※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

2014年の創業以来、日本の暗号資産業界を牽引し続けてきた株式会社bitFlyer。同社を立ち上げた加納裕三氏は、大手証券会社で技術者とトレーダーの二つの専門性を確立してきた。2016年には世界の取引量で首位に立つなど飛躍を遂げた同社だが、その道のりは決して平坦ではなかった。経営方針の相違による困難な時期を乗り越え、2023年に再び代表へと復帰した加納氏。なぜ彼は再び立ち上がり、そして、AIとブロックチェーンが交差するこれからの10年にどのような未来を見据えているのか。合理性と進化への渇望を持つ同氏に、事業の軌跡と次世代の生存戦略を聞いた。

金融の厳格さと技術力が生んだ取引所

ーーまずは、起業される前のご経験についてお聞かせいただけますでしょうか。

加納裕三:
前職はゴールドマン・サックス証券に技術者として入社し、その後、トレーダーも経験しました。こうした技術と金融の両方の知識は、弊社で暗号資産の取引所をつくる際に有利に働いています。弊社を立ち上げた際には、共同創業者とともに自らも多くのプログラムを書きました。システム全体の設計には技術者時代の経験、取引所のシステム設計には取引担当者としての経験が大いに生きています。金融と技術の両面を深く理解していることが、私たちの強みだといえるでしょう。

現在、暗号資産業界には、お客様の資産を安全に管理し、不正アクセスを防ぎ、顧客保護を図るために、既存の金融機関と同等の厳格な企業統治が求められています。前職で私は、こうした金融機関としての基準や管理体制を徹底的に学びました。この経験に基づき、弊社では一般的な上場企業と比較しても規程数が多い400以上の社内規程を設け、金融機関の基準で運営しています。その結果、創業以来一度もハッキング被害に遭うことなく、お客様の資産を守り続けています。

ーー改めて、創業されたきっかけについてお聞かせください。

加納裕三:
私はいち早く暗号資産に目をつけ、継続的に観察していましたが、当時からビットコインを広く普及させるためには、2つの課題を解決する必要があると考えていました。

1つ目の課題は、信用の連鎖が生まれることです。日本円に価値があるのは、政府が保証し、誰もがそれを受け入れるからですね。未知のデジタルデータに価値を与えるためには、社会全体がその価値を認めて「信用の連鎖」が生まれる必要があります。2つ目の課題は、規制当局による容認です。当局が規制を強めれば、事業の継続は困難になると予想していました。

転機は2013年11月です。当時の米連邦準備制度理事会(FRB)議長バーナンキが、仮想通貨は「長期的な可能性を秘めている」と議会に書簡で述べました。この発言を受け、当時40ドル程度だったビットコインの価格は1000ドルを突破しました。この技術が公に認められ、信用の連鎖が起きると確信した瞬間です。20年に一度の好機だと直感し、起業を決意しました。

ーー創業後、特に会社が大きく成長したターニングポイントはいつありましたか。

加納裕三:
2016年から2017年にかけてです。当時、弊社は世界中の取引所の取引量において約2割以上を占め、首位に立っていました。海外の大手取引所と比較しても高い水準を獲得しました。要因は、専門家向けの取引システムが広く支持されたことです。私自身の取引経験を生かし、使いやすさと外部との連携機能を充実させました。このシステムは、株式の取引担当者からも高く評価されました。他社が模倣しようとしても、内部の複雑な設計は容易に再現できません。結果として、独自の優位性を築くことができました。

困難な時期を越えて組織を貫く進化と専門性

ーーこれまでのキャリアで、特に困難だったご経験をお聞かせください。

加納裕三:
2018年から2023年にかけて約4年半にわたり、会社にとって非常に厳しい時期が続きました。2018年6月に業務改善命令を受けたことで、私は責任を取り、親会社の代表を退任しました。その後は経営陣の交代が相次ぎ、会社の方針が定まらない状況に陥りました。管理体制が十分に機能せず、株主との対話も不足していたのです。結果として本来の企業価値を生み出せず、業績は大きく低迷し、大きな赤字となりました。企業の競争力も低下する厳しい環境でした。この状況を立て直すため、2023年3月に私は再び親会社の代表として復帰しました。復帰後は組織改革と費用の見直しを徹底し、現在は黒字化を果たし、経営を安定させています。

ーー経営者として、大切にしている価値観は何ですか。

加納裕三:
大きく2つあります。1つ目は「常に変わり続けること」です。環境に適応し、変化し続けられる企業だけが生き残ります。前職も変化の速い組織でした。時代に合わせて必要な技能が変われば、人員の配置も柔軟に見直されます。弊社も同様で、これからは人工知能(AI)の時代です。変化を拒めば、企業としての成長は止まります。私自身も例外ではなく、常に変化しなければなりません。

そしてもう一つは「仕事に対する専門性」です。給与は、社員が生み出す価値との交換だと考えています。社員一人ひとりが自立した意識を持ち、成果に応じた正当な対価を得る関係が理想的です。努力、能力、結果の3点について、国籍や性別にかかわらず公平に評価すべきだと考えています。それが会社を成長させる道だからです。

