
旅行業界から会計業界へという異色のキャリアを持つ、ジパングアウトソーシングサービス株式会社の横倉弘和氏。外資系企業に特化したバックオフィス支援を通じて、日本を元気にしたいと語る同氏。かつては経営者である父を反面教師にしていた彼が、自ら起業の道を選んだ。そしてたどり着いたのは「社員を第一に考える」という確固たる信念だ。AIが台頭する現代において、なぜ人にしかできない「ホスピタリティ」と「人間力」を武器にするのか。その根底にあるサービス業としての矜持と、独自の組織論に迫った。
旅行営業から世界四大事務所へ「サービス」の本質は変わらない
ーーまずは、これまでのキャリアについて教えていただけますか。
横倉弘和:
大学卒業後に旅行会社の営業として入社し、その後、外資系の旅行会社へ転職しました。そこでマーケティング営業として統計や需要を分析するうちに数字の面白さに気づき、米国税理士の資格を取得するまでに至ったのです。それを機に、世界四大会計事務所である太田昭和アーンストアンドヤング株式会社(現・EY税理士法人)に入社しました。
ーー全くの異業種への転職に、周囲からの反対や戸惑いはなかったのでしょうか。
横倉弘和:
周囲からは「もったいない」と言われましたが、私の中では旅行業も会計業も本質は変わりませんでした。どちらも形のない商品を提供し、ホスピタリティをもってお客さまに喜んでいただく”サービス業”だからです。一昔前の会計業界は「先生」という意識を持つ事務所も多く、上から目線になりがちなところもあったようです。しかし、私は常にサービス業としてのスタンスを貫いてきました。最終的にお客さまに喜んでもらうことが、サービス業としての成功だと考えています。
父への反発から理解へ自ら事業を立ち上げる決意
ーーその後、起業に至った経緯を教えていただけますか。
横倉弘和:
EYにてアウトソーシングをメインで行う新会社設立の立ち上げに参画し、マネージャー、ディレクターを経て執行役員を務めました。その後、2013年2月にジパングアウトソーシングサービスを設立しました。
ーーもともと起業志向はお持ちだったのでしょうか。
横倉弘和:
全くありませんでした。実は、私の父は文具店を営む自営業でした。土日も働き、夜になれば家で一人で飲んでいる姿を見ており「自分は絶対にサラリーマンになりたい」と思っていました。当時は完全に反面教師でしたね。しかし、いざ自分が起業し、すべての責任を負う立場になってみると、父がなぜあれほど孤独に、懸命に働いていたのかが痛いほどわかるようになりました。今では父の苦労を理解し、心から尊敬しています。
顧客満足度95%を生む「社員第一主義」

ーー社長として大切にしている方針はありますか。
横倉弘和:
私は明確に、お客さまよりも社員が一番大切だと公言しています。社員を大切にできない会社が、お客さまを大切にできるわけがありません。実は「お客さまを大切にしてください」と社員に直接言ったことは一度もないのですが、顧客満足度調査では毎年95%以上という高い評価をいただいています。それは、社員たちが一生懸命に取り組み、数字が合っているのは当たり前、その上で自発的にお客さまへホスピタリティを提供してくれているからです。
ーー社員のモチベーションを高めるために、どのような取り組みをしていますか。
横倉弘和:
会社のすべての財務状況、月次決算書から役員報酬、人事評価の仕組みまで、全て社員に公開する「ガラス張り経営」を行っています。また、決算時には会社の経常利益に応じて決算賞与を支給する、いわば疑似配当のような仕組みも取り入れました。経営計画も毎年冊子を作成し、全社員の前で発表会とパーティーを開くのが恒例です。経営計画では経営理念や基本指針、会社や社員の未来像といった道標を明確に提示し、細かい方針や規則をつくる前に、良い「社風」を構築することにいつも注力しています。特に弊社のようなプロフェッショナル集団では、人は就業規則や命令、賞罰だけでは本気で動きません。やはり人や組織は最終的に「社風」で動くと思うのです。
AIには真似できない「人を育てる力」と「コンサルティング力」
ーーこれからのAI時代において、貴社はどのような価値を提供していくのでしょうか。
横倉弘和:
業界的にはAIに対して保守的なところも多いですが、弊社では積極的にAIを導入し、効率化できる部分はどんどん進めています。しかし、人がやる仕事として絶対になくならないのは、「人の教育」だと思っています。お客さまの知識レベルを見極め、一人ひとりに合わせて分かりやすく説明する、いくつか選択肢を示してお客さまと一緒に進む道を考えていくような「コンサルティング力」は、これから更に重要になってきます。私はAIそのものを脅威とは考えていません。むしろ、AIに頼りすぎて、人間が考えることをやめてしまうことに危機感を感じています。だからこそ自分たちで考えて、人間にしかできない顧客に寄り添う「ホスピタリティサービス」が武器になるのです。
ーー最後に、今後の展望についてお話いただけますか。
横倉弘和:
日本を、私たちの力で元気にしていきたい。それが私たちの掲げる大きな展望です。外資系企業が日本でビジネスを展開するためには、日本語の壁はもちろんのこと、世界屈指の複雑な行政制度や手続きを乗り越える必要があり、弊社のような、世界との架け橋となる会社が絶対に必要だと自負しています。その目標を実現するためにも、人を育てること自体を会社経営の根幹に据えています。「人を育て、日本や世界に価値ある人財を送り出すこと」これは、ジパング創業時から、私が一貫して大切にしてきたミッションのひとつです。実務経験者の中途採用が主流の業界の中で、あえて昨年から新卒採用を始めたのもそれが理由です。早く成長したい人が、頑張れば10年でマネージャーになれるような、やりがいのある環境を提供し続けていきます。
編集後記
「社員が一番大切」と言い切る横倉氏の言葉には、揺るぎない覚悟と説得力があった。その裏付けとなるのが、驚異的な顧客満足度と創業以来13年連続の増収という確かな実績だ。経営者だった父への反発から始まり、異業種での修業を経てたどり着いた、独自のサービス業哲学である。効率化やAI化が進む今だからこそ、数字やシステムだけでは補えないものがある。「ホスピタリティ」と「人間力」を最大の武器にする同社の姿勢は、これからの時代の確かな道標となるだろう。

横倉弘和/1971年東京都生まれ。明治大学卒業。国内系・外資系旅行会社の営業を経て、2000年に太田昭和アーンストアンドヤング株式会社(現・EY税理士法人)に入社。その後、関連の会計・人事労務アウトソーシング会社のディレクター、執行役員を経て、2013年にジパングアウトソーシングサービス株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。