
2000年の設立以来、24時間365日体制で企業のITインフラを支え続けてきたエヌアイシー・ネットシステム株式会社。同社は今、生成AIの波を捉え、手順書通りの「言われたことをやる運用」から、AIを駆使して自ら「仕組みをつくる運用」へと劇的なシフトを遂げる第二創業期を迎えている。同社代表取締役社長の秋山粹史氏は、経営の中核に「社員満足度(ES)」を置き、就任わずか1年でES調査結果の改善率を41%から60%へと飛躍させた実績を持つ。そんな同氏が描くのは、エンジニアに「余白」を生み出し、従来の運用を価値転換させる「知的生産型バリュー(NextOps)」の実現だ。劇的なシフトを遂げる組織変革の裏側と、その展望について話をうかがった。
「運用はいつも100点であたりまえ」現場の痛みを起点としたES改革
ーー社長のこれまでのご経歴と、代表就任までのご経緯を教えてください。
秋山粹史:
1989年、日本情報通信株式会社(現NTTインテグレーション株式会社)に入社し、インフラ系エンジニアとしてキャリアをスタートさせました。その後、自社サービスの企画やアプリケーション開発に留まらず、全社の事業計画や経営企画など、会社全体を見渡すさまざまな業務を経験しています。特に全社の経営企画に携わっていた当時は、事業計画の策定・達成など、責任の重い立場で非常によい経験を積むことができました。
直近ではクラウド事業の副本部長を務めていましたが、2025年の6月にエヌアイシー・ネットシステムの代表に就任しました。もともと日本情報通信側の立場でエヌアイシーネットシステムと一緒に仕事をする期間も長く、以前から弊社の内情をよく知っていたことも、代表就任の背景にあります。
ーー就任から1年で、従業員満足度(ES)が劇的に向上した理由は何ですか。
秋山粹史:
私が社長に就任してまず行ったのは、全社員との対話です。システム運用という仕事は、何もトラブルがないのが当たり前で、どんなに頑張っていても障害が起きれば怒られてしまう厳しい世界です。そのため、社員の努力やモチベーションが見えにくく、就任前のエンゲージメント調査では満足度が41%に留まっていました。そこで私は、まずES向上に対する本気度を示すことから始めました。
ーーそこからどのようにして60%まで引き上げたのでしょうか。
秋山粹史:
まずは働く環境の改善から着手しました。障害対応時に作業しやすいようPCを2画面化したり、長時間の業務に耐えうるよい椅子を導入したりといった物理的な支援に加え、NI+Cグループ共通の「サンクス制度」を有効活用し、リモートワーク促進などの制度面も整えました。
また、コツコツと現場で頑張っているメンバーが光を浴びるよう、半期に一度キックオフの場で社員を表彰する「社長賞」の他、月単位で社員の活躍や頑張りを称える文化を取り入れ、私から全社員へメッセージを発信しています。こうした現場の痛みを理解した取り組みや頑張りを正当に評価し、称え合う文化へとつくり変えたことが、満足度向上につながったのだと考えています。働く環境の改善やリモートワーク促進などの制度面を整えたことで、「健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)」にてブライト500認定を取得することもできました。ESが高まらなければ、顧客満足度(CS)は上がりません。
「守り」から「攻め」へ 運用の概念を変える変革期
ーーAIの台頭により、運用業務はどのように変化していくとお考えですか。
秋山粹史:
アプリケーション開発とシステム運用は、生成AIの影響を最も受ける領域だといわれています。これを脅威と捉えるのではなく、AIを使いこなすための絶好のチャンス、いわば「第二創業期」と位置づけています。実際、社内ではオープンAIを活用したNI+Cグループ独自の生成AI「NICMA(ニックマ)」を導入しており、すでに社員の7〜8割が日常的に利用するまでに浸透しました。
現在は、24時間365日の安定稼働という最強の基盤を持ちつつ、生成AIで徹底した自動化を進めている最中です。これまでの運用は、人間が手順書に従って作業を行う「労働集約型」が中心でした。しかしこれからは、AIが実作業を担い、人間はAIへ指示を出し、最終的には統制を行う役割へとシフトしていきます。
ーー具体的にはどのような仕組みづくりを進めているのですか。
秋山粹史:
生成AIを活用したカスタマーポータルの構築等の改革を行う専任チームの立ち上げを進めています。これまで部門ごとに閉じていた技術や知見を集約し、全社規模で活用できる基盤を整えているところです。AIに指示を出し、最終的なチェックや統制を行うのは人間の役割です。自動化できる部分は徹底的に自動化し、人にしかできない高度な業務に注力する仕組みを構築していきます。
