
プロサッカー選手を目指した学生時代を経て、大手企業での営業職やスタートアップで経験を積み、起業を果たした黒瀬優作氏。同氏が立ち上げた株式会社Oxxxは、幼児食ブランド「モグモ」を展開し、累計700万食以上を販売する成長を遂げている。自らの「ワンオペ育児」の原体験から生まれた同事業。現在は国内でのブランド浸透を深めつつ、企業向けの福利厚生プランを開発しており、さらに世界を見据えた海外展開へも歩みを早めている。社会課題の解決と事業成長を両立させる黒瀬氏の経営哲学と、未来への青写真に迫った。
「1週間のワンオペ育児」で直面した幼児食における深い課題と使命感
ーーまずは、起業に至るまでの経歴を教えていただけますか。
黒瀬優作:
大手企業とスタートアップでの経験を経て、31歳で独立しました。もともと学生時代はプロサッカー選手を目指していましたが、大学3年生の時にその道を断念することになりました。そこで、次に挑むビジネスの領域では必ず活躍しようと心に決め、卒業後は営業会社の株式会社NEXYZに入社しました。
入社後は、まず個人向けに通信回線の営業を担当し、その後はグループ会社の株式会社ブランジスタへ転籍し、企業向けのECサイトの運用支援などに携わっています。しかし徐々に、大きな組織のなかで自身の企画を通すことの難しさを実感するようになり、そこから起業への思いを強く抱き始めたのです。とはいえ、当時はまだ事業を立ち上げる力が自分には足りないと感じていた時期でもありました。そこで、まずは美容系のスタートアップ企業へ転職することを選びました。その会社では採用から事業の拡大まで、会社経営に必要な業務を一通り経験させてもらい、それが現在の独立の基盤となっています。
ーー現在の幼児食ブランドを立ち上げたきっかけは何ですか。
黒瀬優作:
妻に「何が一番困っている?」と聞いたとき、「ご飯」と言われたことが最初でした。そこで、妻の手を一切借りずに1週間のワンオペ育児を経験し、働きながら子育てをすることがいかに大変かを、身をもって痛感したのです。毎日必ず朝昼晩とやってくる食事の中で、大人のご飯と子どものご飯を分けてつくらなければなりません。さらに、たとえ一生懸命つくっても食べてくれないこともあります。
子どもの少食や偏食は、親が周囲に相談しにくい潜在的な悩みです。そんな課題に大半の家庭が直面しているにもかかわらず、明確な解決策が当時の世の中に存在しませんでした。この現状を知ったとき、父親である自分自身が解決に取り組むべきだと強い使命感を抱いて、ブランドの立ち上げに至りました。
瞬間冷凍の美味しさと「正しさより楽しさ」を追求した独自の食育体験
ーー「モグモ」の強みはどのような点にあるとお考えですか。
黒瀬優作:
一番の強みは「美味しい」ことですね。出来立ての料理を瞬間冷凍しているため、ご家庭で温めていただければ、出来立てと同じ品質で食べていただけます。また、無添加であることなど健康面への良さにもこだわっており、社内の複数の管理栄養士が監修する体制で安心安全なものを提供しています。
さらに、もう一つ大事にしているのが「正しさより楽しさ」という価値観です。親の目線ではつい「野菜を食べてほしい」という正しさを求めがちで「栄養をとってほしい」という思いもあるでしょう。しかし、子どもが食べなければ意味がありません。だからこそ、子どもが自ら選びたくなるようなパッケージデザインにしています。また、電子レンジの温めボタンを子ども自身に押してもらうような体験もつくっており、食卓が楽しくなる体験の設計にこだわっています。
ーー顧客に合わせた商品ラインナップはどのように拡充されていますか。
黒瀬優作:
今年の3月に、小中学生向けの新ブランド「モグモデリ」をリリースしました。子どもが小学校、中学校へと進むにつれて、習い事や親の共働きなどにより、一人で食事をする機会が増えていきます。さらに、身体が著しく成長する時期でもあるため、タンパク質やカルシウムといった栄養素の摂取も欠かせません。そこで、子ども自身が一人で簡単に温めて満足できるボリューム感にするとともに、塩分は控えめにするなど、親御さんにとっても安心できる商品づくりにこだわりました。
また、親御様向けの商品として「MiOats(マイオーツ)」や「のむだけ茶」の展開も始めました。子どもだけ、あるいはお母さんだけではなく、親子ともに同じもので手軽に鉄分補給などができる商品をつくりたいという思いを形にしました。
