※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

1970年代のオーディオ全盛期から現在に至るまで、時代の荒波を乗り越えてきた株式会社シマムセン。量販店の台頭やネット通販の普及により業界地図が激変する中、同社は実際に試聴してもらう価値提供と、中古品からハイエンドまでの圧倒的な品揃えを武器に独自の立ち位置を確立した。若き日の修業時代に学んだ「プロ意識」を胸に、社員とともに本物の音楽体験を届け続ける代表取締役の堀野裕一郎氏に、これまでの軌跡と未来への展望について詳しくお話をうかがった。

期待を超える感動を提供する「プロ意識」の原点

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。

堀野裕一郎:
大学で電気工学を学んだ後、家業を継ぐ前の社会勉強としてアルプス電気株式会社(現・アルプスアルパイン株式会社)に入社しました。そこでは約4年間、製造現場から生産管理、総務、さらにはカーオーディオのアンプ設計まで、幅広く技術や組織の仕組みを学ばせていただきました。

ーーそこで得た一番の学びは何だったのでしょうか。

堀野裕一郎:
「プロ意識」についての教えです。当時は、プロとはお金をもらってする仕事のことだと思っていましたが、当時の社長から「感動を与えて、その対価をいただくのがプロなんだ」と教わりました。たとえば外食をした際、予想をよい意味で裏切る美味しさに感動し、その感動に対して私たちは対価を払っていますよね。言われたことをただやるのではなく、一歩先を読んで感動を提供する。この考えは、現在の経営の根幹となっており今でも大切にしています。

量販店との価格競争を回避した「独自の基幹システム」

ーー貴社に戻られた頃は、オーディオ業界や市場はどのような状況だったのでしょうか。

堀野裕一郎:
1970〜80年代にかけては、飛ぶように売れる時代でした。特に高校の合格発表がある3月は、親御さんがお祝いにオーディオを買い求める客が押し寄せ、年末のボーナス商戦よりも売上が高かったほどです。日本橋を歩けば両隣もすべて電気屋で、お客様が「隣はなんぼや」と値切って回るような熱気がありましたね。

ーーその後、熱気のあった業界の空気感はどのように推移していったのでしょうか。

堀野裕一郎:
大きな転機となったのは1990年代後半です。1998年頃から、東京資本の大型量販店が次々と進出してきたのです。価格競争の激化を受け、このまま薄利多売に巻き込まれては生き残れないと感じました。そこで、量販店と同じ土俵に上がらないための独自の戦略モデルへ舵を切りました。その方向転換に不可欠だったのが、顧客管理と在庫管理の徹底です。

当時はまだ手書きで顧客管理をしている店も多かったのですが、知識がないところから数年かけてデータベースを組み、自社専用の顧客管理の基幹システムを構築しました。1990年代後半から数年かけて自作したこのシステムが、今も会社の経営を支える重要な資産となっています。

ネットとリアルの棲み分けで「本物の価値」を守る

ーーインターネット販売への取り組みについては、どのようにお考えですか。

堀野裕一郎:
ネット販売においては、「店舗販売を邪魔しないネット販売を目指す」という明確なルールを設けています。全ての商品をネットに載せるのではなく、「ネットで売るもの」と「対面で価値を伝えるもの」をはっきりと明確に棲み分けています。大型のオーディオ機器などは、プロが配達して適切に設置・調整して初めて100%の性能を発揮する商品です。そのため、安易なネット販売ではなく、対面での販売を優先しています。一方でネット販売では、一般の店舗では買えないような数万円の高級な電源タップなど、ニッチな商品を中心に展開し、価格競争を回避しています。

ーー現在の事業は、どのような柱で構成されていますか。

堀野裕一郎:
大きく分けて3本柱で構成されています。1つ目は、オーディオ機器の店頭販売です。国内製品から海外製品、高級路線から一般的な価格までの豊富な品揃えと充実した試聴ルームをご用意しているのが弊社の強みです。定期的に試聴会も開催しており、遠方からもコアな音楽ファンが足を運んでくださいます。2つ目は、中古品のリセールビジネスです。グレードアップを望む顧客の下取りを行い、自社でメンテナンスして再販する中古市場の仕組みを確立しました。3つ目は、ネット販売です。ここでも量販店と同じ土俵に上がらず、価格競争にならないような商品を中心に展開しています。

規模の拡大よりも「最後までの責任あるサービス」を

ーー貴社の最大の強みについてどのようにお考えでしょうか。

堀野裕一郎:
やはり社員の力ですね。弊社の社員は皆、心の底からオーディオが大好きな人間ばかりで、離職率が極めて低いのが特徴です。「企業は人なり」の信念に基づき、豊富な知識を持つプロ集団を維持しているからこそ、質の高いサービスが提供できます。今後は、彼らの育成とともに、ハイエンド商品にも今まで以上に力をいれて、独自の個性を伝えていくことで、新たなファンの獲得を目指していきたいと考えています。

ーー最後に、今後のビジョンについて教えてください。

堀野裕一郎:
むやみな規模の拡大は追わず、今の規模だからこそできる、導入時の設置・調整からその後のアフターサービスまで、一人ひとりのお客様に対してきちっとした対応を徹底することが重要だと考えています。私たちの仕事は、単に機械を売ることではありません。本物の音楽を届け、音楽を通じてお客様に「安らぎ」や「心の豊かさ」を提供することです。この素晴らしい仕事に誇りを持ち、これからも本物の音楽のよさを体験していただき、オーディオ機器のファンを増やしていきたいですね。

編集後記

時代の変化に翻弄されることなく、本質的な価値を見極め続ける堀野氏。量販店との競争を避けるためのシステム自作や、ネット販売と実店舗の巧みな棲み分けなど、その合理的な判断の根底には、オーディオと音楽への深い愛情がある。効率化が進む現代において、プロによる設置や調整にこだわり、お客様の「感動」と「豊かさ」を追求する同社の姿勢は、専門店のあるべき姿を体現している。

堀野裕一郎/1950年大阪市生まれ。福井大学電気工学部卒業後、アルプス電気株式会社(現・アルプスアルパイン株式会社)へ入社。4年の就業期間を経て、1978年株式会社シマムセンに入社。1994年に同社代表取締役社長に就任。