
産業用計量器の専門メーカー、株式会社日本製衡所。今年で55期目を迎える同社の代表取締役、岩淵智宏氏は、工場現場からキャリアをスタートさせた叩き上げの経営者だ。営業本部長時代から組織改革を実行し、右肩上がりの成長を牽引してきた。販売から法定検査までを自社で行う一貫した「直販体制」を強みとし、近年はマレーシア警察に製品が採用されるなど海外展開も加速している。DXや生成AIの活用にも積極的な岩淵氏に、これまでの軌跡と今後の展望をうかがった。
車好きの営業マンから未経験で秤づくりの現場へ
ーーまずは貴社に入社された経緯をお聞かせください。
岩淵智宏:
もともと祖父が弊社の創業者です。幼い頃、祖父から「お前は将来この会社を継ぐんだよ」と言われた記憶はありますが、両親からは「自分の好きな道に進みなさい」と教育されて育ちました。私は車が大好きだったので、メカトロニクス系の専門学校に進学し、機械の構造などの知識を学びました。卒業後は、機械や部品を扱う商社に就職し、営業として約2年半働きました。その後、親からの誘いをきっかけに転職を決意し、弊社へ入社することにしたのです。
ーー入社後はどのようなお仕事をされたのですか。
岩淵智宏:
最初は工場に配属され、約3年間、未経験から溶接や研磨、穴あけ加工など、ものづくりの基礎をがむしゃらに学びました。その後は、はかりの命である“重量の正確さ”を調整する検査部門や、お客様のところへ製品を設置しに行く出張班、修理を行うメンテナンス部門など、総務と経理以外のほぼすべての部署を経験しました。各部署の大変さや楽しさを身をもって知ることができた経験は、現在の経営判断において大きな強みになっています。
気合いと根性に頼らないチーム制への移行と組織改革

ーーさまざまな部署を経験された後、経営にはどのように携わっていかれたのでしょうか。
岩淵智宏:
2015年に役員となり、2019年11月に代表取締役に就任しました。実は、就任前の営業本部長時代から、抜本的な組織改革に着手していました。それまでは当時の社長である父の下に15人の営業担当者がフラットに並ぶトップダウン型の組織でしたが、これでは個人のポテンシャルを引き出せません。そこで、チーム制を導入してリーダーを置き、ピラミッド型の組織へとつくり変えました。
同時に、エクセルで進捗管理シートをつくり、週次会議で案件の状況を共有する仕組みや、評価制度も整備しました。また、私自身が自ら営業やWebサイトのSEO対策、「YouTube」や「TikTok」、「Instagram」といったSNSを活用したWebマーケティングを先導しました。こうした取り組みにより、着任から現在までに一人当たりの売上高を大幅に向上させ、ずっと右肩上がりの成長を続けています。

ーー貴社の事業の強みについて教えてください。
岩淵智宏:
弊社は産業用の計量器総合メーカーで、車両などの重量を量る大型はかりから、1gが量れる小さな天びんまで、あらゆる業界に向けた製品をラインナップしています。売上高の約40%をトラックの重さを量る「トラックスケール」が占めており、中でも私が開発を主導したパッド式の「ワイヤレスポータブルトラックスケール」は、国内シェアトップクラスを誇ります。
弊社の最大の強みは、付加価値を重視した独自のビジネスモデルを展開している点です。業界では珍しく、メーカーでありながら販売、設置、メンテナンス、そして2年に1回義務付けられている法定検査までを、すべて自社で一貫して行う「直販体制」を敷いています。自動車業界で言えば、トヨタとディーラーが一緒になったような形ですね。効率は悪いかもしれませんが、直接ユーザー様と相対することで、現場の困りごとや細かなニーズを直接汲み取ることができます。その生の声が、業界初と言われるような新製品の開発に直結しているのです。
常識を壊し未来をはかる海外市場とDXへの挑戦
ーー今後の展望についてお聞かせください。
岩淵智宏:
弊社のビジョンである「常識を壊し、未来をはかれ」のもと、計量を通じて社会の効率化に貢献していきたいと考えています。注力していることの1つが海外展開です。新興国では経済発展に伴い物流が盛んになりますが、過積載のトラックが道路に大ダメージを与え、莫大な補修費がかかるという課題があります。すでにマレーシアの警察では、過積載の検問用に弊社の製品が採用されています。こうした新興国のインフラ保護や道路補修費の削減に向けたグローバル展開を加速させていきたいですね。
ーー社内での新たな取り組みは何かございますでしょうか。
岩淵智宏:
最新技術の活用として、DXの推進と生成AIの業務活用に力を入れています。総務や工場の若手メンバーがノーコードツールの使い方を学び、自社用の小さなアプリを開発するといった取り組みを始めています。また、私自身も生成AIの研修を受け、業務にどう活用できるかを社員に共有し、製造業の枠を超えた効率化を追求しています。これからの時代、AIを使えるかどうかが企業の生き残りを左右すると考えているからです。祖父は「日本一のはかり屋になる」という思いを込めて「日本製衡所」と名付けました。私の代、あるいは次の代でその夢を叶えられるよう、これからも挑戦を続けていきます。
編集後記
現場の第一線で汗を流し、ほぼすべての部署の業務を熟知している岩淵氏。その原体験があるからこそ、社員の目線に立った組織改革が実を結んでいるのだろう。メーカーの常識にとらわれない直販体制や、デジタルツールの早期導入、そして生成AIの活用まで、変化を恐れず軽やかに新しいものを取り入れる姿勢が印象的だった。マレーシアを皮切りに世界へと広がる同社の「はかる」技術が、社会の効率化に貢献していく今後の飛躍が楽しみだ。
