
2022年のリニューアルオープン以降、賑わいを見せる大阪市東住吉区の長居公園。指定管理事業者として運営を担うのは、ヤンマーホールディングス株式会社のグループ企業であるわくわくパーククリエイト株式会社だ。同社は「食・スポーツ・アート・学び」を軸に、カフェや植物園、スケボーパークなど多彩なコンテンツを展開し、地域の風景を新たにした。この改革を牽引するのが、代表取締役社長の神原清孝氏である。神原氏は、ヤンマーで経営企画部や人事部長を歴任してきた人物だ。幼少期には実家の目の前が公園という環境で育ち、「公園」という存在が常に身近にあったという同氏に、改革の裏側と今後の展望を問う。
ヤンマー一筋のキャリアと身近な存在であった「公園」への思い
ーーこれまでのキャリアについてお聞かせください。
神原清孝:
新卒でヤンマーディーゼル株式会社(現・ヤンマーホールディングス株式会社)に入社し、部品事業やエンジン事業の企画などに携わりました。転機は2012年、創業100周年の節目に経営戦略部へ配属されたことです。「売上高1兆円企業」という目標に向け、海外展開やグループ全体のミッション浸透に奔走しました。
その後、社長室長や人事部長を経て、セレッソ大阪スポーツクラブの理事や長居公園のプロジェクトリーダーを兼務することになりました。また自身の幼少期を振り返ると、実家が公園の中にあり、家のドアを開けるとすぐ公園という環境で育ちました。長居公園には高校時代にサッカーやマラソンで訪れたり、親になってからは我が子と毎週のように通ったりと、非常に思い入れがありました。だからこそ、会社からこのプロジェクトを任されたときは、縁を感じると同時に、「子どもたちがわくわくするような公園にしたい」という強い使命感が湧きました。
「明日が待ち遠しくなる」公園へ 4つの軸で挑む再生
ーー長居公園をリニューアルするにあたり、どのようなコンセプトを描かれたのでしょうか。
神原清孝:
スタジアムなどのスポーツ施設は充実していましたが、「食」の要素が不足していました。スポーツをして休憩したくても、あるのはコンビニが数件程度。「滞在」を楽しむ機能が弱かったのです。そこで、「食・スポーツ・アート・学び」という4つの軸をコンセプトに掲げました。
スポーツや自然に、「食」と「アート」を掛け合わせ、人々が滞在し、学びにつながる空間を創出しています。チームラボと連携した植物園の夜間常設展や、こだわりの飲食店を誘致したのも、単に場所を貸すのではなく、長居公園ならではの体験を提供するためです。テナント選定にも徹底してこだわりました。親子が一日中楽しめ、「明日が待ち遠しくなる」公園づくりを推進しています。
排除ではなく「対話」を スケボーパークが示した共存の形

ーー「食」や「アート」の他に、公園の空間づくりでこだわられた施設や取り組みはありますか。
神原清孝:
長居公園の新たなシンボルとしてこだわったスケートボードパークです。実はこの公園はもともとスケートボードの聖地的な場所でしたが、夜間の騒音やマナー違反により、近隣からの苦情が絶えませんでした。しかし、禁止して排除するのではなく、専用パークを設け、ルールの中で楽しんでもらう方が共存できると考えたのです。
2022年4月にスケートボード専用施設「タイガーラックスケートボードパーク長居」をオープンしました。建設にあたっては、スケーターたちに設計段階から参画してもらう一方、近隣住民や隣接する寺院とも粘り強く対話を重ねました。騒音テストの実施、夜間利用の制限、小学生以下のヘルメット着用義務化。一つひとつルールを定めることで、理解を得ていきました。
ーーその結果、どのような変化が生まれましたか。
神原清孝:
現在、会員数は8,000人を超えました。かつて「迷惑な若者」と見られていた彼らが、今では自発的にパーク周辺の清掃活動や挨拶運動を行い、マナーも劇的に向上しています。近隣の方からも「若者が集まり活気があるのは良いこと」といっていただけるまでになりました。排除せず、対話を通じて居場所をつくったことで、彼ら自身が公園の守り手へと成長してくれたのです。
ライバルではなく「仲間」 大阪の公園連携と街への波及効果
ーー他に力を入れている取り組みはあるのでしょうか。
神原清孝:
大阪城公園や天王寺公園など、大阪市内の主要な5つの公園事業者で連携会議を立ち上げました。運営母体は鉄道会社やデベロッパーなど様々ですが、私たちはライバルではなく、大阪を盛り上げる「仲間」です。
それぞれの公園が持つ歴史や特徴を尊重しつつ、施設管理の運営ルールや芝生管理、イベントの知見などを共有し、相互に価値を高め合っています。ヤンマーは産業機械メーカーですので、技術的なアプローチで緑地管理に貢献するなど、各社の強みを活かした連携が進んでいます。
ーー公園が変わることで、街にはどのような影響があるとお考えですか。
神原清孝:
公園は、街の中核施設になり得ます。実際、長居公園のリニューアル後、周辺住居エリアの人気は上昇し、新築マンションが増え、子育て世代の転入も増加傾向にあります。「この公園があるから、この街に住みたい」。そう思っていただけるよう、不動産価値や住民満足度の向上に貢献し続けていきたいです。
「公園好き」求む 未完成の組織だからこその面白さ
ーー最後に、今後の組織づくりについて教えてください。
神原清孝:
組織づくりについては、次世代リーダーの育成が大きな課題です。弊社は設立5年目の若い会社で、人事制度や福利厚生なども走りながら整えている段階にあります。しかし、未完成だからこそ決まったレールの上を歩くのではなく、自分たちで会社をつくり上げていく面白さがあります。
今後求める人材は、やはり「公園が好きな人」です。事務所にこもるのではなく、現場へ出て、来園者の笑顔や植物の変化に気づける感性を持っていてほしいと考えています。そうした現場での気づきの積み重ね、常に新しい「わくわく」を生み出し続けることで、100年先も愛される公園を次世代へとつないでいく考えです。
編集後記
自身も地元住民として長居公園を愛する神原氏の言葉からは、単なる施設管理を超えた「公園愛」が終始伝わってきた。特に、スケーターを排除するのではなく対話を通じて共生を図ったエピソードは、住民参加型の地域活性化における一つの理想形と言えるだろう。メーカー出身という経歴を活かした独自の視点で仕掛ける「公園革命」が、100年先も愛される街の風景をどのように彩っていくのか。公園を起点に変化し続ける大阪の未来が、今から非常に楽しみである。

神原清孝/1967年大阪市生まれ。1991年大阪府立大学経済学部卒業後、ヤンマーディーゼル株式会社(現・ヤンマーホールディングス株式会社)に入社。2012年にヤンマーホールディングス株式会社の経営戦略部、社長室長、人事部長を歴任。人事部長と併せてセレッソ大阪スポーツクラブ理事と長居公園プロジェクトリーダーを兼務し、ヤンマーにおけるパークマネジメント事業の立上げに従事。2020年8月、わくわくパーククリエイト株式会社の代表取締役社長に就任。