
75年の歴史を持ち近畿圏を中心にLPガス事業で地域のインフラを支え続けてきた大丸エナウィン株式会社。現在はアクア事業や医療・産業ガス事業など多角的な事業展開で社会に価値を提供している。2025年、代表取締役社長執行役員に就任した居内清和氏は、奈良の営業所長時代に強い危機感から、同エリアで医療・産業ガス事業を立ち上げた立役者だ。その後本社で要職を歴任し、企業理念の策定や人事評価制度の刷新など次々と改革を推し進めている。「100年企業」に向けたビジョンとこれまでの歩みについて詳しくうかがった。
危機感から生まれた不退転の決意と未開拓エリアでの事業立ち上げ
ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。
居内清和:
私が就職活動をしていた時期は、いわゆるバブル崩壊後の超買い手市場で、数十社受けても内定が数社という時代でした。そうした中、内定をいただいた企業の中から当社を選んだのは、ガス関係の事業は人々の生活に密着しており、安定していると感じたからでした。当時は「誰もが知っている大企業に入れなくても、あまり知られていない優良企業に入り、その会社を自らの力で大きくしていく過程で、社長を目指せるようになれば、やりがいを見いだせるのではないか」と心に誓って門を叩いたのを覚えています。
入社後は滋賀支店に配属され、最初の3年間はガスの配送センターで供給や配達の現場業務に従事し、4年目からは希望を出してLPガスの直売部門へ異動となりました。それまでの直売部門では一般家庭や業務用関係のお客様を対象に、ガス関係の営業のみを中心にしていましたが、将来を見据えて新たにリフォームや住宅設備の営業にも奔走する日々を送ります。滋賀ではトータルで15年間、LPガス部門での経験を積み上げた歳月でした。営業としての実績が認められたことで昇進を重ね、事業の最前線で現場の手触りを得ることができた貴重な期間と感じています。
ーーその後、どのようなキャリアを歩まれたのですか。
居内清和:
滋賀でマネージャーを務めるなど一定の評価をいただき、初めての転勤で奈良の営業所長を任されました。実はその頃、滋賀に家を建てたばかりだったのですが、私は迷わず裸一貫で奈良へ乗り込みました。
しかし、いざ奈良や大阪に行ってみて衝撃を受けました。滋賀は当社のシェアが高くLPガスが主流でしたが、奈良などの都市部では都市ガスのシェアが圧倒的だったのです。「このままLPガス一本に頼っていては、あと20年も30年も会社がもたないのではないか」と、強烈な危機感を覚えました。当時のLPガス業界全体を見渡しても、人口減少や都市ガスへの移行が進む中で、既存事業だけに依存することへの限界を感じ、新しいことを始めなければという強い課題を突きつけられたのです。
ーーその危機感が、奈良での新たな事業展開につながったのでしょうか。
居内清和:
奈良の所長へ就任して2年目に、当時はLPガスのみを扱っていた奈良の営業所内で、全社的にはすでに展開していたものの、未開拓だった医療・産業ガス事業の立ち上げに踏み切りました。当時、会社の役員たちからは「責任をとれるのか」と問われましたが、「今やらないと会社の将来がない」と不退転の決意で押し切る形でスタートさせたのです。家を建てたばかりで人生をかけて奈良へ来たこともあり、失敗を恐れず割り切って取り組めたことが結果につながったのだと思います。
さらにその2年半後には、奈良に製造工場も建設しました。住民の方々の理解を得るのにも苦労し、完成までに3年ほどかかりましたが、災害の少ないエリアである奈良に製造拠点を設けたことで、結果的に今の当社の安定供給体制の要であり、最大の主力工場となっています。奈良という地でゼロから事業拠点を構築し、形にしたこの挑戦は、私自身の大きな財産であり、今の当社の屋台骨にもなっています。
本社での要職歴任から社長就任へ 「100年企業」を見据えた理念の策定

ーー社長就任に至るまではどのような経緯がありましたか。
居内清和:
奈良での事業立ち上げと工場建設を軌道に乗せた後、大阪支店にて支店長を経験した後に本社へ移り、社内のさまざまな部門の部長職を歴任しました。各事業部門を統括する中で、会社全体の強みや課題を俯瞰的に捉えることができるようになったことは大きな収穫です。
そうした歩みを経て、2025年に代表取締役社長執行役員という重責を担うことになりました。当社は75年の歴史を持つ会社ですが、これからも社会に必要とされ続ける「100年企業」を目指して歩みを進めていくための舵取りを任されたと受け止めています。
ーー現在の事業内容と強みについて教えてください。
居内清和:
現在は大きく3つの事業を展開しています。1つ目は昔からの主軸である「リビング事業」で、LPガスや住宅設備、リフォームなどを手掛けています。2つ目は「アクア事業」で、ミネラルウォーターのボトリング製造から宅配までを行っています。そして3つ目が「医療・産業ガス事業」です。在宅医療や病院向けの医療ガス、現場で使う産業用ガスやロボットなどの機材販売を行っています。
当社の強みは、営業、配送・物流、製造というプロセスを自社で「三位一体」となって賄っている点です。本来であれば、拠点を一箇所に集中させた方が効率的であり、利益も上がって、人員も抑えられます。しかし当社は、あえて関東、北陸、中部、近畿、四国、九州へと拠点を分散させています。たとえばアクア事業の水の製造工場に関しても、近畿圏と関東圏の二箇所にあえて分けて建設しました。これは、万が一どちらかのエリアで大規模な地震などの災害が起きても、もう一方の拠点がバックアップとして機能し、迅速に対応できるBCP(事業継続計画)体制を敷くためです。お客様や社会への供給を絶対に止めないというこの姿勢こそが、当社の最大の強みであり、大きな信頼につながっています。
ーー社長就任後、どのようなことに取り組まれたのですか。
居内清和:
当社は創業から75年の歴史がありますが、長らく明文化された企業理念や行動指針がありませんでした。グループ全体で社員が700人近くに増え、事業も多角化する中で、全員の指標となる「言葉」が必要だと感じたのです。そこで、外部のコンサルタントに頼るのではなく、社内でプロジェクトチームをつくり、半年間かけて会社の歴史や大切にしてきた思いを言語化し、企業理念をつくり始めました。
当社の創業は4人のメンバーが「和」をもって立ち上げたというルーツがあります。その「和」や「感謝とまごころ」といった言葉を紡ぎ、新たな企業理念を決定し、創立記念日である2026年2月16日に社内外に発信しました。「100年企業」へと続く道をつくるためには、皆が向かうべき方向を示す言葉が不可欠だと考えています。
「人」こそ競争力 働きがいと働きやすさを両立する組織へ

ーー今後の成長に向け、組織づくりや人材戦略のビジョンはありますか。
居内清和:
現在、新卒・中途採用ともに非常に強化しています。当社はテレビCMなどは行っていませんが、財務内容や企業の歴史などを総合的に評価する信用調査会社からは、超一流企業と肩を並べる高い評価をいただいています。そうした優良企業としての「隠れた魅力」を大学や学生に具体的なアピール活動を通じて積極的に伝え、次世代の幹部候補となる人材を今後も継続的に採用していきたいと考えています。
当社の社員は「トゲトゲしていない、いい人」が多いと感じています。毎月ゼロから売上をつくらなければならない販売会社とは異なり、LPガスという盤石な収益基盤があるため、過度なプレッシャーが少なく穏やかな社風が根付いているのです。中途入社の社員から「本当にいい会社ですね」と驚かれることも珍しくありません。だからこそ採用においても、単に能力が高く販売ができる人よりも、誠実で嘘をつかず、謙虚に感謝できる「人間力」を持った方を第一の基準としています。
ーー社員に長く活躍してもらうための環境づくりにも注力されていますか。
居内清和:
