
京都を拠点に、関西・中国地方で11のホテル・旅館を運営する株式会社京都プラザホテルズ。大手予約サイトでは特に接客面で高評価を獲得し、宿泊客の7割以上がリピーターの施設もあるという、多くのファンに愛されているホテルグループだ。同社を率いるのは、2021年に代表取締役社長に就任した清水大輔氏。もともとは研究職を志していたが、家業を継ぐ道を選び、就任後は「従業員ファースト」を掲げて社内改革に着手した。採用難と言われる宿泊業界において、新卒採用を復活させ、人が辞めない組織へと変革を遂げた若きリーダーに、組織づくりの裏側と未来への展望を聞いた。
「いつかは」が「今」に変わった瞬間
ーーまずは、ホテル業界に入られた経緯から教えてください。
清水大輔:
学生時代は大学院で環境分析の研究に没頭する日々でした。企業と共同で水質分析機器の開発を進めるなど、研究者として生きていく未来も考えていたものの、当時はちょうど家業であるホテル事業が店舗を増やしている時期。会社の勢いを肌で感じていたのです。長男として「いつかは継ぐのだろう」という思いはありましたが、父は大学卒業後すぐに家業に入り、道を切り拓いてきました。その背中を見て育った私にとって、同じ道を選ぶことはごく自然な流れでした。「いずれやるなら、最初からその輪に入って挑戦したい」。そう考え、迷うことなく卒業と同時にこの世界へ飛び込んだのです。
ーー入社後、特に印象に残っている経験はありますか。
清水大輔:
入社2年目、26歳の時に任された「ホテルアストンプラザ姫路」の新規立ち上げです。これが私の原点であり、一番の転機でした。土地の選定から建設、家具の調達、スタッフ採用まで、右も左も分からない中で現場の全てを任されました。現地で採用したスタッフは人生の先輩方ばかり。「社長の息子が来た」という視線を感じることもありましたし、誰も頼れる人がいない中、予期せぬトラブルや現場運営に必死で向き合う日々でした。
今振り返れば、あの時に「孤独」や「責任の重さ」を身をもって知ったからこそ、「現在の支配人やスタッフには、あんな辛い思いをさせたくない」と心から思えるのです。現場の苦労が痛いほど分かるからこそ、彼らに寄り添い、支える組織を作りたい。その思いが、今の経営判断の根幹になっています。
「休みやすさ」と「学び」で人が辞めない組織へ

ーー社長就任後、どのような組織づくりに取り組まれたのでしょうか。
清水大輔:
まずは、現場の負担を減らすことから始めました。以前は経理や総務などの事務仕事を各ホテルの支配人が兼務していたため、本社に「管理部」を新設し、支配人が本来の接客や部下の育成に集中できる環境を整えました。また、長く安心して働けるよう福利厚生も刷新しました。
たとえば、スタッフのアイデアから生まれた「リフレッシュ休暇」。これは当初「推し活のための休みがほしい」という声から始まったもので、それを全社員が気兼ねなく使える制度にしました。また、「良いサービスを知るには、自らが体験するのが一番」という考えから、他社のホテルへの宿泊費や旅行費を会社が補助する制度も導入しました。こうした改革を重ねた結果、以前は定着しづらかったベテラン層も長く活躍してくれるようになり、組織としての安定感が増しています。
ーー現場の意見を吸い上げるために、意識されていることはありますか。
清水大輔:
「本音で話せる空気づくり」です。私は各ホテルの懇親会や忘年会には必ず顔を出し、お酒を酌み交わしながらスタッフと話すようにしています。会議室の堅苦しい雰囲気では出てこない「もっとこうしたい」という熱い思いや、ちょっとした悩みは、こうしたリラックスした場でこそ聞けるものです。
実際に、現場の声から「資格取得支援制度」が生まれるなど、スタッフ発信で会社が変わる事例も増えています。トップダウンではなく、一人ひとりが主役になれる環境を大切にしています。
効率化が進む時代だからこそ「人」で選ばれたい
ーーホテルの運営において、大切にされていることは何ですか。
清水大輔:
業界全体が自動精算機の導入など効率化へ舵を切る中で、私たちはあえて「人の温かみ」を最優先しています。もちろん便利なシステムや設備は取り入れますが、すべてを機械任せにはしません。チェックイン時の何気ない会話や、フロントスタッフの気遣いこそが、お客様が「また来たい」と思う理由になるからです。
「便利だから」だけでなく「あのスタッフがいるから」選ばれるホテルでありたい。口コミの高評価や、リピート率7割という数字は、私たちのスタッフがお客様の心を掴んでいる何よりの証拠だと自負しています。
ーー人材育成についてはいかがでしょうか。
清水大輔:
新卒社員に対しては、実践と振り返りを重視した研修を行っています。4月の入社時だけでなく、繁忙期が明けた5月や6月に再び同期を集めてフォローアップ研修を実施します。「現場で実際に何ができたか」「何が壁だったか」を共有し合うことで、着実に成長できる仕組みです。また、同期同士の横のつながりも大切にしています。配属先が離れても、チャットツールなどで励まし合い、切磋琢磨できる関係性は、仕事を楽しむ上で欠かせません。
今後は次世代リーダーの育成にも力を入れ、将来のキャリアパスをより明確に描ける会社にしていきたいと考えています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
清水大輔:
現在は11館のホテルを運営していますが、2030年までに15館体制を目指しています。関西圏だけでなく、西日本や中部地方への展開も計画中です。エリアが広がれば、それだけ多様な人材が必要になります。そのため、遠方からの入社でも安心して生活できるよう、社宅制度の整備なども進めています。ただ建物を増やすだけでは意味がありません。そこで働く「人」が輝いてこそ、ホテルは生きた空間になります。だからこそ弊社は「人が好き」な方を募集しているのです。
その上で若い世代が10年後、20年後の自分の姿に希望を持てる会社でありたい。社員一人ひとりの人生を豊かにできる企業を目指し、これからも挑戦を続けていきます。
編集後記
理路整然とした語り口の中に、現場への並々ならぬ情熱を感じた。研究職から転身し、26歳で孤独な新規立ち上げを経験した清水氏。その苦労を「原点」と呼び、今のスタッフには同じ思いをさせたくないと語る姿に、リーダーとしての深い慈愛が滲む。効率化が加速する業界で、あえて「人」の温かみを競争力の源泉とする同社。スタッフが自律的に動き、高いリピート率を生む好循環は、清水氏が築いた信頼関係の賜物だろう。社員一人ひとりの人生をも豊かにしようと歩む、同社のさらなる飛躍が楽しみだ。

清水大輔/1982年京都府生まれ、近畿大学大学院卒。2007年株式会社京都プラザホテルズへ入社。2009年ホテルアストンプラザ姫路支配人、2021年に同社代表取締役社長に就任。SDGs推進や地域発展活動にも注力している。