企業課題を「食」で解決するBtoB事業への挑戦と独自の組織文化

ーー現在、新たに取り組んでいる事業にはどのようなものがありますか。
黒瀬優作:
新たに企業向けの福利厚生プランを始めました。近年は働き方の多様化が進んで社内制度も充実してきていますが、一方で子育て家庭に対する支援はまだ十分に行き届いていないのが現状で、働きながら子育てをする中で日々の生活で最も負担となるのが食事の準備です。そこで、企業側から従業員の食事をサポートできる枠組みを構築しました。「子どもが生まれても働きやすい環境」を会社として提供することは、結果として離職の防止や採用力の強化に繋がります。
また、私は時短勤務の社員の生産性は非常に高いと思っています。しかし、今の日本は労働時間が短くなると給料が減る仕組みです。食事の準備や片付けなどにかかる時間が少しでも軽くなれば、時間に縛られずにもっと長く働くことができるかもしれません。そんな企業の課題を「食」で解決する新たなインフラをつくりたいと考えています。
ーー事業を推進する組織文化や求める人物像についてお聞かせください。
黒瀬優作:
私たちは、社会貢献と利益追求の両立である「ロマンと算盤」を大切にしています。この真逆の方向性を両立させてこそ「いい会社」だと考えています。組織としては、5年後の目標に「平均年収1000万円」を掲げています。透明性の高い業績連動評価を導入し、数値以外の成果も四半期ごとの経営陣へのプレゼンでしっかりと評価します。月に最大10万円の昇給が可能など、社員の意欲を最大化する環境を整えました。
また、採用基準は「優しくて強くて面白い」ことで、思いやりと諦めない強さを持ち、一緒にお酒を飲んで楽しいと思える方です。現時点の技術よりも、「社会を良くしたい」という思いを持つ方とぜひ一緒に働きたいですね。
幼児食といえば「モグモ」 国内ブランド化と現地に寄り添う海外展開
ーー今後の展望についてお聞かせいただけますか。
黒瀬優作:
ここ2、3年の直近の目標として、まずは国内において「幼児食といえば『モグモ』」と思い浮かべていただけるように、ブランドの浸透を強力に推し進めていきます。現在のインターネット販売にとどまらず、全国のスーパーなどの実店舗展開の拡大をはじめ、商業施設とのキッズプレート共同開発を実施していく予定です。
また、保育園や学童といった教育現場への導入に加え、大手企業とのブランドパートナーとしての新商品開発なども手がけていきます。このように、個人向けと企業向けの垣根を越え、あらゆる生活導線へサービスを広げていく計画です。
ーー業界のこれからを見据えて中長期的にはどんなビジョンを描いていますか。
黒瀬優作:
「世界中の家族を支援したい」というビジョンを掲げ、海外展開を見据えています。子どもの偏食や少食に関する悩みは、日本人だけでなく世界中の子育て家庭に共通する課題だからです。海外へ展開するにあたり、単に日本の商品をそのまま輸出することは考えていません。冷凍食品は物流のハードルが高いことに加え、国によって好まれる味付けや食文化が異なるためです。そこで、アジアなどを中心に製造拠点を設け、現地生産・現地マーケティングを行う構想を描いています。
商品開発においても、日本で実践してきたアプローチと同じ手法をとる予定です。現地の子どもたちに実際に試食してもらい、完食したものだけを製品化することで、その国に合わせたクオリティの高い食事を提供していきます。私たちのサービスが、世界中の家庭が抱える「食の悩み」を解決する新たなインフラへと進化していく未来を目指しています。
編集後記
自らの育児経験から幼児食ブランド「モグモ」を立ち上げ、社会課題の解決に挑む黒瀬氏。単なる商品の提供にとどまらず、食卓の楽しさの追求やBtoB事業への展開、そして世界を見据えたビジョンには強い使命感が感じられた。日本発の幼児食ブランドとして、世界中の家族に笑顔を届けるグローバルインフラへと進化していく未来が広がっている。同社の飽くなき挑戦はこれからも続く。

黒瀬優作/1990年、東京都出身。新卒で株式会社NEXYZに入社。その後、グループ会社の株式会社ブランジスタへの転籍を経て、美容系スタートアップに転職。営業部長を経験。2021年に株式会社Oxxxを創業。