※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

六本木ヒルズや麻布台ヒルズなど、都市の風景を刷新し続けてきた森ビル株式会社。そのDNAを継承し、茨城の地でゴルフ場の新たなあり方を提示するのが森ビルゴルフリゾート株式会社だ。同社を率いるのは、かつて総合商社で中東をはじめ世界を渡り歩き、森ビル転身後は大規模再開発の最前線にも立っていた、代表取締役社長の多田野敬氏。「ゴルフ場運営は街づくりに通ずる」と熱く語る同氏に、商社マン時代のタフな原体験から現在推進する改革、そして「日本一」への道筋をうかがった。

異境で学んだ「対話」という武器

ーー社長のキャリアの原点についてお聞かせください。

多田野敬:
新卒で丸紅株式会社に入社しました。学生時代から抱いていた「海外で勝負したい」という渇望、それがすべてでしたね。入社直後から「とにかく海外へ」と希望を出し続け、3年目で念願の海外駐在(サウジアラビア・リヤド)が決まったのです。当時の社内でも異例の若さによる抜擢でした。

ーーサウジアラビア駐在中は、どのような壁に直面しましたか。

多田野敬:
建設・農業機械を現地の代理店を通じて販売するミッションでしたが、当初は言葉の壁に阻まれました。英語も拙く、相手にされない日々でした。しかし、そこで諦めれば終わりです。「母国語でない者同士、お互いの国特有のなまりやクセがあっても、通じればいいんだ」と腹を括り、とにかく代理店へ足繁く通い詰めました。若く見られぬよう髭を蓄え、対等に渡り合う。未熟だと侮らせない気概、そして流暢な言葉よりも膝を突き合わせて本音で語り合う姿勢こそが、ビジネスにおける信頼の礎となる。その真理を、中東の熱気の中で叩き込まれました。

「都市をつくる仕事」への転身

ーー丸紅から森ビルへの転職を決断した理由をお聞かせください。

多田野敬:
商社の仲介ビジネスはとてもやりがいがありましたが、色々なご縁があり、都市を舞台に街そのものをつくる森ビルに出会い、次第に「自らの手で形に残るもの、長く愛される空間をつくりたい」という気持ちを抱くようになりました。

入社後は、お台場「ヴィーナスフォート」の建設プロジェクトや、再開発事業における権利者との権利変換交渉に15年以上にわたり従事しました。また、当時は並行して明治大学大学院にも通い都市計画の知識を蓄えていました。何もない場所に街が生まれ、人が集う。その舞台裏には、利害関係の異なる人々の思いを紡ぎ合わせる、泥臭くも人間味あふれる対話の日々がありました。この経験が、現在の私の経営スタイルの根幹をなしています。

ーーそこから現在のゴルフリゾート事業へ至る経緯はどのようなものだったのでしょうか。

多田野敬:
私自身、無類のゴルフ好きであったことが最大の原動力です。ある時、森ビルの上層部から「経営者としての経験を積んでみないか」と打診を受けました。好機と捉え、2016年に取締役副社長として着任。その後社長に就任し、「日本一のゴルフ場」という旗印を掲げて改革に着手しました。

「アスリート」と「リゾート」 二つの頂

ーー運営されている2つのゴルフ場、それぞれの個性について教えてください。

多田野敬:
私たちが運営を担うゴルフ場は「宍戸ヒルズカントリークラブ」と「静ヒルズカントリークラブ」ですが、この2つは全く異なる個性を備えています。

宍戸ヒルズは、男子プロゴルフツアーのメジャー大会を2003年より連続で開催している、真のアスリート仕様です。難易度が高く、プロさえも唸らせる戦略的なコースは、挑戦者の闘争本能を掻き立てます。一方、静ヒルズは「リゾートと育成」をテーマに掲げています。中嶋常幸プロが主宰するヒルズゴルフトミーアカデミーの拠点を有し、畑岡奈紗プロら世界基準の選手を輩出する一方、ホテルを併設し、ゆったりと滞在しながらゴルフを堪能できるリゾート機能を完備しています。

