※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

全国の保育・教育施設2万5000施設以上に導入され、圧倒的なシェアを誇るICTサービス「CoDMON(コドモン)」。その開発の裏には、サービス導入が思うように広がらなかった苦難の時期と、現場の痛切な課題に向き合い続けた泥臭い歩みがあった。今回は、株式会社コドモン代表取締役CEOの小池義則氏に、保育現場における「省力化」の本質や、起業以来大切にしている経営信念、そして日本にとどまらず海外展開も見据えた、今後の子育て支援のビジョンについてうかがった。

「店舗ビジネス」ではない現場で知った保育業界のリアル

ーーまずは、起業の経緯を教えてください。

小池義則:
大学卒業後、コンサルティング会社の営業として経験を積み、27歳のときに起業しました。当初はWebサイトやチラシの制作といった事業を行っていましたが、前職の先輩から学校向けの連絡システムの開発依頼を受けたことが「CoDMON」の原点につながります。その後、その先輩が保育事業に関わるようになり、「保育園でも同じような課題があるからシステムをつくってほしい」と声をかけられ、初めて保育の現場に足を運ぶようになりました。

ーー自社サービスとして展開し始めた当初から、ビジネスは順調だったのでしょうか。

小池義則:
自社プロダクトとして2015年頃にリリースした当初は、全くと言っていいほど導入が進まず、試行錯誤の時期が2〜3年続きました。今振り返ると、その理由は私自身が業界を誤って捉えていたからでした。私は長年、一般企業の営業支援をしてきたため、無意識に「保育園も店舗ビジネスと同じ構造だ」と考えてしまい、「保護者の満足度向上」という切り口で提案していました。しかし、当時は、待機児童問題の真っ只中の時期。現場の反応は冷ややかなものでした。実際に現場に足を運ぶ中で、先生方が日々どれだけの時間と心を尽くして、子ども一人ひとりと向き合っているのかを実感するとともに、「先生の負担をどう軽減するか」「先生が辞めない環境をどう作るか」が最優先の課題だったことに気づかされました。

効率化ではなく「省力化」で子どもと向き合う時間を創出

ーー現場の真の課題に気づき、どのようにサービスを変化させていったのですか。

小池義則:
保育の現場では、子どもと向き合う時間が何より大切にされており、そのための丁寧な関わりが日々積み重ねられています。私たちは、その時間を少しでも支えられる存在でありたいと考え、ITの役割を「業務の効率化」ではなく、「省力化」であると捉えるようになりました。人がやらなくてもいい書類業務などは機械に任せ、先生たちが本来大切にしている保育の時間に集中できる環境をつくりたいと考えたのです。

ーー具体的には、どのような機能でその「省力化」を実現したのでしょうか。

小池義則:
現場の先生方のご意見を伺いながら、懸念に思うポイントを一つひとつ丁寧に解消していきました。たとえば、保護者からの欠席連絡ひとつとっても、病欠なのか都合欠なのか、病気ならインフルエンザなのかなど、電話で細かく聞き取るのは大変です。それをアプリ上で最初から簡単に選択できるようにしました。また、指導計画などの帳票類は、紙の表の配置そのものに意味があるという現場の声を聞き、従来のフォーマットを画面上でほぼ100%再現できる仕組みをつくりました。単なる高機能を目指すのではなく、「いつでも同じ場所に同じボタンがある」という使いやすさを重視し、先生方に寄り添いながら改善を繰り返してきました。

逃げない姿勢で築き上げた「信頼」という資産

ーー現在、多くの施設に選ばれ続けている理由はどこにあるとお考えですか。

小池義則:
一貫して「施設の課題にきちんと向き合い続ける」という姿勢を表明し、実行してきたことにあると思います。保育ICTの市場規模自体は、他の市場と比較するとそこまで大きな市場ではありません。短期的な利益だけを目的とすれば、別の方向へ向かう選択肢もあったかもしれません。しかし私たちは、とにかく現場の先生や施設の課題に向き合い、どう解決できるかをやり続けてきました。そこに熱量を持った優秀な仲間が集まってくれたことが最大の強みです。

ーー経営において一番大事にされていることは何ですか。

小池義則:
起業して以来、一貫して「信頼」という資産を一番大事にしています。創業間もない頃は、他社より特別に優れたものをつくれていたわけではありません。だからこそ、失敗したとしても逃げずに誠実な対応をし、次につなげるという責任の持ち方を徹底してきました。短期的な利益を追って既存の価値を損なうのは本末転倒です。中長期的に価値を届け、拡大し続けることを重視しています。そのためには、社会的な価値の追求と同時に、事業として成立させるための経済的な価値を生み出し続けることも不可欠だと考えています。

「情報の分断」を解消し子育てを包括的に支援するエコシステムへ

ーー今後の長期的なビジョンについてお話いただけますか。

小池義則:
私たちは、5年後、10年後には単なる「保育のICTベンダー」ではなく、子育てを包括的に支援できる民間企業になっていたいと考えています。子育てにおいては、保護者、保育・教育施設、行政、医療機関など、多くの関係者が存在しますが、現状はそれらが十分につながっておらず、分断が起きています。デジタルの力でこの情報の分断を解消し、子どもを中心とした情報をセキュアに共有できる「子育てのエコシステム」の基盤をつくることが大きな目標です。各関係者が連携しやすくなることで、保護者の不要な悩みを減らし、子どもとの間にゆとりや愛情を注げる環境を最大化するお手伝いがしたいですね。

ーー最後に、海外展開についての構想も教えていただけますか。

小池義則:
日本は少子化や子育ての課題において、ある意味で先進国です。私たちが国内で培ってきた「さまざまな分断の解消」というノウハウは、数年後のアジア諸国などでも必ず活きると考えています。各国のパートナー企業と協力しながら、まずは保育を軸にしたICTを普及させ、その周辺にいる保護者にも価値を届けるモデルを複数の国で展開すべく、挑戦を続けていきます。

編集後記

「保育園は店舗ビジネスではない」。その気づきから現場へと足を運び、泥臭く改善を重ねてきた小池氏の歩みには、ITツールを提供する企業という枠を超えた、社会課題解決への強い使命感が満ちていた。効率化ではなく「省力化」という言葉に込められた現場への深い敬意と、情報の分断をなくし、子育てに関わるすべての大人を支援するという壮大なビジョン。国内トップシェアに甘んじることなく、世界へと広がる同社がつくる「新しい子育ての当たり前」に、今後も期待したい。

小池義則/2002年横浜国立大学経済学部を卒業し、コンサルティング会社に入社。2009年に株式会社コドモンの前身となる株式会社スパインラボを設立。名刺等の販促物や、Webサイトの企画・設計・デザイン・運用の側面からクライアントの事業成長を支援。2015年に自社プロダクト「CoDMON(コドモン)」をリリース。プロダクトの初期開発フェーズでは、自ら全体仕様の設計、UI、フロントエンジニアリングに携わる。