※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

日本において、子ども服という特定の市場でありながら好調な業績を維持し続ける株式会社ナルミヤ・インターナショナル。複数の販売経路とブランドを展開し、業界内で独自の地位を確立している。同社を牽引する保坂大輔氏は、新卒入社後、幾多の現場経験と挫折を乗り越え、トップに就任した。「事業に正しさを追求する」と語る同氏に、これまでのキャリアで培った経営に対する考え方をうかがった。好調な業績を支える独自の組織風土や、対象となる「子ども」の定義を再構築する未来の展望についても深掘りしていく。

言われたことをやる日々から一転 自ら考え動く面白さに目覚める

ーーまずは、これまでのご経歴について教えていただけますか。

保坂大輔:
大学卒業後、新卒で弊社に入社しました。入社後は百貨店で展開するブランドの店舗責任者として配属されたのですが、当初は自分の役割が全く理解できていませんでした。1年目の夏頃までは、上司から言われた業務をひたすらこなすだけの日々でしたが、あるタイミングで急に「自分が何のためにこの会社の役割を担っているのか」が腑に落ちたんです。それまでは「指示を待つのが仕事」だと思い込んでいたのが、実は「現場をより良くするために自ら動くこと」こそが自分の役割なのだと気づきました。

そこからは、自ら提案して行動するようになったのです。「週末に店舗でこんな企画をやってみよう」「来月は大規模な催しを仕掛けよう」と声を上げたり、あるいは「あの店長は実力があるから、規模の大きな店舗を任せた方がよいのでは」と上司に直訴したこともあります。弊社は新入社員の意見にもしっかり耳を傾け、受け入れてくれる環境だったことも幸いしました。自ら考えて動けるようになってからは仕事が劇的に面白くなり、朝も自然と早く出社するようになるなど、意識が180度変わりましたね。

ーーその後はどのような役職を経験されましたか。

保坂大輔:
20代後半で、「mezzo piano(メゾ ピアノ)」ブランドの東日本エリアの全店舗を統括する責任者を任されました。当時の担当エリアの売上規模は数十億円に上り、非常に重責でした。当時はブランドブームの勢いもあって業績も順調に伸びていきましたが、毎週月曜日の朝に行われる全社会議の準備には苦労させられました。各店舗からの週報を朝早くから集計・分析し、前週の反省と週末の施策を発表する必要があったからです。

ーー毎週の報告と施策立案は、かなりの重圧だったのではないでしょうか。

保坂大輔:
当時の厳しい環境のなかで、非常に苦労しました。気候の影響などで売上高が落ちたときでも、要因を外的要因のせいにしてはいけないと考えていました。何が原因で売れなかったのかを分析し、改善のための施策を立て、週末に実行する。これを毎週、何年も繰り返しました。当時は無我夢中でしたが、振り返ると、計画から改善までのサイクルを猛烈な速さで回し続けていたのだと思います。この経験を通じて、店舗の売上高を向上させるための基本的な仕組みや考え方を現場で徹底的に学びました。

新ブランドの挫折とアウトレット事業での飛躍 そして経営トップへ

ーー現場で実績を積まれた後、どのようなことを経験されましたか。

保坂大輔:
その後、新ブランドを立ち上げる事業部長に就任したのですが、そこで大きな挫折を経験しました。当初は百貨店のなかで少し価格帯を下げた位置づけで展開し、1、2年目は順調だったものの、3年目から徐々に売上高が落ちていったのです。原因は、お客様の視点や市場の変化に気づけなかったことでした。

当時、お客様の購買行動が百貨店から大型商業施設へと移り変わり、他社からはさらに低価格で流行を取り入れたブランドが登場していました。そうした市場の変化に対して、ブランドの価格帯を上げて路線を変更するのか、あるいはさらに下げて日常的に手に取りやすい価格にするのか、明確な選択と軌道修正ができなかったことが最大の要因です。

ーーその後、どのようにして次の一歩を踏み出されたのでしょうか。

保坂大輔:
事業部長から次長へと降格となり、アウトレット事業を担当することになりました。ここでの経験が私にとって大きな転機となります。まず、売れ残りをそのまま展開していた従来の販売手法を根本から変えました。物流倉庫で商品を再分類し、各店舗の規模や客層に合わせてブランドを組み合わせて展開するようにしたのです。平日は倉庫で仕分けを行い、週末は自ら店舗に立って陳列し、お客様の反応を直接確認しながら現場で仮説と検証を繰り返しました。トップではなく現場に近い立場で地道に取り組んだ結果、約6年間で店舗数は3倍に拡大し、売上高は6倍に成長するという大きな成果につながりました。

ーー社長に就任されたときの心境はいかがでしたか。

保坂大輔:
取締役に就任したときには、前社長をしっかりと支えていこうと決意していました。同期から次の社長候補ではないかと言われ、そこで初めていずれ自分が会社を背負うことになるかもしれないということを意識し、少しずつ準備を進めていきました。そのため社長交代の話が出たときには、少し早いと感じたもののすでに覚悟はできており、戸惑いはありませんでした。

ーー経営者として、大切にされている価値観は何でしょうか。

保坂大輔:
「事業に正しさを追求する」ということです。経営陣の意向や親会社の考えを気にするのではなく、常に「お客様のために何が正しいか」を判断基準にしています。正しい数字をもとに議論して、正しい評価制度を運用し、お客様に対して正しく行動する。それが結果として社会への貢献につながり、会社の利益にも返ってくると信じています。社員全員が、常にお客様を中心に置いて「正しさ」を追求できる組織でありたいと考えています。

