
アパレル業界のリーディングカンパニーであるオンワードグループの中で、法人向けのユニフォーム事業などを手掛けてきた株式会社オンワードコーポレートデザイン。2023年の社名変更を機に、同社は従来の「服づくり」という枠組みを超え、企業の空間や働き方そのものをデザインする企業へと大きな変貌を遂げようとしている。コロナ禍という未曾有の危機の中で社長に就任し、組織の変革を牽引する村上哲氏に、自身の営業時代における挫折と成長の軌跡、そして同社が描く未来について話を聞いた。
飛び込み営業で味わった挫折 「顧客を好きになること」が原点に
ーーまずは、社会人としてのキャリアのスタートについてお聞かせください。
村上哲:
1990年に弊社に入社し、ユニフォームの生産管理に携わっていました。当時は会社保有のアメリカンフットボールチームに入団し、競技と業務を両立する日々です。生産部隊では、営業が受注した案件の縫製工場への投入や納期管理を2年ほど経験しました。しかし、業務を重ねるうちに「自らお客様と直接接し、反応を肌で感じたい」という動機が芽生えます。そこで、営業への異動を希望し続け、その結果、3年目の夏に営業部門への配属が実現しました。これがキャリアにおける最初の転機となりました。
ーー営業部門へ異動された後、どのような苦労や変化がありましたか。
村上哲:
異動から1年間は全く結果が出ず、悶々と悩む日々が続きました。新規開拓部署へ配属され、1日に10〜20件の飛び込み営業を行いましたが、最初は門前払いの連続です。結果が出ないだけでなく、お客様が抱える課題も引き出せません。社内の企画部門へ案件を持ち帰っても、「情報が足りない」と突き返される毎日でした。こうした厳しい環境の中で試行錯誤を繰り返し、「まずはお客様の現状を深く知らなければならない」という本質に気づき始めました。
ーー具体的に、どのような行動がきっかけでその壁を乗り越えられたのでしょうか。
村上哲:
お客様の企業を好きになり、現場を深く理解しようと行動を変えたことですね。ある日、お客様から「うちの社員が今、何を着ているか知っていますか?」と問われ、全く答えられない私がいました。相手の現状を知らずに提案するのは間違っていると痛感した出来事です。それ以降は、たとえば小売店のお客様であれば、実際に店舗へ足を運んで現場のスタッフさんと接するようにしました。現在のユニフォームに対する課題や要望を直接ヒアリングし、相手を深く理解するよう努めたのです。このように現場の声を拾い上げ、お客様の心に響く提案ができるようになって初めて、仕事の引き合いをいただけるようになりました。
ーーその後、ご自身にどのような変化がありましたか。
村上哲:
チームを率いる立場になってからは、個人の成果ではなく、チーム全体で高い目標を達成するプロセスに楽しさを見出すようになりました。係長から課長へと昇進して自身のチームを持つと、組織としての目標達成が求められます。しかし、「会社のために動け」と指示するだけでは人は動きません。そこで、私自身の経験や仕事の面白さを共有し、感情を共鳴させるアプローチをとりました。
結果としてチームの結束力が高まり、私一人では獲得できないような大型案件を部下が受注するようになったのです。壁に直面する部下がいれば一緒に対策を練り、一丸となって成果を上げることに大きなやりがいを感じていました。
コロナ禍での社長就任と空間づくりへの参入が生んだ「社名変更」