また、その他にも、東京には「ヒルズゴルフアカデミー」というレッスンスクールも運営しており、初級者から上級者まで幅広い方々を対象とした体系化されたプログラムを提供しています。

ーー貴社が提供しているサービスにはどのようなこだわりがあるのでしょうか。

多田野敬:
都心から少し距離があるという立地を逆手に取り、わざわざ足を運んでいただけるような「魅力付け」に注力しています。単にプレーを楽しむ場に留まらず、施設の充実度やスタッフのホスピタリティの徹底、その他にもホテルやプール、バーベキュー施設などを完備した「リゾート」としての価値も追求しています。たとえば静ヒルズでは、コース内でのキャンプや本格的なバーベキューを楽しめるアクティビティも整備しました。

こうした体験を支える要素の一つとして、提供するメニューにも徹底してこだわっています。本格的な手打ちそばの提供、焼きたてパンを販売するベーカリーの併設、地元名産を活かしたオリジナルブランド『宍戸納豆』の開発など、その取り組みは多岐にわたります。「ゴルフ場だから」という妥協を一切排除し、森ビルが都市開発で培った「ヒルズクオリティ」を細部にまで宿らせる。これこそが、私たちの譲れないこだわりです。

また、森ビルグループとしても地域との共生を掲げ、地元自治体と連携した「街づくり」にも注力しています。茨城県笠間市とは「ゴルフによるまちづくりの基本協定」も結んでおり、地域活性化や青少年の健全育成など様々な活動に取り組んでいるところです。

進化するホスピタリティと未来への布石

ーーサービス提供において、特に重視されていることは何でしょうか。

多田野敬:
最も重視しているのはホスピタリティです。どんな至高のコースであっても、接客の質ひとつでその体験は色褪せてしまいます。そのため、スタッフの意識改革を徹底し、お客様の心に深く残るサービスの提供に努めています。

施設面でも、時代のニーズに合わせたアップデートを続けています。増加する女性ゴルファーが快適に過ごせるよう、2026年は宍戸ヒルズにて女性用ロッカーと浴室の全面改装に着手します。時代に即したヒルズクオリティを追求し、伝統を重んじながらも進化を続ける姿勢こそが、ブランドの価値を高めると確信しています。

ーー最後に、今後の展望をお願いします。

多田野敬:
2024年に『週刊ダイヤモンド』のゴルフ場ランキングで全国3位という評価をいただきましたが、目指す頂はあくまで「日本一」です。コースメンテナンスの品質、サービスの洗練度、そのすべてを磨き上げます。将来的には、都心から1時間圏内での新たな展開も視野に入れています。「ゴルフのある人生」を選んだ皆様に、最上の時間と空間をお約束します。既成概念にとらわれない森ビル流のゴルフ場革命は、まだ始まったばかりです。

編集後記

「都市をつくるようにゴルフ場をつくる」。多田野氏の言葉からは、単なる施設運営を超えた、空間プロデュースへの強烈な自負が感じられた。異国でのタフな交渉で培った胆力と、森ビルで洗練された都市開発の美学。この二つが融合し、トーナメントコースまで多面的な魅力を持つ「ヒルズクオリティ」のゴルフリゾートが形成されている。着手予定の女性施設改装など、矢継ぎ早に繰り出される改革の一手。その先にある「日本一」の景色を、ぜひ見てみたいと思わせるインタビューだった。

多田野敬/1967年東京都生まれ、慶應義塾大学商学部卒業。1990年に丸紅株式会社に入社しサウジアラビア駐在等を経て1996年に退社。同年森ビル株式会社へ入社し、用地取得業務および再開発事業における権利変換交渉に15年以上従事。2016年4月に株式会社宍戸国際ゴルフ倶楽部(現:森ビルゴルフリゾート株式会社)の取締役副社長に就任し、同年6月に代表取締役社長に就任。ゴルフ事業及び地元行政と連携した地域活性化等にも注力している。