※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

鋳造用の副資材であるバインダー(粘結材)の製造・販売において、確固たる地位を築くASKケミカルズジャパン株式会社。2017年に代表取締役社長に就任した南波洋氏は、外資系プラントメーカーや耐火物メーカーでグローバルな経験を持つ経歴の持ち主だ。「悩む価値があるのは自分の力で変えられることだけ」「決断しないという決断に気づくべき」と語る経営信念は極めて論理的でシンプルである。長年培ってきた技術力と強力なリーダーシップのもと、独自の社内改革を進める同社の強みと未来への展望に迫った。

1歳でも若いうちに「新しいチャレンジ」を

ーーまずは、これまでのご経歴について教えてください。

南波洋:
大学院では物理寄りの化学を専攻し、原子核のエネルギー準位の変化から結合に関与する電子状態などを計算するような、非常にミクロな研究をしていました。しかし、あまりに小さすぎる対象を扱い続けた反動から、就職の際には「目に見える大きなものを手がけたい」と考えるようになります。そして、新卒でスイス系の巨大プラントメーカーへ入社を決めました。そこでセールスエンジニアとして現場を経験した後、フランス系の耐火物メーカーへ転職し、東南アジア圏のゼネラルマネージャーなどを歴任してきました。

ーーそこからどのような経緯で、現在の会社で社長に就任されたのですか。

南波洋:
前職で45歳になったとき、公私ともにある種の「人生のチャプターの終わり」を感じる出来事が重なったんです。当時のポジションは過去の自分の貢献によって得たものであり、ふと「20年前のヒット曲でリサイタルを続けている演歌歌手のようだ」と感じてしまいました。どうせ社長という新しいチャレンジをするなら、居心地のよい場所にとどまるより、まったく新しい環境のほうがいい。外様として社長に就任するなら周囲からの風当たりも強いでしょうが、だからこそ1歳でも若いうちに厳しい環境に飛び込んだほうが、確実に自分の自信につながると確信したのです。

悩む価値があるのは「自分で変えられること」だけ

ーー仕事に対するブレない軸や信念についてお聞かせいただけますでしょうか。

南波洋:
基本的に「自分の力で結果を変えられることしか悩まない」と決めています。世の中には、明日の天気のように自分ではどうしようもないことで悩んでいる人が意外と多いんです。私は、5分間考えて解決のヒントすら浮かばない問題は、自分の能力を超えていると割り切って、それ以上悩むことを手放します。そうやって思考を切り分けることで、物事をシンプルに捉えられるようになります。

ーーリスクを恐れて踏み出せない人に対しては、どうお考えですか。

南波洋:
「優柔不断で決められない」と言う人がいますが、世の中はイエスかノーかの二択しかありません。「決めない」ということは、「今は何もしない/決めないことを決断している」のと同じですので、世の中に優柔不断は存在しないと考えます。誰もが常に何らかの決断をしているのだと自覚すれば、もっとシンプルに行動できるはずです。リスクは常にあるものだからこそ、やらない理由を探すのではなく、リスクをコントロールしながらうまく付き合っていくしかありません。

「まずはやってみよう」が生んだ社内改革

ーー就任後、どのような社内改革に取り組まれたのですか。

南波洋:
私が入社した当時、会社の売上高は数年間にわたり右肩下がりでした。そこで、まず営業組織を「既存顧客の深掘り(垂直展開)」と「新規顧客・商材の開拓(水平展開)」の2チームに明確に分けました。役割を分けることで、「既存顧客の対応が忙しくて、新規営業ができない」といった言い訳を断つためです。また、日本の鋳造工場は50名以下の比較的小規模な会社が大部分を占めます。自社・他社の商流などのしがらみを超えてそうした事業者の皆さまにも情報を届けたいという思いから、2021年より製品・ソリューションに関連する情報を盛り込んだメールマガジンを週1回配信を始めました。ありがたいことに購読者も多く、自称「鋳造業界最大のメルマガメディア」として大きな反響を得ています。

ーー新しい施策をスピーディーに実行できる秘訣は何でしょうか。

南波洋:
「まずはやってみよう」の精神です。完璧なソリューションができるまで動かないのではなく、やってみてダメならいつでも元の仕組みに戻せばいいだけです。早く決断すれば、早く間違いに気づき、早く軌道修正できますから。

鋳造業界の未来を切り拓き次世代へ継承する新たな挑戦

ーー最後に、今後の会社のビジョンや展望をお話いただけますか。

南波洋:
社員一人ひとりが幸せとやりがいを感じられる会社へと成長させ、若い世代にバトンを渡したいですね。優れたリーダーとは、一度掴んだものを自分の手柄として抱え込むのではなく、手を開いて誰かに渡し、空いた手でまた新しいものを掴みに行く人だと思っています。私が海外市場の開拓などのリスクを取って道を切り拓き、そこで得たものを若い人たちに経験として明け渡していきたいです。

事業としては、従来の有機バインダーから、臭いがなく働く人に優しい無機バインダーへの切り替えを進め、日本の鋳造業界の労働環境改善や人手不足解消にも貢献していきたいと考えています。

編集後記

「悩む価値があるのは自分で変えられることだけ」「決めないという決断をしている」など、南波氏の言葉はどれも極めて合理的で、核心を突いていた。変化を恐れず、常に新しいチャプターへ飛び込む同氏の決断力が、停滞していた組織に風穴を開けたのは想像に難くない。リーダーとして自らリスクを取り、その成果を次世代へ惜しみなく手渡そうとする姿勢は、激動の時代を生き抜くための強力な道標となるだろう。

南波洋/1971年生まれ、東京都出身。1996年理学修士(化学)修了後、スイススウェーデン系重電メーカー、アセア・ブラウン・ボベリ(ABB)の日本法人に入社。2000年にフランス系の現・カルデリス(Calderys)に入社し、営業技術部長、東南アジア地区ジェネラルマネージャー、アジア太平洋地区プロジェクト セールスディレクターを経験。2017年よりASKケミカルズジャパン株式会社の代表取締役社長、2020年より東南アジア/オセアニア地区のコマーシャル ディレクターを兼任。