
B2Bマーケティング領域において、独自のアプローチで事業成長を支援する株式会社b-growth。代表取締役の菱沼匡氏は、事業会社でマーケティング責任者を務めた経験から、専門人材を最適に配置する「マーケティングに特化した業務委託のマッチング事業」の構想に至った。審査制コミュニティから最適な専門家を提案する同社。なぜ「正社員採用にこだわらない」選択が事業成長の最短ルートとなるのか。菱沼氏にAI時代における人間の介在価値とマーケターの真の役割をうかがった。
同じマーケティングでも物理と化学ほど違う 創業の原体験
ーー起業のきっかけやビジネスモデルに着想を得た背景はなんですか。
菱沼匡:
事業会社でマーケティング責任者を務め、専門人材を探す「買い手」の立場を経験したことが原点です。当時、人材マッチング会社に「BtoBマーケターを採用したいので探して欲しい」と依頼しても、専門性の異なるBtoBマーケターやBtoC経験者、会社によっては広報担当者が提案されるなど、マッチング精度の低さを感じる機会が多々ありました。
一言で「マーケティング」と言っても、広告、戦略、運用など専門領域は多岐にわたります。特に消費者向け(BtoC)と企業向け(BtoB)では、求められる専門性が全く異なるのが実情です。この違いを、私はよく「理科という同じ科目でも、物理と化学くらい違う」と表現しています。この専門領域が正しく理解できていないプレイヤーが人材マッチングを行うことに対する違和感が、起業の動機となっています。
ーー貴社の主要サービスはどのような変遷を辿ってきたのでしょうか。
菱沼匡:
創業前の2021年頃から主宰していた、「BtoBマーケティング勉強会」というコミュニティがマーケターとの接続点であり、資産でもあります。当初は、同じ目線でマーケティングの戦略の相談や情報交換ができる場を求めて内輪の知り合いに声をかけながら少しずつメンバーを増やしていきましたが、現在では人が人を呼び込み、今まで全く接点のなかった事業会社のマネージャーや役員といった、現場の責任ある方々が集まる審査制コミュニティへと成長しました。
2026年現在では、約1200名のマーケターが参加しており、主宰しているイベント勉強会を通した交流や情報交換、企業間のアライアンスが生まれています。我々のビジネスの肝はデータベースの情報量なので、参加してくれる方と1人1人面談の機会をいただき、経験やスキルをお伺いしていく中でネットワークをデータ化し、それぞれの専門性を正しく分類する。そうすることで、企業の課題にピンポイントで応えられる方を提供できるような事業を目指しています。
スカウト媒体を使わない圧倒的な目利き力とマッチングの質

ーー貴社のサービスにおいて他社にはない強みはどこにあるとお考えですか。
菱沼匡:
最大の強みは、スカウト媒体を一切使用しない点です。ご紹介する方は正社員も業務委託も口コミとコミュニティのみで広がる、信頼のネットワークを基盤としているので、一定のリファレンスチェックが効いた状態でご紹介が可能です。
また、人事担当者にとって、マーケターの高度な専門要件を正確に把握することは容易ではありません。そこで私たちが間に立ち、マーケター特有の難解な言語を咀嚼し採用要件定義も含めてご支援しています。これも専門性の高い弊社だからこそ対応可能な領域です。形式的な職務経歴書の受け渡しに留まらないため、書類選考の通過率は非常に高く、人事担当者の採用活動における負担軽減の一助になっているかと思います。
ーー活躍しているマーケターの共通項はありますか?
