※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

『オレオ』『リッツ』『クロレッツ』など、世界的ブランドを日本市場で展開するモンデリーズ・ジャパン株式会社。同社は外資系企業の強大な事業規模を持ちながら、日本の消費者に寄り添うローカル視点で成長を続けている。代表取締役社長の碇祐輔氏は、学生時代の国際交流体験から外資系の世界へ飛び込み、日本で働きながら海外の大学院で学ぶなど、主体的にキャリアを切り拓いてきた経歴を持つ。競争の激しい日本の食品業界において、同社はいかに独自の地位を築き、強い組織を生み出そうとしているのか。社長就任後に推し進めた組織強化の裏側と、経営者として大切にする価値観に迫る。

年齢や立場ではなく「成果」で評価される環境を求めて

ーー新卒で外資系企業を選択した最大の理由は何でしょうか。

碇祐輔:
学生時代に参加した、スウェーデンの学生との短期交換留学プログラムが原点です。現地でのホームステイや企業訪問を通じ、グローバルビジネスへの興味を強く抱きました。特に魅力を感じたのは、スウェーデンの学生たちと協働する中で見えた、年齢や立場に関係なく意見やアウトプットに対して公平に評価する文化です。このようなフラットな環境が外資系企業にあるのではないかと考え、最初のキャリアとして外資系の道へ進むことを決意しました。

ーー過去に在籍した外資系企業での経験は現在にどう活きていますか。

碇祐輔:
マースジャパンやダノンジャパンにも在籍していましたが、両企業で営業や人事、マーケティングの他にも、グループ企業を横断するプロジェクトや、日本の業務だけでなく海外市場を支援する業務に携わりました。これによりビジネスを見る視野が大きく広がりましたし、多国籍で多様な世代からなるチームを牽引する経験も得られたと感じています。食品・消費財ビジネスにおける「消費者」「お得意先である小売店卸店」「自社」の3者の視点のバランスを保ち、「Win-Win-Win」の関係性を構築することの重要性を学んだことが、現在の私の基盤となっています。

多忙な実務と並行して挑んだ海外大学院での学び

ーー順調にキャリアの幅を広げられる中で、当時はご自身の将来像をどのように描いていたのでしょうか。

碇祐輔:
将来的にグローバルビジネスを牽引し、貢献できるポジションに就きたいという思いを持っていました。しかし目標に対して当時の自分とのギャップを分析した結果、2つの課題が見えました。1つは、多国籍な人材と英語で高度なビジネスの議論をする力をつけること。もう1つは、他産業の知見を取り入れて自身の視野をさらに広げることです。当初は一度退職して海外の大学院へ留学することを考えていましたが、同時期に業務で海外と関わる機会を得たため、日本にいながら週末にカナダの大学院プログラムを受講する道を選びました。

ーー実務と海外大学院という二足のわらじは、どのようにして両立していたのでしょうか。

碇祐輔:
授業はすべて英語になるため事前の語学試験をパスする必要がありましたが、私は海外在住経験もないため、英語力を鍛える準備に約3年間、毎晩3時間の勉強時間を捻出しました。テレビを見る時間や友人との飲み会などを減らし、徹底したタイムマネジメントを行っていましたね。

無事に入学してからも、毎週末は朝8時から夕方18時まで休む間もなく授業が続きます。金曜日が終わると「明日からまた過酷な授業が始まる」とプレッシャーを感じるほどの挑戦でした。しかし、実務で得た経験を学問的観点から整理し、ケーススタディを通じて他業界を疑似体験できたことは、現在の大きな視座につながっています。

日本チームの志とグローバルスケールの融合 「ジャパンビジョン2030」の策定

ーー貴社へ転職された決め手は何でしたか。

碇祐輔:
実は当初、積極的に転職活動をしていたわけではなく、当時の職務を継続するつもりでした。そんな折、弊社から声がかかり、当時の社長や人事部長、海外の社員と面談を重ねることになりました。その対話を通じて、会社に対する印象が大きく変わっていったのです。外資系企業でありながら日本のビジネスに対して非常に大きな裁量が持てること、そしてグローバルなスケールを活かして日本市場に取り組めることに魅力を感じ、今まで培ってきた経験を存分に活用できると確信しました。非常に悩んだ末、最終的に転職を決断しました。

