、目に見えるものに価値がありました。しかし、今は「風の時代」に変わり、目に見えないものに価値が置かれるようになっています。これからの会社は、時代を担う人の気持ちを引きつけ、希望を持たせる会社でなければなりません。
その想いを形に変え、弊社では、福利厚生の充実や、勤続30年以上1000万円の定年退職金制度の導入などに取り組んでいます。そして日々移りゆく変化に対応するべく「松伸ドック」という環境を考える取り組みを月1回行い、働いてくれている社員や新たに入ってくる人たちにとって魅力的な職場となるように、社員の声を聞きながら改善を進めています。
ーーどのような人材を求めていますか?
松本美幸:
仕事に興味があって真剣に取り組める方であれば、どんな人でも歓迎します。男性ばかりの業界だと思われがちですが、女性の方もしっかり活躍できる環境が整っています。現場管理や営業など、さまざまなポジションがあるので、積極的に応募していただきたいですね。
働く上で大切なのは、一緒に会社の成長を喜べることです。たとえ失敗したとしても、あきらめない限り、それは成功への通過点でしかないのです。みんなで一丸となって乗り越えていく。そんな気持ちを持った方に来ていただきたいと思います。幸せは人から与えられるものではなく、自分から掴むものです。一緒に参加して、一緒に喜ぶ。そんな会社を目指しています。
編集後記
松本会長の言葉からは、建設業界を変えたいという強い思いと、社員を大切にする姿勢が伝わってきた。「明るく楽しく元気な会社」という理念は、シンプルでありながら奥深い。また、その実現に向けた取り組みはとても具体的で実効性がある。早期からの活躍や家族ぐるみの採用など、独自の社風も魅力的だ。株式会社松伸の今後の成長と、それに伴う業界全体の変革に期待したい。
松本美幸/1974年、宮城県生まれ、東京育ち。看護学校卒業。株式会社松伸の代表取締役会長を務める。娘2人の母でもある。