
1964年の設立以来、兵庫県を拠点に清掃業と緑地管理(造園)の二本柱で事業を展開してきた株式会社トクラ。創業から半世紀以上の歴史を持つ同社は、長年培ってきた顧客基盤を大切に守りつつ、新たなエリアへの進出や労働環境の改善に積極的に取り組んでいる。先代の政界進出に伴い、急遽トップのバトンを受け取った代表取締役の都倉隆宏氏。自ら現場で実務を経験した経営者に、組織変革の歩みと今後の展望を詳しく聞いた。
突然の代表就任と「現場」で培った経営の原点
ーーまずは貴社設立の背景と、代表に就任されるまでの経緯を教えていただけますか。
都倉隆宏:
祖父はもともと、日用品や掃除用品を扱う荒物屋を営んでいました。その後、地元の高砂に発電所が建設されたのを機に清掃業務を請け負うようになり、1964年に弊社を設立したのが始まりです。私は大学卒業後、いずれ家業を継ぐつもりで別業界の企業に就職し、エアコン部材のルート営業を3年ほど経験しました。経営陣と同じ気持ちで働くことの難しさを実感できたことは、代表として社員と向き合う今の立場において、非常に活きていますね。
弊社の代表に就任したのは2019年です。当時社長だった父から「選挙に出馬するから会社を引き継いでほしい」と突然打診されました。その日も現場へ行く予定だったのですが、本当に想定外のタイミングでトップに立つことになったのです。
ーー家業に戻られてからは、どのような業務を担当されていましたか。
都倉隆宏:
姫路の火力発電所に常駐し、事務所や発電設備の清掃など、約5年間にわたり現場で実務を経験しました。ちょうど関西電力の設備建て替え工事の時期と重なり、多くの人が行き交う現場の熱気を肌で感じることができました。
この時の経験が、現在の経営の原点です。現場の「しんどさ」を身をもって知っているため、社員に厳しく言えず自分の中でブレーキをかけてしまうことも少なくありません。しかし、働く側の気持ちを深く理解できているからこそ、机上の空論ではない、現場に寄り添ったマネジメントの土台になっています。
長年の信頼関係を礎に 新たなエリアと顧客開拓へ

ーー現在の事業内容と強みについてお聞かせください。
都倉隆宏:
兵庫県内を中心とした清掃と緑地管理の2つが弊社の事業の柱です。緑地管理は姫路市など近隣エリアが中心ですが、清掃事業についてはエリア拡大を進めており、現在は大阪の事業所などでも業務を請け負っています。
また、最大の強みは、創業期から長年にわたり築き上げてきた、関西電力様をはじめとするインフラ企業様との強固な信頼関係です。現在も関西電力様の営業所を複数担当させていただいており、近年は新たに建設された大阪ガス様の発電所でも業務を任せていただいています。インフラを支える重要施設での豊富な実績と信頼が、弊社の経営基盤となっています。
ーー代表就任後、新たに取り組まれていることはありますか。
都倉隆宏:
これまでは兵庫県の姫路近郊が中心でしたが、現在は大阪エリアへの進出に注力しています。私自身が直接現場や営業へ足を運び、関西電力の大阪の営業所をお任せいただけるようになりました。また、大阪ガスが姫路に新設した発電所にも自ら営業に赴き、新たな取引を始めています。代表に就任して約6年が経ちましたが、「もし自分がゼロから会社を立ち上げた創業者なら、今でも現場の第一線で働いているはずだ」という初心に近い意識を常に持ち、自ら率先して新規開拓を進めています。
労働環境の整備と人材育成 そして持続可能な組織へ
ーー組織体制の変革や、人材育成において注力していることを教えてください。
都倉隆宏:
若者の採用・育成が優良な企業を国が認定する「ユースエール認定」や、健康経営優良法人の認定を取得しました。「現場仕事は休みが不安定」という業界のイメージを払拭するために、有給休暇の付与やこの業界では珍しい休日の固定化(日曜固定休・隔週土曜休み)など、安定して働ける体制を整えています。2026年度からは年間休日を108日に増やしました。
また、会社の平均年齢も40代半ばから50歳程度と若返りが進む中、未経験者でも成長できるよう、会社負担での資格取得支援制度を整えました。現場では、私自身が若手とマンツーマンで指導することもあります。人によって働きやすさの基準が異なるため難しさも感じますが、事務所で積極的に声をかけるなど、相談しやすい雰囲気づくりを大切にしています。
ーー最後に、今後のビジョンをお願いします。
都倉隆宏:
特定の取引先に依存しすぎないよう顧客を分散させ、利益率を高めて会社を大きくしていくことです。そのためには、社員一人ひとりの成長が欠かせません。そして、何よりも最優先すべきは「安全」です。現場での重大な怪我をゼロにするよう、徹底して呼びかけています。安全を第一に守りながら、お客様に選ばれ続ける品質を維持・向上させる。この安全と品質の両立を図ることで、持続可能な企業を目指していきます。
編集後記
突然の事業承継という状況にあっても、現場の実務経験を糧に、着実に組織を前進させている都倉氏。インフラを支える裏方としての誇りを胸に、労働環境の改善や新規開拓へ自ら挑むトップの姿が印象的だった。経営者としての情熱と社員への細やかな配慮が、半世紀を超える歴史を重ねてきた同社に新たな風を吹き込んでいる。

都倉隆宏/1987年兵庫県生まれ、桃山学院大学卒。卒業後3年間他社に勤め、2012年株式会社トクラに入社。2019年に同社代表取締役社長に就任。