マルチブランド・マルチチャネルで築く「第三極」としての強さ

ーー改めて、貴社の事業内容や強みを教えてください。

保坂大輔:
弊社は複数のブランドを持ち、百貨店や商業施設、さらには電子商取引など、あらゆる販売経路を展開しており、この「マルチブランド・マルチチャネル戦略」が強みです。子どもとそのご家族を対象とした市場において、これほど多様なブランドと販売網を持つ企業は他にありません。

親会社はアパレル業界において第三の勢力となることを目指しています。しかし、弊社は子ども服の世界において確固たる地位を確立しています。

ーー市場環境が厳しい中でも業績が好調な背景には、どのような理由があるのでしょうか。

保坂大輔:
日本の出生数は長らく70万〜90万人台で推移していましたが、あっという間に50万人へと減少していくような厳しい市場環境にあります。そうした子どもたちが減少していく環境のなかでも業績が好調な理由は大きく2つあります。

1つ目は、顧客層の細分化と精度の高い市場調査です。年代や販売経路ごとに異なるお客様のニーズを徹底的に深掘りし、商品開発に反映する仕組みが社内に根付いています。

2つ目は、ブランドの垣根を越えた活発なコミュニケーションです。「商品情報共有会」などで他部署の視点から率直な意見をぶつけ合い、固定観念を払拭して建設的な議論ができる風土が、全社の成長を後押ししています。

「子どもの定義」を広げ新たな価値を創造する

ーー今後の成長を牽引する事業や領域について教えていただけますか。

保坂大輔:
現在の成長の軸となっているのは「ナルミヤキャラクターズ」です。キャラクターの権利を活用したライセンス事業が、今期は1.5倍ほどの成長を見込んでいます。また、キャラクターの直営店事業に関しては前年比で約2倍に伸びる予想です。全社の営業利益においても、この2つの事業が大きな柱に成長しつつあります。

これほど伸びている最大の理由は、主要なターゲットを、今の子どもたちだけでなく「かつてのファンだった大人世代」へ広げたからです。現在30代になられた方々が当時のキャラクターを懐かしみ、共感して購入してくださっています。さらに、その方々が親となりご自身のお子様にも弊社の商品を買っていただくという好循環が生まれつつあります。今後は主力ブランドや、この好調な「ナルミヤキャラクターズ」の知名度を活用し、新しいサービスや事業形態の開発も検討しています。

ーーそこから今後の展開をどのように広げていくお考えですか。

保坂大輔:
私たちは「子ども」の定義を広げていこうと考えています。実年齢としての「子ども」だけでなく、かつてブランドに親しんだ「大人たち」にも楽しんでいただける商品や体験を提供する。さらに、お子様がいないご家庭にとっての「子ども」のような存在であるペットや家族型ロボット向けの商品展開を考えています。事業形態を変化させていく余地はまだまだあると感じています。

ーー既存事業以外で、新たに取り組まれていることはありますか。

保坂大輔:
社員発信で新規事業を生み出す「新価値創出プロジェクト」を開始しました。これは、新しい発想や熱意を持つ社員が自ら手を挙げ、プレゼンを行い、部門長たちが支援して事業化していくという仕組みです。会社をより良くするための視点を持った人材が、主体的に挑戦できる環境をつくることが不可欠です。特に20代などの若手社員は、上の世代に対して意見が言いにくい部分もあるかと思います。しかし、このプロジェクトを通じて主体的に挑戦し、既存の枠にとらわれない新しい価値を自らの手でつくり出してほしいと期待しています。

海外展開を加速し誰もが誇れる500億円企業へ

ーーさらに事業を拡大していく上で、海外への展開は視野に入れていますか。

保坂大輔:
海外展開は今後の成長において非常に重要な取り組みだと捉えています。直近では、昨年3月に台湾の大型の商業施設に店舗を出店しました。事前にアジア各地を視察し、台湾は日本と親和性が高いと判断したためです。

出店にあたっては、親会社の現地法人を活用し、投資も担っていただいたことで迅速に展開できました。結果として想定を超える売上高を記録し、大きな成果に繋がっています。台湾には今後3〜5年で5店舗ほど出店する計画で、並行して中国の取引先との連携も進めており、香港も含めたアジア圏での展開を加速させていきます。

ーー最後に、貴社が目指す今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

保坂大輔:
売上高500億円を目指し、その先の展開も描き始めています。しかし、単に規模を追うだけではありません。「この会社で働くことが誇らしい」と、社員全員が心から思える環境をつくっていきたいと考えています。弊社で働くことで、人としての能力が磨かれ多様な経験ができご家族も喜んでくれる。そんな独自の価値を持った魅力的な会社でありたいと願っています。

弊社は常にお客様目線で現場を重んじる会社です。お客様に喜んでいただくことにやりがいを見出せる方にとって非常に充実した環境だと自負しています。私たちの掲げる「正しさ」に共感し、一緒に新しい価値をつくり上げてくれる方々にぜひ加わっていただきたいと考えています。

編集後記

子ども服という特定の市場を主戦場としながらも、複数の販売経路とブランドを展開する独自の戦略で成長を続ける同社。保坂社長の話から、その強さの源泉は、徹底したお客様目線と、失敗を恐れず自ら考え動く現場の力にあると感じた。かつての顧客層を巻き込んだキャラクター事業の再燃や、対象の定義の再構築といった柔軟な発想力。そして、若手社員の挑戦を後押しする制度の導入など、実績に甘んじることなく、常に変化を求める姿勢が印象的である。売上高500億円という目標に向け、社員が誇りを持てる魅力ある企業へと進化していく未来が楽しみだ。

保坂大輔/1974年神奈川県生まれ。1998年日本大学卒業後、株式会社ナルミヤ・インターナショナル入社。広報宣伝部長、アウトレット運営部次長、百貨店事業部長などを経て、2026年3月、代表取締役社長執行役員に就任。