一人ひとりの要望に合わせた働き方を提供できる働きやすい環境を整えています。新しい人事システムの導入を進めており、たとえば、勤務地の希望はもちろん、家族構成、子どもの年齢など、社員一人ひとりが置かれている状況や悩みをシステムで細かく管理・把握し、適材適所に配置できる仕組みを構築しています。また、ハード面でも事務所の改築や新築を徹底的に進めています。若い世代が「ここで働きたい」と思えるような働きやすい環境づくりに投資を惜しみません。
ーー事業を通じた働きがいについてはいかがでしょうか。
居内清和:
私たちが扱っているのは、人々の生活や命に直結するインフラです。医療関係の事業は、少子高齢化が進む中で社会からますます必要とされる領域であり、社会課題の解決にダイレクトに貢献できる大きなやりがいを感じられるはずです。
また、給湯器の故障時にお風呂に入れず困っているお客様に対し、当社のLPガスを用いた仮設給湯器でお湯を提供して感謝されるなど、「暮らしを支えている」と実感できる場面も少なくありません。
さらに、LPガス事業自体の将来性についても大きな追い風が吹いている状況です。実は昨年、国の「第7次エネルギー基本計画」に初めてLPガスが明記されました。これまで天然ガスや原子力などは含まれていたものの、LPガスは入っていなかったのです。今回明記された背景には、災害や地震発生時の強さに加え、米国からのシェールガスなど中東以外からも安定して調達できるルートが確立されたことが挙げられるでしょう。
国から「安定したエネルギー」として正式に認知された事実は、社員が将来にわたって安心して働ける強力な根拠となっております。今後は、新しい人事システムを活用して各部署の評価を細分化し、それぞれの頑張りが正当に評価される組織を目指していく所存です。
ーー最後に、今後の事業展開と意気込みをお願いします。
居内清和:
2030年に向けての目標は、事業のバランスを最適化することです。もともとLPガス事業が売上高の大半を占めていましたが、他の主力事業が40%程度まで成長してきました。今後はこれを50対50の割合にし、リスクヘッジをしながら安定して利益を拡大できる構造へと変革していく方針です。
また、これからのAI時代において、AIができる業務は効率化される一方で、AIにはできない現場の工事や修繕、配送といった物理的な作業の価値がますます高まると考えています。当社は今、これまで外注に頼っていたような工事関係や設備工事などもすべて自社で賄えるよう、「内製化」を強力に推し進めているところです。私が奈良の地で医療・産業ガス事業の拠点を打ち立てたように、当社には挑戦を受け入れ、形にしていく風土があります。人の力にしかできない技術力と、当社の理念に共感してくれる「人間力」あふれる仲間たちと共に、100年続く強靭な企業をつくり上げていく所存です。
編集後記
「あの時の危機感がなければ、今のような安定成長はなかった」。インタビュー中、居内氏が語った言葉には、現場からの叩き上げで退路を断つ決断を下し、奈良の地で医療・産業ガス事業の拠点を立ち上げた経営者ならではの重みがあった。歴史ある老舗企業でありながら、その地位に安住することなく、自らリスクを取って新たなエリアで事業を立ち上げ、現在は人事制度や働く環境の改革にもメスを入れている。生活インフラを支えるという強い使命感と、社員一人ひとりを大切にする温かな眼差し。その両方を兼ね備えた大丸エナウィンの挑戦は、これからも地域社会に豊かな価値を提供し、新たな人材の活躍の場を広げ続けるだろう。

居内清和/1971年5月12日兵庫県生まれ。1994年に京都産業大学卒業後、大丸工業株式会社(現・大丸エナウィン株式会社)に入社。奈良営業所長(現・奈良支店)着任後2年目より現在の主力部門となっている医療・産業ガス部門の更なる事業拡大のため、一般高圧ガス製造工場を新設し、営業と供給のバックアップ体制を確立する。その後、大阪支店長を経て本社にて取締役に就任し、ぽっぽガス部長、エネルギー・住設部長、CN推進部長、常務取締役リビング事業本部長を経て、2025年6月、代表取締役社長執行役員に就任。