
大阪府東大阪市に本社を構え、新品在庫の買取・販売事業を展開する株式会社Trust。同社が運営するオフプライスショップ「Dream market」は、メーカーや小売店で余剰となった在庫を買い取り、安価で消費者に届けることで、「廃棄ゼロ」の社会実現を目指している。コロナ禍という未曽有の危機をチャンスに変え、破竹の勢いで店舗網を拡大させた同社。その急成長を支えたのは、自ら現場の最前線に立ち続ける経営者の「徹底したスピード対応」と「従業員への利益還元」に対する揺るぎない姿勢だ。在庫買取という手法で新たな流通価値を創造し続ける、代表取締役の多川一馬氏に話を聞いた。
起業の原点は軽トラのおじさん 催事販売で地道に磨いた商売勘
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
多川一馬:
高校卒業後は物流会社に入社し、7年間サラリーマンとして勤務していました。当時は、起業に対する明確な意思があったわけではありません。ただ、ハングリー精神だけは人一倍強く、「実績のない新人の自分に会社へ提供できるものは『時間』しかない」と考え、人より早く行き、掃除などを行っていました。本業が終わった後も飲食店のアルバイトを入れて深夜2時まで働くような生活を送る日々でした。
しかし、睡眠時間を削る日々に体が限界を迎え、アルバイトを辞めることにしたのです。そうして時間に余裕ができた時、転機が訪れました。近所にいた不用品回収の軽トラのおじさんに、引っ越しの引き出物などで余ったタオルや石鹼の山を1万円で買わないかと持ちかけられたのです。面白半分で購入し、フリーマーケットで販売してみたところ、なんと10万円もの売上を記録しました。当時の私にとって、この10万円という数字は商売の可能性を確信させるには十分な衝撃でした。
この成功体験が原点となり、商品を仕入れて売るという商売の面白さにのめり込んでいきました。その後、まだ使えるのに捨てられてしまう廃盤商品の存在に気づき、それらを買い取って販売する現在のビジネスモデルへと行き着いたのです。
ーーそこからどのようにして事業を拡大させていったのですか。
多川一馬:
最初は個人事業として、関西エリアの商店街を中心に「催事形式」での出店を繰り返しました。シャッターが閉まっている店舗を見つけては、「1週間だけ貸してほしい」と家主と交渉し、期間限定の店舗を開くのです。夜中に商品を搬入し、販売してはまた移動するというハードな日々でしたが、天候による売上の変動や地域行事が客足に与える影響など、さまざまな販売データを蓄積することができました。どの場所ならどれくらいの売上高が見込めるかという実績を作った上で、確信を持てる場所に常設店を構えるという手法で、着実に基盤を固めていきました。
コロナ禍の逆張りで急成長 即金買取と販路厳守で信頼を獲得

ーーその後の店舗展開や事業拡大の転機となった出来事はありましたか。
多川一馬:
2016年頃までは8店舗ほど運営していましたが、東京など全国の催事現場で将来の出店を見据えた詳細なマーケットデータを蓄積し続けていたため、約5年間は常設店の出店は行っていませんでした。そして再び大きく動き出し、店舗数を急速に拡大させたのは2021年からです。
最大のきっかけは、新型コロナウイルスの流行でした。世の中でマスク不足が深刻化する中、弊社はいち早く自社でデザインした独自の「接触冷感マスク」を企画し、中国の工場に前払いをして生産ラインを確保しました。これがわずか数カ月で約7億円を売り上げるヒット商品となり、その資金を元手に店舗拡大へと舵を切ることができたのです。当時は緊急事態宣言下で多くの店舗が撤退していましたが、私は逆に「空き物件が増える今こそチャンスだ」と捉えていました。商店街でシャッターが閉まっている物件を見つけるとすぐに電話し、翌日には現地へ飛んで契約を結ぶというスピード感で、大阪、広島、名古屋、東京へと一気に出店攻勢をかけていきました。
ーー数ある買取業者の中で、貴社が取引先から選ばれ続ける理由は何だとお考えですか。
多川一馬:
主な理由は2つあると考えています。1つ目はスピード感のある現金買取です。在庫を処分したい企業にとって、キャッシュフローは非常に重要です。そのため弊社では、1案件につき1億円までであれば、検品後すぐに現金でお支払いするルールを徹底しています。2つ目は販路規制の厳守です。メーカーは、ブランド価値を守るためにネット販売の禁止や販売エリアの限定といった要望をお持ちです。弊社はそれを確実に守り、自社の実店舗だけで販売するなど、約束を確実に守ることで信頼を積み重ねてきました。この誠実な対応が評価され、現在ではメーカーだけでなく、販路に困った同業他社からも商品を買い取ってほしいと相談される独自のポジションを築くことができました。
1坪フランチャイズで販路拡大 「給料倍増」を掲げ社員の生活を豊かに

ーー今後の展望として、特に注力されている新しい取り組みについて教えてください。
多川一馬:
現在は卸売事業の強化として、「1坪フランチャイズ」というモデルを推進しています。これは、美容室や整骨院、ホテルのデッドスペースなどに、弊社が厳選した売れ筋商品のみを陳列する什器を設置させていただく仕組みです。店舗側は初期費用を抑えて物販を導入でき、弊社としても新たな顧客接点を増やすことができます。すでに導入店舗からは追加注文が入るなど手応えを感じており、今後はスーパー銭湯や道の駅など、今までにない場所に展開していきたいと考えています。
ーー組織づくりや人材育成において特に重視されていることは何でしょうか。
多川一馬:
軸としているのは2点あります。まず1つ目は、会社のビジョンの浸透です。「なくてはならない存在になる」というビジョンを、社員一人ひとりが具体的に理解できるように「ビジョンマップ」を自作しました。外部委託では1000万円以上の費用を要すると知り、自ら約3カ月を費やして、全社員の指針となるマップを完成させました。
2つ目は、従業員への還元です。私は「従業員の給料を倍にする」ことを経営の最大のテーマに掲げています。売上目標の達成も大切ですが、それによって社員の生活が豊かにならなければ意味がありません。弊社では年に2回の昇格チャンスを設け、成果を出した社員には正当に報いる仕組みを整えています。未経験で入社した社員が成長し、活躍することで給料が上がっていく。その瞬間を見ることが、私にとって何よりの喜びであり、原動力なのです。
編集後記
「100億円の売上高よりも、従業員の給料を倍にしたい」。多川氏の言葉からは、ビジネスの成功以上に、共に働く仲間への深い愛情が感じられた。一見、豪快に見える出店戦略の裏には、綿密な現場経験と、関わる全ての人のメリットを考える繊細な視点がある。「もったいない」という素朴な感情から始まった事業は今、社会課題を解決し、人々の生活を潤す大きな循環を生み出している。廃棄ゼロを目指す同社の挑戦は、これからの消費社会に新たな価値観を提示し続けるだろう。

多川一馬/1983年大阪府東大阪市生まれ。高校卒業後、物流業界へ進み、ヤマゼンロジスティクス株式会社に入社。商品管理の現場にて実務経験を積む。2008年、個人事業として「Trust」を創業し、2013年に株式会社Trustへ法人化。現在は「廃棄ロスの削減」を掲げ、余剰在庫等の商品を現金買取し、全国へ再流通させるアウトレット事業を展開している。