※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

今年で創立50周年を迎える株式会社マブチ。輸出梱包事業を基盤としながら、M&Aを通じて事業領域を拡大し、貨物の引き取りから海外の届け先までを一貫して担う国際物流企業へと進化を続けている。その舵取りを担うのが、代表取締役社長の坂本幹夫氏である。大手化学メーカーから転職後、ものづくりの現場で頭角を現し、赤字事業所を社内随一の収益拠点へと立て直した実績を持つ。現場で培った知見と主体性を重んじる信念を武器に、組織の一体感を高める「ONEマブチ」の理念を掲げ、100年企業への礎を築こうとしている。坂本氏の軌跡と、マブチが描く未来への展望に迫る。

開発から販売まで担い知った商売の原点 ものづくりに懸けた情熱

ーー社会人としてのキャリアのスタートと、マブチへ入社された経緯についてお聞かせください。

坂本幹夫:
新卒で大手総合化学メーカーに入社し、石油化学コンビナートのプラントスタッフとして5年ほど勤務していました。その後、地元である島根県に戻り、1993年にマブチへ転職したのが、弊社の社員としてのスタートです。当時、島根の工場は梱包資材を製造する拠点だったのですが、そこで私は商品開発から製造、営業、販売に至るまで、事業の全工程を自ら担当しました。

前職は組織の規模が大きく、どうしても業務範囲が限定的でしたが、マブチでは自分で開発したものを自分の手で作り、お客様に直接届けるという一連の流れを経験できました。もともと「ものづくり」が好きだったこともあり、多忙ではありましたが、仕事が本当に楽しく、充実した毎日でした。「安くて良いもの」を作れば、お客様が評価してくださり、注文も増えていく。そのプロセスに、商売の原点とも言える大きなやりがいを感じていました。

ーーその後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

坂本幹夫:
当時従事していた島根の事業が終了することになり、兵庫県の工場へ転勤しました。そこでは、梱包に使う木箱の製造を担当することになったのです。作るものは全く違いましたが、これもまた「ものづくり」には変わりありません。その後、お客様から「うちの製品が入る木箱を、鉄箱に変えられないか」とご要望をいただきました。私は自ら工場に行き、木箱の製造ラインに加えて鉄箱も作れるように溶接のできる人材を集めて製造ラインを増設し、対応しました。この取り組みが評価されたことは、ものづくりの道をさらに究めていこうと決意を新たにするきっかけとなりました。

徹底した効率化と品質改善で 赤字工場を社内No.1拠点へ

ーーその後、どのように社長就任まで繋がっていきましたか。

坂本幹夫:
滋賀にある梱包工場の所長経験が大きかったと感じています。これまでは自ら製品を作る仕事でしたが、新たな職場はこれまでとは異なり自由も少なく、お客様の工場内で約150人もの人員をまとめて梱包作業を行う現場でした。赴任当時は赤字の拠点でしたが、やるからには黒字にして会社に貢献したいという強い思いがありました。梱包作業の請負はサービス業であり、お客様からいただく料金は決まっているため、利益を出す鍵は原価低減にあります。常に効率化を模索し続けた結果、現場の社員一人ひとりが主体性を持って知恵を出し合える環境も作ることができました。

ーー事業の立て直しに向けて、具体的にどのような改善に取り組みましたか。

坂本幹夫:
まず着手したのは、徹底した効率化です。基本的なことですが、従業員の動線を見直して歩く距離を短縮し、0.1人単位で人員配置を精査してレイアウトを変更するなど、生産性の向上に具体的な手を打ちました。同時に、最大の無駄である「品質不具合」の撲滅にも注力しました。現場での部下との対話を通じて不具合の原因を一つひとつ解消していったのです。時には海外のお客様の元へ直接うかがい、「梱包の不具合が多い」という厳しいお声をいただくこともありましたが、それを真摯に受け止め、改善に繋げました。こうした地道な取り組みの結果、クレームと無駄なコストが削減され、事業は黒字化を果たしました。