独自の技術力が切り拓く社会

ーー改めて、貴社の事業の独自性や強みについてお聞かせいただけますでしょうか。

加納裕三:
弊社の強みは、独自のブロックチェーン技術「Miyabi」を自社開発している点です。「Miyabi」は、高速な処理能力と高い改ざん耐性を備え、企業の基幹システム(エンタープライズ領域)での活用も可能なブロックチェーン基盤です。暗号資産の交換業が主力事業ですが、これほどの基幹技術を持つ企業は国内では希少です。また、米国と欧州に子会社を持ち、海外展開している点も大きな優位性です。取引量と預かり資産で国内上位を維持しており、取引のしやすさや流動性の高さにつながっています。これが私たちの競争力の源泉です。

ーーこの先、どのようにしてその競争力を活かしていくのでしょうか。

加納裕三:
今後は「ブロックチェーンで世界を簡単に。」という弊社の理念の通り、資産価値のあるものがすべてデジタル上で証明され、取引できるようになると考えています。インターネットが情報を簡単に複製できる世界をつくったのに対し、ブロックチェーンは複製できない唯一の価値を証明します。

たとえば、法定通貨に連動したデジタル通貨が普及すれば、決済の仕組みは大きく変わるでしょう。現在、店舗が支払っている決済手数料を大幅に削減できる可能性があります。削減できた費用を顧客に還元すれば、店舗も消費者も利益を得られます。国際送金も短時間で完了します。

さらに、株式や債券などの金融資産もデジタル技術基盤への移行が進むでしょう。現在の証券取引はシステムの維持に多大な費用がかかっています。これが簡素化され社会全体の基盤維持費が下がれば、最終的に消費者に還元されます。私たちの目指すところは、技術的な課題を引き受け、お客様が意識せずに恩恵を受けられる世界です。

AIと人間が共存する未来 生き残るための戦略

ーー次の10年、20年を見据え、未来への展望をお聞かせください。

加納裕三:
10年以内には、株式などの金融資産がデジタル上で管理され、誰もが手軽に少額から取引できる世界になると見据えています。その先の未来における最大の主題は、間違いなくAIです。私は「AIのためのブロックチェーン」をつくりたいと考えています。現在はログインする際、人間であることを証明する確認が行われます。将来は逆に、複雑な計算問題を瞬時に解かせることで、AIであることを証明する世界になるでしょう。

AI同士が自律的に業務を分担し、デジタル通貨で支払いを行い、経済活動を回していきます。AIは価値の保存が苦手な側面がありますが、そこをブロックチェーンが補完します。そうした社会基盤が必ず必要になります。

ーーAIが経済活動の主体になっていく中で、人間の仕事はどう変化すると思われますか。

加納裕三:
従来の事務的な業務は大幅に減少すると予想しています。資料作成や調査、プログラム作成などはAIに代替されます。単なる仕様書の変換を行うような中間的な業務を担う技術者は、厳しい状況に置かれるでしょう。

一方で、人間に残る仕事は大きく2つあります。1つは人間同士の対話や調整です。相手の意図を汲みとり、きめ細やかな配慮を提供する仕事は残ります。もう1つは、企業が独自に持つ非公開データの活用です。世の中に無料で存在するデータの価値は下がります。企業が蓄積した内部データと、人間の細やかな配慮。この2つが今後の事業の核になります。

ーーそうした時代を見据え、貴社ではどのような組織づくりや採用をお考えですか。

加納裕三:
日本におけるAI活用の最先端企業でありたいと本気で考えています。私自身も最前線でAIを活用しており、社員にも生成AIや開発支援業務の導入を強く求めています。この変革を加速させるため、新たに「AI戦略室」を立ち上げました。高い待遇を用意し、優秀な人材を集めています。社外からの採用だけでなく、社内でもAIを使いこなせるように、私自らが教育を行い、学習の機会を提供しています。これからの時代、AIを学ぼうとする姿勢は不可欠です。

弊社が求めているのは、専門性を持ったプロフェッショナルな人材です。自身の技能で価値を提供し、その対価を得るという意欲のある方を歓迎します。弊社は交流も盛んで風通しの良い社風ですが、同時に金融機関としての厳格さもあります。技術や規則が毎月のように変わる環境で、自らを更新し続けられる方には、大きな活躍の場を提供できると確信しています。

ーー最後に、今後この市場をどう展望されていますか。また、その中で御社が果たすべき役割についてお聞かせください。

加納裕三:
暗号資産とブロックチェーンは、これからの社会基盤として大きな可能性を持っています。今後、税制面でも総合課税から分離課税へと見直される動きがあり、より多くの方が参入しやすい環境が整っていくでしょう。弊社はこれまで培ってきた万全の安全対策と、豊富な専門知識を強みに、世界で最も安心で安全な取引所として皆様の期待に応えていきたいと考えております。

編集後記

金融の厳格さと技術力を武器に、日本の暗号資産業界を牽引し続けてきた株式会社bitFlyer。困難な時期を乗り越え、再び代表へと復帰した加納氏の「常に変わり続ける」という価値観は、組織を貫く核となっている。独自のブロックチェーン技術「Miyabi」と、新設した「AI戦略室」を擁し、同社は来るAI時代に向けた新たな社会基盤の構築を目指す。激動の時代を乗り越え、AI×ブロックチェーンで描く未来に向けた飽くなき挑戦はこれからも続く。

加納裕三/ゴールドマン・サックス証券などを経て、2014年に株式会社bitFlyerを共同創業。国内法改正への提言や自主規制策定に尽力。現在は、株式会社bitFlyer Holdingsの代表取締役CEOをはじめ、グループ会社の代表取締役を務める一方、一般社団法人 日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事として国内外のWeb3業界の発展に向け意欲的に活動中。