ーー入社後はどのような役割を担い、キャリアを重ねられたのでしょうか。

碇祐輔:
2019年にカテゴリープランニング&アクティベーション本部長として入社しました。これは営業戦略や販売促進を担い、流通様や店頭のお客様に対し、ブランドとしてどういうプランを実行していくかを立案する役割です。その後、翌年の2020年には営業部全体を統括する営業統括本部長に就任し、その2年後、2022年に代表取締役社長に就任しました。

ーー社長就任後、組織の課題に対してまず何に取り組みましたか。

碇祐輔:
中長期の戦略がクリアに見えていないという課題に対し、羅針盤となる「ジャパンビジョン2030」の策定に取り組みました。就任から約1年間、全社員一人ひとりに「自社の強み」や「働きがい」についてヒアリングを実施したのです。こうして、グローバル企業としての戦略と、日本の現場が実現したい思いを融合させたビジョンが完成しました。2022年以降はこのビジョンのもと、チーム一丸となって取り組んでおり、売上高・利益・市場シェアともに好調に推移しています。

ーー経営者として組織を率いる上で大切にされている価値観を教えてください。

碇祐輔:
大きく分けて3つあります。1つ目は、ありたい未来をしっかりと描き、再現性のある成功を積み上げられる組織運営を行うこと。2つ目は、個人で戦うのではなくチームとして成果を出すこと。私自身も、戦略立案から実行までチームと一緒に走りながら結果を出していきたいと考えています。そして3つ目は、ビジネスの成果と一人ひとりの個人の成長を両立できる組織を大切にすることです。

ローカル視点で消費者に寄り添うブランド戦略

ーー貴社の事業戦略において、他社にはない強みは何だとお考えですか。

碇祐輔:
日本の消費者に寄り添いながら、グローバルの知見やリソースを活用するという考え方を大切にしている点です。全世界で単一の形で展開するのではなく、日本の文化や市場、そして消費者の皆様のニーズに合わせた形で提供していく機動力を持っています。日本市場に特化しつつも、グローバル企業の巨大な基盤があるという点が、他社にはないユニークな強みだと考えています。

ーー日本市場に特化した具体的な商品展開の事例を教えてください。

碇祐輔:
弊社では消費者の日常やシーズンイベントに合わせた商品設計を行っています。たとえば、日本のハロウィン市場に合わせ、『オレオ』から日本独自のハロウィンパックを展開しました。

また、おいしい製品の提供に加えて「ブランド体験」も重視しています。『オレオ』であれば「遊び心」、『リッツ』であれば「飾らないおもてなし」といった一貫したメッセージを、広告だけでなく実際の喫食場面でも体験いただけるよう工夫しています。

ーーコロナ禍やインフレなどの急激な環境変化にはどう対応してきましたか。

碇祐輔:
消費者が商品を食べる「喫食シーン」の解像度を上げることで対応してきました。コロナ禍にはお家でシェアする大容量のニーズが高まったため、『オレオ』は従来の箱型だけでなく「ファミリーパック」という大容量形態を発売しました。また、『クロレッツ』についても、持ち運びと大容量を兼ね備えたパウチ形態を発売しており、これが現在の弊社の売上高成長を牽引する大きな原動力となっています。中身の味は同じでも、包装形態が違えば食べられる場面も変わるため、状況に応じた見極めが不可欠です。

ーー競争の激しい食品業界において、消費者に選ばれ続けるための鍵は何でしょうか。

碇祐輔:
各ブランドの基幹製品を確実にお客様へ届けることです。新しいフレーバーの開発ももちろん重要ですが、まずは『オレオ』のバニラクリームや『クロレッツ』のオリジナルミントといった、ブランドの根幹となる製品の価値が認知されなければなりません。どのようなブランドでどのような商品なのかが消費者の頭に入っていなければ選ばれることはないため、この基本的な土台づくりを最も大切にしています。

「Strong Team. Strong Results.(強いチームで強い結果を出す)」を生み出す組織づくり

ーーイノベーティブな組織づくりのため、貴社ではどのような働き方を推進していますか。

碇祐輔:
私たちはコロナ禍以前の2016年からフリーアドレスやハイブリッドな働き方を導入し、長きにわたって環境整備を進めてきました。営業チームに関しても直行直帰のスタイルが定着しており、オフィスに来なくても業務が回る状況が整っています。一方で、孤立を防ぎチームとしての一体感を持つために、今年は対面でのコミュニケーションの重要性も改めて見直しています。