最終的には、マブチの国内拠点の中で最も収益性の高い事業所へと成長させることができたのです。その経験が、経営側への道を拓いたと感じています。

「現場第一」で挑む国際物流 内製化と対話で築く100年企業

ーー社長として組織を牽引する上で、大切にされている信念をお聞かせください。

坂本幹夫:
社長就任後も、変わらず「現場第一主義」の姿勢を貫くことを信念としています。マブチグループの仕事に携わるすべての社員が働きやすい環境を作りたいとの思いから、時間を見つけては工場へ足を運び、直接社員と対話するように心がけてきました。最近では、若手社員と数人単位の少人数で食事会を開き、若手の率直な意見や生の声を聴く場を設けています。

また、そうした個々の対話に加え、組織全体の一体感を醸成するために「ONEマブチ」という理念も掲げました。マブチ本体の拠点が国内だけでも30以上に増え、グループ会社も国内外で拡大する中で、従業員の視野が自部門に留まらないよう、社内報などでグループ全体の活動や海外事業の情報を積極的に発信することにも注力しています。互いの状況を知ることで、お客様の困りごとを解決したいという思いを共有し、忙しい拠点には他の拠点から人財を派遣するなど助け合う文化を育み、全員が同じ方向を向いて進んでいける組織を目指しています。

ーー貴社の事業概要と、他社にはない独自の強みについてうかがえますでしょうか。

坂本幹夫:
弊社は今年で創立50周年を迎えました。この間、祖業である大型設備や細かい部品等の梱包業の枠を超え、集荷から梱包、海外輸送の手配までを担う「国際物流企業」へと変革を推進してきました。M&Aによりグループ体制を強化し、一貫した物流サービスを提供できる点が大きな特長です。

強みは大きく2点あります。第一に、梱包用容器の自社生産です。設計から製造までを自社で完結できるため、お客様の貨物に最適な箱を迅速に提供できる体制にあります。特に、国内のパイオニアとして導入した鉄箱は、木箱に比べて強度が高く、かつ容積を小さくできることから、輸送コスト削減や環境負荷低減というお客様の課題解決にも直結しており、弊社のSDGs・カーボンニュートラルへの取り組みの核となっています。自社製の容器を同業者に販売することもあり、競合他社がお客様になるというユニークな関係も築かれました。第二の強みは、最大60トンの重量物に対応可能な設備とそれを最大限に活用するノウハウを備えています。大型設備や精密機械の輸出などにおいて、「マブチなら何でも任せられる」と厚い信頼を寄せていただいています。

ーー創立50周年を経て、次なる50年を見据えたビジョンはどのように描いておられますか。

坂本幹夫:
創立50周年という大きな節目を迎え、次の50年、つまり100年続く企業になることを目指しています。その道筋として、5年前から3カ年ごとの中期経営計画を策定し、会社が何を目指しているのかを全社員で共有できるようにしました。全員がベクトルを合わせて、この計画を繋いでいくことで目標を達成したいと考えています。

ーーその実現に向けた戦略についても、具体的にお聞かせください。

坂本幹夫:
私の原点である「ものづくり」の強化と、「海外事業」の拡大を両輪として進めていきます。まず「ものづくり」に関しては、既存の枠にとどまらず、環境に配慮した新資材の自社開発など、新たな事業の柱を育てたいと考えています。その一環としてM&Aも活用しており、直近では梱包資材メーカーをグループに迎え、ノウハウの融合を図っています。

一方、「海外事業」については、マレーシア、インドネシア、タイといった東南アジア拠点が非常に好調です。人件費高騰による日系大手企業のアウトソーシング需要を好機と捉え、積極的に事業を拡大しています。決して現地任せにはせず、日本や他拠点を含めたグループ全体で支援する体制も整えました。こうしたグローバルな挑戦は、今後の採用活動においても大きな魅力になると確信しています。

編集後記

現場での「ものづくり」の楽しさを原動力にキャリアを築き、赤字事業所を立て直すことで経営の手腕を証明した坂本氏。その根底には、徹底した現場主義と、社員一人ひとりの主体性を信じる強い思いがある。単なる梱包業から国際物流企業へと脱皮したマブチの成長戦略は、M&Aという大胆な手法を取り入れつつも、現場の声を吸い上げ、課題を一つひとつ解決するという地道な改善の積み重ねに支えられている。「ONEマブチ」の理念のもと、組織の一体感を武器に、同社は100年企業という次なる頂点を目指す。

坂本幹夫/1967年、島根県生まれ。国立松江工業高等専門学校を卒業後、大手総合化学メーカーに入社。1993年に株式会社マブチへ入社し、2013年、同社代表取締役社長に就任。