ーー社長に就任された当初はどのような状況だったのですか。
村上哲:
私が社長に就任したのは2020年ですが、まさにコロナ禍の真っ只中という、非常に厳しい船出でした。「私に務まるのか」という葛藤もありましたが、「お客様に喜んでいただく」という営業現場の基本視点を、全社員に浸透させることに注力しました。コロナ禍では人々の動きが止まり、ユニフォームの需要減少が避けられない不透明な状況です。どのような対策を講じるべきか周囲と議論を重ねる中で、原点に立ち返ることにしました。長年現場で培ってきた「お客様の課題を解決し、喜ばせる」という姿勢こそが今の組織に必要だと考え、その意識を社内へ広く伝えることを自らの役割と定めたのです。
ーー2023年に社名を変更されたそうですが、どのような背景があったのでしょうか。
村上哲:
単なるモノの提供にとどまらず、企業のあり方を体現する「空間」も含めた総合的な課題解決へ踏み込むためです。従来のオリジナルユニフォームの提案だけでは、事業成長に限界を感じていました。あるとき、ユニフォームを提案する際に、その空間デザインの提案もあわせて求められたことがありました。その時に、衣服のみの提案にとどまらず、空間全体のコンセプトまで構築できれば、今まで以上に顧客企業のブランド価値を高められると気づきました。
この経験から、私たち自身がお客様の根幹に関わり、空間づくりから働き方までを支援する領域へ進出すべきだと考えました。折しも、グループ内で空間デザインを手掛ける企業と合併する好機に恵まれました。この体制強化を機に、企業の全体像をデザインする組織へ進化する決意を込め、社名を変更した次第です。
機能的な服づくりから企業の「らしさ」をつくるコンサルティングへ
ーー他社と比較した貴社の強みを教えてください。
村上哲:
長年培った服づくりの基盤に空間や働き方の提案を掛け合わせ、お客様のブランド価値を高めるコンサルティング力です。売上高の過半数を占めるユニフォーム事業の技術力を土台とし、「その企業の“らしさ”や“ありたい”を形にする」という方針を掲げています。自社のブランドを前面に出すのではなく、私たちが持つ衣服や空間デザインの知見を活用し、お客様の従業員満足度を向上させ、相手のブランド価値そのものを高める支援を行っています。製造業の枠を超え、企業の課題解決に伴走する独自の立ち位置を構築しました。
ーーお客様からはどのような反響をいただいていますか。
村上哲:
対応の速さと顧客ブランドへの理解度を高く評価していただいています。
私たちは、営業から企画、デザイン、生産、アフターフォローまで自社内で完結できる一貫体制のためお客様の要望をスピーディーに実現することが可能です。
また、包括的に価値提供を行うことで顧客ブランドとの接点も増加します。お客様との対話から潜在的な課題・ニーズを引き出し、その背景にある「想い」「考え」「行動」を深く理解したご提案ができるようになってきたと感じています。そのため、「提案からアフターフォローに至るまで、当社のことを当社以上に考えてくれた」とご満足いただく機会が多くなりました。
失敗を恐れず「やりたいようにやる」文化が若手の成長を加速させる
ーー社員の育成はどのようにされていますか。
村上哲:
私たちは今、単なる「ものづくりのメーカー」から脱却し、お客様の“らしさ”や“ありたい姿”を共につくる「コンサルティング」の領域に踏み出そうとしています。そのため、営業職に対しても、単に注文を承る立場ではなく、お客様と並走する「コンサルタント」としての役割を強く求めているのです。
単に表面的な要望を聞いてデザインを提出するのではなく、「なぜユニフォームを変えるのか」「その先にどのような作業環境やブランドイメージを目指すのか」といった根本的な課題からお客様とディスカッションし、解決策を導き出していく。座学の研修以上に、このライブ感のある現場経験こそが大きな成長を生むと考えています。
実際、入社1〜2年目の若手であっても、本人が望めば案件の主担当に抜擢します。もちろん先輩がしっかりサポートに回りますが、若手が自ら主体となってお客様の想いを引き出す経験を積むことが、プロとしての自覚と確かな実力を育んでいるのです。
ーー貴社の企業文化についてお聞かせください。
村上哲:
若手に裁量を持たせるようにしています。個性を尊重し、手法は現場に委ねるという社風が古くから根付いているのです。私自身も若手時代、「ユニフォームだけではなく、何を提案してもよい」という指導のもとで育ちました。当然多くの失敗を経験しましたが、挑戦による失敗が評価を下げることはありません。この自由な環境があるからこそ、若手は斬新な発想で新規開拓に挑むことができます。日本を代表する企業のユニフォームや空間デザインに携わり、お客様の未来の姿を共に描く。若手のうちから規模の大きな仕事に触れられる環境は、働く上での大きな誇りにつながっています。
グループのハブとなり次世代の働き方をデザインし続ける

ーー今後の5年、10年を見据え、どのようなビジョンを描かれていますか。
村上哲:
自社の顧客基盤とグループ各社の資源をつなぐ「ハブ」となり、新たな価値を創造し続けることです。まずは売上高300億円の目標を達成し、段階的に事業規模を拡大していきます。その実現には、ユニフォームや販売促進に加え、新たに展開する「空間デザイン事業」の成長が不可欠です。さらには、約60年の歴史で築いた約2,000社の顧客基盤に対し、個社の事業であるユニフォーム・販促・空間の横断的な提案にとどまらず、グループや顧客リソースを活用するイメージがあります。たとえば、工場内に従業員向けの運動施設をつくりたいという要望に対し、グループ内の別事業の知見を投入し、さらに健康分野の顧客資源を掛け合わせて提案を行う。このように要素を融合させ、企業の課題を解決していく姿を目指しています。
ーー目標達成に向けて、組織や仕組みの面で注力されていることは何でしょうか。
村上哲:
顧客ごとに窓口を一元化する「アカウント体制」の構築と、情報発信力の強化です。これまではユニフォーム担当や販促担当など、提供内容や地域によって窓口が分散していました。お客様からのご要望を受け、企画から生産までを一人の担当者が統括できる組織へ移行し、提供価値を高めています。また、かつての訪問を中心とした営業手法から、積極的な情報発信によってお客様からお問い合わせをいただく仕組みへ移行しています。この活動を強化することで、成長を加速させます。並行して社内対話を活発にし、社員の働く意欲を高めていくことも重要な取り組みです。
ーー最後に、これから共に働く求職者の方々へメッセージをお願いします。
村上哲:
失敗を恐れず自ら行動を起こし、前向きに挑戦できる方と共に働きたいと考えています。私が大切にしている言葉に「一期一会」があります。多くの人と対話し、多様な意見を吸収して自らの成長につなげてほしいと思います。環境や組織への不満が生まれるのは、自身の行動が止まっているときです。主体的に動き、仮に結果が伴わなかったとしても、真剣に取り組んだ経験は必ず糧になります。自ら歩みを止めず、これからの新しい企業価値を一緒につくり上げていける方をお待ちしています。
編集後記
飛び込み営業での苦悩から、相手の現状を深く理解する重要性を学んだ村上氏。その原体験は、「服づくりから空間づくりへ」という企業の大きな変革に直結している。「行動が止まっているときほど不満が生まれる」という言葉には、失敗を恐れず挑戦し続けてきた同氏ならではの説得力がある。グループ全体の資源をつなぐ役割を担い、日本企業の働き方をどう変えていくのか。個人の裁量と挑戦を重んじる同社の次なる飛躍に期待したい。

村上哲/1967年生まれ。1990年、株式会社オンワード樫山入社、商事事業部配属。2007年に持株会社体制への移行により、株式会社オンワード商事へ転籍。取締役ユニフォーム事業部長を経て、2020年にオンワード商事株式会社の代表取締役社長に就任。2023年9月、株式会社オンワードコーポレートデザインに社名変更し、同社の代表取締役社長に就任(株式会社オンワードホールディングス常務執行役員兼務)。