
全国から厳選したお米や出汁、調味料などを中心に取り扱う株式会社 AKOMEYA TOKYO。食品のおいしさはもちろんのこと、その裏に秘められた伝統や作り手の思いを大切にした経営方針が特徴で、現在首都圏を中心に25店舗(2025年2月時点)を構える。
日本食がユネスコ無形文化遺産として注目される中、その可能性をさらに広げるためには何が必要なのか。代表取締役社長の山本浩丈氏に、これまでのキャリアや店舗数拡大の背景、そして今後の展望についてうかがった。
グローバルな視点で芽生えた「日本再生」への思い
ーーまずは幼少期から学生時代の話を聞かせてください。
山本浩丈:
私の通った小学校の真裏に、ベトナム戦争後の難民の方の受け入れを行った大和定住促進センターがあり、近くには厚木基地もありました。そうした環境の中、難民センターの子どもたちと交流する機会があり、彼らの言葉が通じないのに、「遊ぼう!」と笑いかけてくれる姿を通して「幸せとは何か」を深く考えるようになりました。それが私の原点となっています。
ーーその経験が、大学時代に海外へ行くきっかけになったのですね。
山本浩丈:
はい。大学生の時、ワーキングホリデーで1年間オーストラリアに滞在しました。当時の海外では、「日本は経済的に豊かだが中身がない」という印象も少なからずありました。
私自身、現地で悔しい思いを経験したこともありますが、それらの経験を通して「日本を世界に誇れる国にしたい」という思いがより強くなり、その思いを実現する上で、当時「日本の物価を半分にする」という目標を掲げ、流通から日本を変えようとしていたダイエーの理念に共感し、入社を決めました。
ーーダイエー入社からスターバックス時代のキャリアについて教えてください。
山本浩丈:
当時、ダイエーが掲げた「日本の物価を半分にして豊かな社会をつくる!」という理念に共感し、入社しました。しかし、消費者の価値観が「安さ」から「クオリティ重視」へと変化するのを肌で感じていました。
そんな時に出会ったのが、「スターバックス成功物語」という本でした。人の真心を中心にした経営、人間味あふれる「スターバックス体験」こそが、競争優位性の源泉、などについて書いている本です。バブル崩壊で元気を失っていた日本に、この価値観を広めることができたら、日本が元気になるに違いない、と考え入社しました。
その時のスターバックスコーヒージャパンの親会社が、サザビーリーグだったのです。その後、縁あってサザビーリーグに入社。サザビーリーグでは、フライング タイガー コペンハーゲンの日本展開など、新規事業の立ち上げに携わりました。そして現在は、同じくサザビーリーグのグループ会社である、AKOMEYA TOKYOで、日本の食文化を世界に発信する挑戦をしています。
日本のブランド力を発信する「AKOMEYA TOKYO」との出会い

ーーどのような経緯で「AKOMEYA TOKYO」に参加することになったのでしょうか。
山本浩丈:
これまで私が携わってきたスターバックスもフライング タイガー コペンハーゲンも、海外ブランドをフックにして日本を元気にする取り組みでした。次は、日本発のブランドを海外に広め、日本を元気にする挑戦をしてみたいと考えるようになりました。それを実現できる事業をサザビーリーグ社内で探していた時に「AKOMEYA TOKYOだ」と感じたのです。それが2020年3月のことです。
日本の文化の中心は食だと思います。特に、主食であるお米の文化は日本文化そのものです。お米を軸にしたブランドを海外で展開し、日本の文化が評価されることに大きな魅力を感じました。
ーーAKOMEYA TOKYOで、最初に取り組まれたことは何ですか。
山本浩丈:
AKOMEYA TOKYOが銀座で創業したのが2013年4月で、私は3代目のリーダーです。これからさらなる成長を目指すためには、ブランドを強化し、一人ひとりが「ここにいる理由」をしっかりと自覚し、自律的に行動ができるカルチャーが必要と考えました。そこでまず「ミッション・ビジョン・バリュー」を改めて明確化することから着手しました。
私たちが関わる一次産業の方々の平均年齢は75歳です。このままだと10年後には、おいしいお米が食べられなくなる可能性があります。それは日本の食文化の衰退を意味し、日本の精神性の一部も失われかねません。そうならないようにするためにも、一次産業の現状をしっかりと理解し、それを伝えながら、日本の食の可能性を拡げる取り組みを進めることに、大きな意義があると考えています。
私たちは「おいしい」を循環させる社会の実現を存在意義として掲げました。ただ食べるだけではなく、その背景を理解し、おいしく食べることで応援につなげる。これこそが私たちが目指す「AKOMEYA TOKYO」のあり方です。
ーー日本の食文化を守るための、具体的な取り組みを教えてください。
山本浩丈:
象徴的な商品に「アコメヤの木桶味噌」があります。約10年前に、小豆島の醤油屋さんを中心に「木桶復活プロジェクト」が立ち上がりました。当時、日本で木桶を製造できる会社は1社しかなく、この伝統技術の衰退を危惧して起ったプロジェクトです。
大工さんや食品メーカー、流通業界の関係者らが毎年1月に小豆島に集まり、木桶文化を後世に残そうと、みんなで語らい、同志としての絆を深めています。私たちもこのプロジェクトに賛同し3年前に木桶を発注して、取引先の味噌屋さんと共同で、専用の木桶を使ったAKOMEYA TOKYOオリジナルの味噌を作りました。
一般的な味噌は400gで300~400円程度ですが、私たちの木桶味噌は1,188円です。一見高く感じられるかもしれませんが、「食のカタリスト」である私たちが触媒として機能し、木桶職人復活プロジェクトと味噌屋さんとタッグを組んで、イノベーティブな商品を作り、スタッフが語る人としてのカタリスト機能を発揮して、背景にある物語を丁寧に伝えると、即売り切れとなりました。
ストーリーが伝われば、私たちが目指す「“おいしい”の循環型社会」を実現できると確信した瞬間でした。
食文化を次世代につなぐ!「“おいしい”の循環型社会」の実現

ーー「AKOMEYA TOKYO」の今後の展望を教えてください。
山本浩丈:
現在、店舗数は25店舗ですが、2026年度末までに50店舗への拡大を目指しています。また、海外展開も視野に入れており、台湾では既に2店舗を運営(2025年2月現在)し、現地での知見を蓄積しています。
アメリカやヨーロッパからも関心を寄せられていますが、単に出店するだけでは十分ではありません。事業拡大には、現地での体制構築やスケール感を慎重に考慮する必要があります。現在は、さまざまな可能性を模索しながら、長期的な視点で成功への道筋を模索しています。日本の食文化を世界に伝えることが日本を元気にすることを信じて疑わずに、「おいしい輪」をさらに広げていきたいと考えています。
編集後記
「“おいしい”の循環型社会」この言葉に、山本社長が抱く「日本食の伝統、素晴らしさ、ブランド力を伝えたい!」という熱い思いが込められていることを実感した。私たちも、スーパーや台所、食卓など何気なく向き合う「食」との瞬間にふと立ち止まり、その食材の生産者たちの努力に思いを馳せることが、「“おいしい”の循環型社会」の実現へとつながるのではないだろうか。

山本浩丈/1970年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学卒業。株式会社ダイエー、スターバックスコーヒージャパン株式会社、コンサル会社を経てサザビーリーグに入社。2013年、サザビーリーグ執行役員、ゼブラジャパンの代表取締役に就任。2020年以降、AKOMEYA TOKYOの事業部長を務める。2022年に株式会社 AKOMEYA TOKYO設立に伴い、現職に就任。