ーーチーム単位で強化を図るために取り組まれたことはありますか。

碇祐輔:
昨年の後半から年始にかけて、全社員を対象に国際規格に基づく性格検査「MBTI」を活用した自己認識と相互理解の取り組みを開始しました。各自がテストを実施し、自分がどんな傾向や強み、陥りがちな癖を持っているのかを自己認識する時間を設けたのです。その後、2月の全社集会で傾向の近いグループごとにワークショップを行い、自分自身の「取扱説明書」を作成しました。

ーー作成した「取扱説明書」を具体的にどうチーム運営に活かしているのでしょうか。

碇祐輔:
自分がどうコミュニケーションされると嬉しいか、あるいは苦手かといった情報を言語化し、上司やメンバー間で共有することで円滑なチーム運営につなげています。2026年は「ストロングチーム ストロングリザルト」をスローガンに掲げています。多様な個性が集まる中で、意見の良し悪しをすぐに判断するのではなく、様々な意見をしっかり受け入れる。これにより、1と1を足したら10にも100にもなるような成果を生み出せると信じています。社員からは「もっと早く知っていれば」「家族にもやってもらいたい」と非常に好評な声が上がっています。

社員のエンゲージメント向上 次世代リーダーへのメッセージ

ーー社員のエンゲージメントを測る上で最も重要視している指標は何ですか。

碇祐輔:
「モンデリーズで働いていてハッピーですか?」という問いに対し、「イエス」と答えられる社員を増やしていくことです。仕事の難易度が高いからこそ、チームで目標を達成した際の喜びや称賛といった「やりがい」を感じられる環境づくりに注力しています。同時に、柔軟な働き方が定着しているからこそ生まれる「働きやすさ」も重要です。仕事とプライベートの両立があってこそ、最大のアウトプットが生まれると考えています。

ーー次世代リーダーの育成についてどのような支援を行っていますか。

碇祐輔:
eラーニングや外部トレーニングなど、学ぶ機会は豊富に用意しています。しかし最も大切なのは、社員自身が、自分が目指す未来に向けて「自らのキャリアをどう築きたいか」というオーナーシップを持つことです。目指す未来が明確になれば、必要なスキルや経験は特定できます。上司が伴走し、対話を通じて社員の自己成長を支援する体制を強化しています。私自身も主体的にキャリアを選択してきたからこそ、その重要性を社員へ伝えてきました。

ーー外資系企業でキャリア形成を行っている方へ、是非アドバイスをお願いします。

碇祐輔:
自ら道を切り拓くためには、3つの要素が必要です。1つ目は、自分の得意領域を見極め、毎年着実に結果を出し続けること。2つ目は、グローバルの戦略をそのまま持ち込むのではなく、日本の市場や消費者の特徴を理解して適応させる「グローバルとローカルのバランス感覚」を持つこと。そして3つ目は、協働とリーダーシップです。担当不在の「落ちているボール」を誰が拾ってもいい環境で、自ら進んで拾いに行く。その主体的な経験の積み重ねが、後のキャリアの幅を広げ、確かなリーダーシップの認知へとつながっていきます。

ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。

碇祐輔:
日本の菓子業界の伝統を尊重しつつ、新たな革新をもたらすイノベーティブな組織へと進化し続けます。日本の当たり前が世界の当たり前ではないように、今日の当たり前が未来の当たり前である保証はありません。私たちは国内外のパートナーとともに、日本の消費者の皆様へ最適な価値を届け、ビジネスを拡大していきます。こうした革新にチャレンジし、一緒に働きたいと考える方に、ぜひ弊社の門を叩いていただきたいですね。

編集後記

巨大な多国籍企業の知見を背景に持ちながらも、それを押し付けることなく、日本の市場と消費者に徹底して寄り添う「ローカルファースト」の姿勢。碇氏の言葉からは、数字や論理だけでなく、人に対する深い理解と探求心がうかがえた。MBTIを活用した組織強化や、自ら主体的に動くことの重要性を説く姿には、個性を引き出し、強い組織を築く経営者としての信念がある。多様な人材が融合する同社が、今後、日本の食品業界にどのような革新をもたらすのか。今後の飛躍が楽しみである。

碇祐輔/2007年、マースジャパンリミテッドに入社。ペットケア商品の戦略策定および実行、営業人材の開発に従事、海外業務も担当。2017年、ダノンジャパン株式会社に入社。営業戦略部長として、ヨーグルト商品の戦略策定、小売企業との協働推進を統括。2017年マギル大学大学院経営学部卒業。2019年にモンデリーズ・ジャパン株式会社にカテゴリープランニング&アクティベーション本部長として入社。2022年11月、代表取締役社長に就任。