
ハウスメーカーのパートナーとして確かな実績を築き、自社ブランドによる新築やリノベーション事業を本格化させている株式会社田辺工務店。代表取締役の田邊大輔氏は、DXが加速する建設業界において、あえて「人間にしかできない価値」を追求している。専属大工の高い施工力と、お客様に徹底的に寄り添う設計力を武器に、非住宅領域への参入も開始。目指すのは地域No.1ブランドの確立と100年続く強靭な企業づくりだ。多角的な経営改革を牽引する同氏に、変革への想いと未来への展望を聞いた。
柿を投げつけられた営業時代 現場で学んだメンタルと自社ブランドへの想い
ーーまずは田辺工務店に入社されるまでの経緯を教えてください。
田邊大輔:
幼い頃から建築に惹かれ、大学も建築学科へ進みました。しかし、卒業後すぐに家業を継ぐのではなく、まずは外の世界で人間力を磨きたいと考え、別の建築系企業で営業職に就いたのです。
当時は、土地を所有する地主様へ直接訪問する飛び込み営業が基本。庭先でお声掛けした瞬間に柿を投げつけられたこともありました。訪問先の7割で門前払いを受ける過酷な環境でしたが、そこで「何があっても動じない精神力」を徹底的に鍛え上げました。この経験は、経営者となった現在も私の大きな支えとなっています。厳しい修行を経て、株式会社田辺工務店へ入社しました。
ーー入社後はどのような業務からスタートされたのでしょうか。
田邊大輔:
私が入社した当時、社内には営業専任の担当がいませんでした。そこで私が初の営業担当となり、自社をアピールするためのカタログやパンフレットを自作するところから始めたのです。当時はハウスメーカー様からの下請け案件が中心でしたが、地道な営業活動によってまずは田辺工務店を知ってもらう取り組みを行い、認知度を広げていきました。
その後、東日本大震災の年から現場監督を務め、施工管理の実務を経て2022年に代表へ就任しました。現場と経営の両面を見る中で、会社の成長と安定に対する強い危機感を抱くようになりました。下請けという一本の柱だけでなく、自社ブランドを確立し、複数の太い事業の柱を構築しなければならないと考えたのです。
AI時代だからこそ光る圧倒的な「寄り添い」と「施工力」

ーー貴社の強みやお客様から選ばれる理由についてお聞かせいただけますか。
田邊大輔:
最大の強みは、約50名もの専属大工を自社で抱えている点にあります。長年培われた彼らの技術力は極めて高く、弊社の理念や設計の意図を深く理解した上で、高い精度の施工を実現してくれます。
また、お客様からは「自分たちのペースで住まいづくりが進められた」というお声を多くいただきます。効率を優先して打ち合わせ回数を制限する企業も少なくありませんが、弊社では営業を挟まず、設計士が直接お客様と向き合います。最新鋭のデザインオフィスを拠点にプランをとことん練り直し、着工して骨組みが完成した後でも、可能な限りお客様の変更要望にお応えしています。あらかじめ用意された商品を売るのではなく、一人ひとりの想いに徹底して寄り添う。時代に逆行しているように見えるかもしれませんが、この「人間にしかできない価値」の提供こそが私たちの誇りであり、強みだと感じています。
ーー人にしかできない価値を追求する一方で、業務効率化や他社との差別化についてはどのようにお考えですか。
田邊大輔:
テクノロジーの進化は凄まじく、土地の条件を入力するだけでAIが自動で図面を作成する時代は目前に迫っています。だからこそ、人にしかできない価値に注力するため、効率化できる領域にはAIを積極的に導入しています。たとえば、お客様との打ち合わせにはAI搭載のボイスレコーダーを活用し、「言った・言わない」の認識齟齬を防ぎつつ、議事録作成を自動化しました。DXも取り入れながら社員の業務負担軽減に目を向けています。
AIによるプランニングが普及すれば、設計の土台はどこも似通ってくるはずです。だからこそ、現場でしか具現化できない圧倒的な「施工力」と、お客様の細やかな要望をすくい上げて形にする「設計力」で、他社との明確な差別化を図っていく必要があります。
「社員が主役」の組織づくりと「湘南といえば田辺」と呼ばれる100年企業へ
ーー社内の環境づくりや、次世代を担う人材の育成について教えていただけますか。
田邊大輔:
社員一人ひとりが主役となり、のびのびと安心して働ける組織をつくりたいと本気で考えています。そのため、現場の声を形にする風土づくりを重視しており、コーポレートパンフレットの刷新や、企業理念を記載したオリジナル手帳の作成などは、すべて社員の意見から生まれました。また、手厚い健康経営・福利厚生にも力を入れています。インフルエンザ予防接種の費用負担、社内でのヤクルト配布、部署ごとの懇親会費用の補助など、共に働く仲間への投資は決して惜しみません。
人材育成に関しては、建設業界全体で技術の伝承が急務となる中、大工職において明確なキャリアロードマップを構築しています。入社後は現場で親方につき、7年間かけてじっくりと技術を磨き、8年目には「一人親方」として独立できる育成スケジュールです。同時に、技術以上に「素直さ・謙虚さ」を重んじる人間教育を徹底しています。将来的に独立し、弊社を踏み台にして飛躍してもらっても構いません。どこに出ても通用する、自分の足で立てる自立した人材へと成長してほしいと強く願っています。
ーー最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。
田邊大輔:
「湘南で工務店といえば田辺」と皆様から信頼される、地域No.1のブランドを確立することが目標です。その成長を牽引する新たな挑戦として、新築やリノベーションに留まらず、店舗やアパートといった「非住宅領域」への本格参入をスタートさせました。すでに専門の事業部を立ち上げ、ノウハウの蓄積を進めています。
既存の事業基盤を大切にしながら、こうした新たな「太い柱」を複数構築することで、いかなる時代の変化にも揺るがない強靭な経営を目指しています。現在の従業員と大工を合わせた規模は約90名ですが、ロードマップとして、まずは売上高30億円、次に50億円、そして将来的には売上高100億円規模への到達を見据えています。足元を着実に固めながら、次の世代へとバトンを繋ぎ、100年続く企業へと進化を続けていきます。
編集後記
インタビューを通じて印象的だったのは、田邊氏の「人」への惜しみない投資と、社員を心から信じる温かな姿勢だ。効率化の波が押し寄せる業界にあって、あえて手間暇をかける「寄り添い」を武器にする同社。社員自らが考え、主体的に動ける環境づくりこそが、その強さの源泉なのだろう。次世代の職人を育みながら、100年先も愛される企業へと成長していく過程を、今後も楽しみに追い続けたい。

田邊大輔/1986年神奈川県藤沢市出身。東海大学建築学科卒業後、土地活用の営業を経験した後に株式会社田辺工務店へ入社。2022年に代表取締役に就任。自社ブランドによる新築・リフォームリノベーション事業に注力している。