「余白」が生むエンジニアの成長環境と未来

ーー自動化が進むことで、現場のエンジニアにはどのような変化が生まれますか。
秋山粹史:
最大のメリットは、業務に「余白」が生まれることです。たとえば、システム障害時に数千行のメッセージから原因を特定するような作業も、AIを使えば瞬時に解決できるようになります。既存業務で手一杯な状態にさせず、AIで人手を減らすことで業務を効率化し、浮いた時間を新しい技術への挑戦に充てるサイクルを生み出す。そこから「自分はどうなりたいか」「新しく何をやりたいか」という創造性が芽生えてくるのです。
この効率化によって生まれた「余白」を使い、エンジニアが新しい価値を創造する働き方を、私たちは「知的生産型バリューの運用(NextOps)」と定義しています。単に守るだけの運用から、エンジニアが自らの意志で付加価値を生み出す「攻め」の運用へ。弊社は今、まさにそのエキサイティングなフェーズにあります。
ーーその「余白」はどのように有効活用しているのでしょうか。
秋山粹史:
「社員一人ひとりの成長が会社の成長に直結する」という信念のもと、スキルアップの場を提供しています。ベースとなる業界資格の取得も推奨しており、延べ取得数は300から450へと着実に伸びています。
弊社は若手も多く、新しい技術に触れられる機会が豊富にあります。そのため、未経験からでもAIを活用した運用スタイルへシフトし、生産性から創造性へと価値観を変えていくことが可能です。AIによって業務を効率化し、エンジニアが「自分がどうなりたいか」を追求できるキャリアの近道を用意しています。そんな「AIと人間が共創する新しい運用の形」を自らの手でつくり上げたい方に、ぜひ仲間になっていただきたいですね。
「精神論からの脱却」と運用の価値転換 3〜5年後の未来図
ーー改めて貴社の強みを教えてください。
秋山粹史:
弊社は営業部門を持たず、システム運用に特化したエンジニア集団です。NTTや日本アイ・ビー・エムといった強固なバックグラウンドを持つグループ内で、役割分担のバランスが取れているのが特徴です。その中で、設立から25年間にわたり、24時間365日体制でシステムを守り抜いてきた実績は、他社には簡単に真似できない私たちの最大の強みです。テクノロジーがクラウドへ変化しても、「お客様の業務を絶対に止めない」という根本的な使命は変わりません。世の中に多く残る、担当者が一人で抱え込んでいるような古いレガシーシステムであっても、弊社なら丸ごと引き受けられる確かな技術力とケイパビリティを持っています。
ーー今後、会社としてどのようなビジョンを描いていますか。
秋山粹史:
今後の最大の目標は「精神論からの脱却」です。従来のシステム運用は気合いや根性で障害を乗り切る労働集約型の業務であり、完璧を保ち続けるには限界がありました。だからこそ、テクノロジーとAIを活用した仕組みづくりへのシフトが不可欠です。私たちが日々蓄積する運用ノウハウは、他社にも提供できる大きな価値を持っています。
生成AIが発展した今こそ、手順書頼りの働き方を抜け出し、運用の価値観を変革するチャンスです。まずは2〜3年かけてAI基盤を立ち上げ、複数の新サービスを創出する計画です。弊社は30歳以下の若手社員が非常に多く、その男女比率はほぼ半々となっています。活気あふれる若手や女性の力が最大限に発揮できるような、柔軟でダイナミックな組織づくりをさらに推し進めていく考えです。
編集後記
「運用はいつも100点であたりまえ」。そんな現場の痛みに寄り添い、各現場の日々の頑張りを称える取り組みや対話を通じて組織の空気を劇的に変えた秋山氏の姿勢が非常に印象的だった。24時間365日インフラを支えるという最強の基盤があるからこそ、生成AIを活用した「攻め」の運用へと大胆に踏み出せるのだろう。徹底した自動化で生み出した「余白」をエンジニアの成長に投資する同社は、第二創業期を経て、かつてない知的生産集団へと進化を遂げようとしている。

秋山粹史/1989年日本情報通信株式会社(現・NTTインテグレーション株式会社)に入社。SE部門、サービス企画部門等を経て、全社経営企画部部長、クラウド事業本部副本部長等を歴任。2025年6月、エヌアイシー・ネットシステム株式会社代表取締役社長に就任。「あたりまえを支えます 難しいを簡単にします 新しいを協創します お客様のパートナーとして」をビジョンに掲げ、社員一人ひとりが成長を目指している。