※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

「正解を伝えても人は動かない。だからこそ、思わず心が動くような『美しさ』や『体験』をデザインに込める」。株式会社NOLKAの林紀彦氏は、人材育成や組織開発の領域にクリエイティブをかけ合わせた独自のアプローチで注目を集めている。NTT東日本、リクルートという対極の環境でビジネスの最前線を駆け抜け、多摩美術大学大学院でデザインを学んだ異色の経歴を持つ。なぜ、ロジックだけでなく「美しさ」が必要なのか。そして、少数精鋭で業界の常識を覆そうとする同社が描く、未来の組織づくりについてうかがった。

大企業での葛藤とリクルートで学んだ「未来を描く力」

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせいただけますか。

林紀彦:
新卒でNTT東日本株式会社に入社し、電話回線やインターネット回線の営業企画などを担当しました。優秀な同期に囲まれ、基礎的なことをしっかり教えてもらえる環境でしたが、「大企業の仕組みに守られていたら、ダメになる」という危機感も抱いていました。そこで、より思考力と主体性を磨きたいと考え、リクルートへ転職したのです。

ーーリクルートではどのような学びがありましたか。

林紀彦:
NTT東日本とは真逆の環境で、すべてにおいてものの見方が変わりましたね。最初の会議で一言も喋れなかった私に対し、上司から「失格ね。連れてくる意味ないじゃん」と言われたのは衝撃でした。また、年齢に関係なく、できていないことをフラットに指摘し合う「フィードバック」の文化にも驚かされました。もう一つ大きかったのは、「見立てる」という文化です。「お前の見立てはどうなんだ?」と、常に現在地から未来をどう描くかという仮説が問われ、先を考える力が磨かれました。過去の数値を整理する仕事から、未来の仮説を立てる仕事へシフトしたことは、私にとって大きなターニングポイントになりました。

人と組織の専門性で勝負する覚悟 人を動かすのは正論より「美しいデザイン」

ーー貴社を創業された経緯について教えていただけますか。

林紀彦:
実は、独立志向は全くありませんでした。きっかけは、サラリーマン時代に副業で手伝っていたある上場準備中の人材育成会社での経験です。その会社は専門性に欠ける部分が多く、経営陣と意見が衝突しました。「お前にできるのか」と言われ、「それなら真の人材育成と組織に向き合う専門性のある会社をつくって証明しよう」と奮起したのが始まりです。

ーー貴社の強みである「デザイン」を事業に取り入れた背景についてお聞かせください。

林紀彦:
社会人になってMBAの勉強もしましたが、フレームワークや正解を提示するだけでは、人は動かないし受け入れられないことが多いと痛感していました。どんなによいものを提供しても、それだけでは駄目なのです。そんな時、見た目を含めた手に取りやすい「美しいもの」こそが、人の心を動かし人材育成に通じるのではないかと考え、多摩美術大学の大学院で学びました。現在、弊社では人材育成や組織開発のコンサルティングに加え、クリエイティブ事業も展開しています。たとえば、会社の研修資料や人事制度のマニュアルは、文字ばかりで誰も読みませんよね。だからこそ弊社では、漫画化や映像化といったクリエイティブを駆使し、つい手に取りたくなる、思わず引き込まれる仕組みをデザインしています。

「思考のデザイン」で人材育成 AI活用で目指す少数精鋭プロ集団

ーー見た目以外にはどのような工夫をされているのでしょうか。

林紀彦:
私たちが大切にしているのは「思考のデザイン」です。たとえば方針管理の研修では、事業計画を作る前に「どんな組織にしたいか」を絵やキャッチコピーで表現してもらいます。それをプロのカメラマンが撮影し、額縁に入れて職場に飾ってもらう。毎朝その写真を見ることで、「あの時こんな思いで考えたな」「もう少し頑張ろう」と思考が促される。そういった体験の提供も含めて、デザインだと捉えています。

ーー業界における今後の立ち位置や中長期的な目標について教えてください。

林紀彦:
「人材育成のことなら、まずはNOLKAに聞いてみよう」と言われるような、高い専門性を持ったプロ集団でありたいです。トヨタなどでは「教育は戦略に先行せよ」という言葉があります。戦略を急に変えても、動く「人」が育っていなければ成り立たないからです。だからこそ私たちは、どんな経営課題や戦略変更に対しても、育成のプロとして的確な示唆を出せる組織でありたいと考えています。

現在、社員は数名とパートナーという体制ですが、規模をいたずらに拡大するつもりはありません。私たちが目指すのは、AIに代替可能な業務を徹底的に排除し、人間にしかできない価値提供を極める少数精鋭のプロフェッショナルファームです。テクノロジーを味方につけることで、3年から5年後には10名体制で売上高10億円規模の生産性を誇るチームをつくりたいと考えています。

編集後記

ロジックと数字の世界を歩んできた林氏が行き着いた「思考のデザイン」という答え。どんなに正しい理論でも、人の感情や心地よさが伴わなければ組織には浸透しない。その本質を突いたアプローチは、旧態依然とした人材育成の領域に一石を投じている。AIによって効率化が進む時代だからこそ、人の心を動かす「美しさ」や「クリエイティビティ」の価値は一層高まっていくのだろう。少数精鋭で売上高10億円を目指す同社の、合理的かつ人間味あふれる挑戦から目が離せない。

林紀彦/1986年宮城県出身。大学卒業後、NTT東日本株式会社にて営業や営業企画に従事し、リクルートグループで組織開発コンサルタントとして従事する。その後、株式会社日本M&Aセンターにて中小企業の合併支援(PMIコンサルタント)、株式会社LIFULLで人事業務を経験後、株式会社NOLKAを創業。企業を中心に、組織とDesign、HRTechサービスを提供。