菱沼匡:
どの業界や事業フェーズでも、顧客や市場への解像度が高い人材は活躍している傾向にあります。リスティング広告やSEOといった手法を起点に戦略を語るのではなく、現場の生の声に向き合い「顧客が真に求めているものは何か」を探求する姿勢が重要だと考えています。
とあるSaaS企業は、どの事業部のどのメンバーと話をしていても打ち合わせや飲みの場でも「顧客インタビューでこんな話を聞いた」という具体の話が出てきます。会社に文化として根付いているので、この環境で働くだけで自然と顧客思考が磨かれるだろうなと感じさせられる素晴らしい会社だと思います。基本的なことですが、体現し続けられている方はそう多くはないのが現状なので、実践するだけで差をつけていくことができると考えています。
雇用形態と企業間連携がもたらす事業成長の加速
ーー事業成長に向けてマーケ組織ではどのような体制構築をしていくべきだとお考えですか。
菱沼匡:
事業フェーズによって必要な人員リソースやスキルセットは変わるので、正社員での採用+良質な業務委託者の確保は常に選択肢として持っておくべきだと思います。正社員採用の場合、どんなに経歴が優れていても、自社の環境で実力を発揮できるかは未知数ですし、万が一ミスマッチが起きた場合に簡単に配置転換をすることもできません。
一方、業務委託という契約形態には、柔軟に体制を構築できる利点があります。必要な局面で、自社に必要な能力を持つ専門家に依頼する合理的な選択です。彼らは成果が自身の評価に直結するため、極めて高いプロ意識と当事者意識を持っています。固定費を抑えつつ、領域に特化した専門知見を適切な価格で活用できる点が魅力です。これが企業にとってコストパフォーマンスの最大化をもたらします。
そもそもの外注活用や採用要件定義のノウハウが不足している企業に対しては、まず私たち自身がコンサルティングを無料で提供しています。要件定義や依頼する内容がズレていると、せっかく優秀な方をアサインできても事業グロースに繋がらないケースがあるからです。その上で「この商材であればどの施策から着手すべきか」を判断し、優先順位を設定します。単に人材を提案して終わるのではなく、継続的な事業成長に向けた伴走型の支援を徹底しています。
AI時代の介在価値とこれからの展望
ーーAIの進化が著しい昨今ですが、人の役割はどう変わっていくとお考えですか。
菱沼匡:
AI技術が発展しても、人間の介在価値が失われることはないと考えています。0から1を生み出す企画の立ち上げは人間が担うべき領域です。そして、AIが出力した80点の成果物を100点に引き上げる最終的な磨き込みも同様に人間が担っていく部分だと考えています。逆に1から80に至る効率化のプロセスは、積極的にAIへ委ねていくべきでしょう。
AIはあくまで過去の学習をベースにした提案、他社にはない「尖り」や独自の視点をかけ合わせることはできません。社内でも定期的にAI勉強会を開催し、常に最新の技術動向をネットワーク内で共有しています。需要の変化を鋭く捉え、時代に即した価値を提供し続ける姿勢が不可欠です。
ーー最後に今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか。
菱沼匡:
技術や手法が変化しても、「クライアントのビジネスを伸ばす」という本質は揺るぎません。私は今の事業を「人材紹介会社」ではなく、時代に合わせた「事業成長(グロース)支援」だと定義しています。今はマーケターのご紹介がメインですが、数年後にはAI専門人材の提案を主軸に据えている可能性すらあります。
今後はコミュニティをさらに発展させ、業界の第一線で活躍するプロフェッショナルが集う確固たる場にしていきたいと考えております。自ら有益な情報発信やイベントを企画し、BtoBマーケターにとって有益な場所を提供し続けることで、困った時の駆け込み寺になるような便利な会社として認知いただけるように取り組んでいきたいですね。マーケターのリソース不足や専門性不足にお困りの際には遠慮なくご連絡いただければと思います!
編集後記
「理科という科目は同じでも、物理と化学くらい違う」。BtoBマーケティングにおける専門性の違いを的確に表現した言葉だ。自身が事業会社で発注側を経験したからこそ持つ、圧倒的な当事者意識と顧客目線。単なる人材の提案に留まらず、企業の事業成長に徹底してコミットする姿勢こそが、コミュニティに優秀な人材を引き寄せる源泉となっている。AI時代を見据え、人間の介在価値を追求し続ける同社の挑戦は、これからも続いていく。

菱沼匡/株式会社b-growth代表取締役CEO。事業会社でのマーケティング部門責任者などを経て、2021年頃に「BtoBマーケティング勉強会」を立ち上げる。2023年に株式会社b-growthを創業。BtoBマーケティングに特化した正社員・業務委託者のマッチングやビジネスグロース支援を展開し、事業会社の役職者限定の審査制コミュニティを基盤に、質の高い人材アサインを実現している。