※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

弁護士を目指していた学生時代から一転、株式会社リクルートへ入社し、仕組みづくりの面白さに目覚めた服部結花氏。現在はインクルージョン・ジャパン株式会社の代表取締役としてベンチャーキャピタル(VC)を率いる。宇宙スタートアップ企業、株式会社ispaceの上場を支援するなど、徹底した現場主義で産業創出に伴走している。さらに事業承継ファンドであり次世代経営人材育成にもつながる「サーチファンド」や自ら事業をつくる「カンパニークリエーション」にも注力している。独自のスタイルで新たな価値を提示し続ける服部氏に、これまでの軌跡と未来の展望をうかがった。

弁護士志望からの転換 リクルートで学んだ「仕組み」の力と実験的な起業

ーーまずはキャリアの原点についてお聞かせください。

服部結花:
もともとは法学部出身で、弁護士を志していました。しかし法律の勉強を進めるうちに、目の前のトラブルを1対1で解決するよりも、そもそも問題が起きない、あるいは人がよりよく生きられる枠組みや仕組みをつくる側に回りたいと強く思うようになったのです。学校の先生になるより、学校そのものをつくりたいという感覚に近いかもしれません。自ら仕組みを構築できる環境を求め、株式会社リクルートへの入社を決意しました。

人事部で採用や育成を4年ほど経験した後、社内の異動制度を活用して新規事業開発の部署へ移りました。そこで生命保険事業などの立ち上げ責任者を経験し、キャリアを積んでいます。

ーーその後ご自身で起業されたきっかけは何だったのでしょうか。

服部結花:
リクルートで新規事業を担当していた2011年頃、社外の多様な方々とつながりができ、個人でイベントなどを企画していました。活動を続ける中で、「これを個人の名前ではなく、法人の看板でやってみたらどうなるか」と興味が湧き、当初は1つの試みとして、現在の形につながる会社を設立したのです。

実際に法人という器を通してみると、個人間のつながりにとどまっていたものが、会社に対する信頼や強固なネットワークとして加速度的に蓄積されていく。そのダイナミズムに面白さを見出し、2013年にリクルートを退職して本格的に経営の道へ進みました。

偶然の出会いからVCへ ispace上場までの苦難と伴走

ーーそこからどのようにVCの立ち上げに至ったのでしょうか。

服部結花:
当初はファンドをつくる予定は全くありませんでした。転機が訪れたのは、BtoBベンチャーの成長ノウハウを共有するイベントを主催したときです。そこで登壇していた投資家の方と意気投合し、「ファンドをつくってみたら」と背中を押されました。折しも、国が推進する女性活躍の文脈において「女性キャピタリストを増やしたい」という機運が高まっていた時期。その方針とも合致し、出資をいただいて1号ファンドの立ち上げへとつながりました。

ーーこれまでの投資育成において特に印象深いエピソードを教えてください。

服部結花:
宇宙スタートアップ企業である株式会社ispaceへの投資と、上場までの道のりです。私たちが関わり始めた当初、同社は資金も人も技術も乏しい、まさに「ないない尽くし」の状態でした。実績が乏しい段階から深く入り込み、前例のない宇宙産業という新しい市場を共に切り拓いていく過程には、想像を絶する苦労がありました。しかし、それを乗り越えて上場まで漕ぎ着けられたことは、投資家としてのみならず、事業を共に育てる伴走者として大きなやりがいを得る経験となりました。

ーー貴社の強みはどのような点にあるとお考えですか。

服部結花:
最大の強みは、徹底したハンズオン(現場参加型)の姿勢です。単なる資金の提供者にとどまらず、全員が現場にコミットし、投資先と共に手を動かすスタイルを貫いています。また、組織が完全にフラットである点も特徴です。現在5人のパートナーで運営していますが、「誰が開拓した案件か」といった個人の手柄に固執しません。いま最もリソースを割くべき事業はどれかを瞬時に判断し、全員で集中的に支援できる機動力を持っています。

また、私たちは株式会社三菱UFJ銀行や関西電力株式会社などの大企業から資金をお預かりしています。日本のスタートアップがスケールするためには大企業との連携が不可欠ですが、両者の間には深い文化の違いがあり、単にお見合いさせるだけでは協業は進みません。そこで私たちが間に入り、ベンチャー側の現場の実情を把握した上で、大企業側のキーマンを巻き込みながら具体的な企画まで練り上げます。双方の言語を理解する「橋渡し役」として機能することで、スタートアップの成長を加速させています。

サーチファンドとカンパニークリエーション 次世代産業をつくるエコシステムへ

ーー「サーチファンド」への取り組みについても教えていただけますでしょうか。

服部結花:
日本には、確かな収益基盤を持つ素晴らしい中堅企業が数多く存在しますが、深刻な後継者不足に悩まされています。一方で、「事業を承継して経営に挑みたい」と考える意欲ある若手も少なくありません。この両者を結びつけるのが「サーチファンド」です。

停滞する日本経済に新しい血を巡らせるための有効な手段として、普及を目指しています。スタートアップの成長には経営を担うCXO人材の存在が不可欠ですが、現状は圧倒的に不足しています。だからこそ、大企業に眠る優秀な人材を「サーチファンド」やベンチャーへと送り出し、経営経験を積ませて次の挑戦へとつなげていきたいのです。現在、スタートアップ市場への資金流入が細り、ベンチャーキャピタル業界は厳しい環境にあります。しかし、このような逆風の時期だからこそ、5年後、10年後の新しい産業をつくる基盤を仕込み、ベンチャーキャピタルという存在の真の価値を社会にしっかりと示していきたいと考えています。

ーー今後の展望やビジョンをお聞かせください。

服部結花:
私たちは、新しい産業を生み出す過程で欠かせない機能の一部、すなわち産業構築の「サブシステム」でありたいと考えています。その実現のため、有望なベンチャーを探して投資するだけでなく、自ら会社を立ち上げる「カンパニークリエーション」にも注力していきます。これは、世の中に必要とされるテーマを弊社で設定し、最適な経営者を外部から招へいしてゼロから組織をつくる取り組みです。

既存の枠組みでは解決できない課題に対し、温めてきたアイデアを形にすることで、より確実に産業の種をまくことができます。投資という「支援」の枠を超え、産業が生まれる起点そのものを自らつくり出す。それが、私たちが目指す新しいVCのあり方です。

編集後記

「弁護士として目の前の1人を救うより、仕組みをつくりたい」。服部氏の原点にあるこの思いは、現在のベンチャーキャピタルとしての活動にも通底している。単なる資金の出し手にとどまらず、自ら現場で手を動かし、大企業を巻き込み、時には自ら会社をつくり出す。その並外れた行動力と、5人のパートナーによる強固なフラット組織が、不可能と思われた宇宙産業の開拓をも後押ししたのだろう。「産業構築のサブシステムになる」という力強い言葉の裏には、次世代の日本経済を根底から支え、人材と資金を循環させるという覚悟が感じられた。

服部結花/京都大学法学部卒業。新卒で株式会社リクルートに入社。2011年にインクルージョン・ジャパン株式会社を設立し、2014年にICJ1号ファンドを組成。株式会社ココナラ、株式会社ispaceなどの成長をハンズオンで支援。2021年にESGをテーマとするICJ2号ファンドを設立。2025年には国内VC初のサーチファンド投資ファンドを組成し、新たな投資領域を切り拓く。長野県在住の3児の母でもある。