※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

2016年の創業以来、古民家再生を中心としたNIPPONIA事業を通じ、日本各地に残る歴史的資源に新たな息吹を吹き込んできた株式会社NOTE。同社は建物の改修にとどまらず、その土地固有の暮らしや文化を尊重したエリアマネジメントを展開し、持続可能な地域の未来を描き出している。失われゆく日本の原風景を次世代へ継承するために、どのような戦略と情熱を持って事業に取り組んでいるのか。「まちづくり」をボランティアや一過性のイベントではなく、持続可能な産業として確立しようと挑戦を続ける同社の代表取締役、藤原岳史氏に話をうかがった。

人生の転機――上場企業を辞めてから現在に至るまで

ーーまずは経営者を目指したきっかけや、現在の思いについてお聞かせください。

藤原岳史:
まちづくり業界に関わり出す前は、複数のITベンチャー企業に勤めていました。34歳となった2007年に、当時の勤務先の上場に寄与できたことで、自分の中で掲げていた一つの大きな目標が達成されました。

ただ、達成感はあったものの、同時に「次は何をすべきか」という問いも生まれました。そこで改めて自身の人生を見つめ直したとき、次の目標として浮かび上がったのが、「生まれ育った地元のために何か貢献したい」という思いでした。それが現在の挑戦に至る原点です。

現在は、歴史的建築物の活用を起点に、その土地の歴史的文化資産を尊重した持続可能なエリアマネジメントを行うNIPPONIA事業を展開していますが、さまざまな取り組みを通して、その奥深さを強く実感する毎日です。

ーー貴社の事業における、奥深さとはどういった部分にありますか。

藤原岳史:
私たちの事業は、暮らし・文化・歴史といった地域資源を、魅力的な観光資源に変えるまちづくりです。地域の歴史が深ければ深いほど多彩なストーリーが眠っており、それを掘り起こし、その地域を訪れる人に感動として提供できることに大きな喜びを感じます。

一方で、地方ならではの保守的な領域に踏み込んでいく難しさに直面することもあります。地域には長い年月をかけて形成されたコミュニティや不文律があり、外から来た人間が単に「こっちの方が合理的だ」と正論を振りかざすだけでは決して受け入れてもらえません。非常にポジティブな面もあれば、一筋縄ではいかない困難な面もあります。私が想像していた以上に、日本という国には深い歴史と文化が根付いていることを知りました。地域の方々が持つ「シビックプライド」(地域の人が持つ誇りや愛着)を、外からの視点を入れることでポジティブなエネルギーに変換する。そんな試みを重ねながら、全国各地の地域資源に光を当て続けています。

また、昨今のコロナ禍を経て、人々の価値観も大きく変化しました。人との距離感や、日々の暮らしの豊かさが見直されるようになり、地方への関心やUターンの動きも加速しています。私たちが取り組んできたことが、時代の要請と合致し始めているという手応えも感じています。

創業者が直面したIT社会と地方文化の壁

ーー困難に直面した具体的なエピソードがあればお聞かせください。

藤原岳史:
前職がIT関係だったものですから、まちづくりに参画した当初は「ITを使えば場所を問わずにサービスを届けられる」という考えが強くありました。ITの力を用いれば、少子高齢化が進む日本の地方を元気にできるのではないか、と思っていたのです。

しかし、現実はそう甘くありませんでした。地域の方々、特に高齢の方にとっては馴染みのないITツールは、運用のハードルが極めて高く、地域課題の解決という点ではまったく歯が立ちませんでした。実際には、ITサービスの導入を検討する以前に、その使用方法を一から教えるところから始まることがほとんどです。たとえば、空き古民家を宿に再生することで地域に雇用を生み、新しい人の流れをつくるビジネスモデルを提案しても、地元にはネット予約システムを管理できる人がいません。

また、クレジットカード決済のシステムを導入すること自体に「お金が見えなくて不安だ」と感じられるケースもありました。「便利だから使うべきだ」というのはこちらの都合であり、地域の実情に即していなければ意味がありません。デジタルの利便性よりも前に、まずは膝を突き合わせて信頼関係を築くことが欠かせません。地域の現状に寄り添うアナログな対話こそ必要だと痛感させられた出来事でした。まずは私たちが泥臭く現場に入り込み、汗をかくことからしか何も始まらないのだと学びました。

地方が生まれ変わる11の事業スキーム

ーー事業で感じた手応えや、現在の強みを教えてください。

藤原岳史:
創業当時は、古民家再生プロジェクトがビジネスとして成り立つのか、確信が持てない部分がありました。一般的に、地域のまちづくり事業はボランティアやNPOが担う領域だと考えられていたからです。補助金頼みの一過性のイベントで終わってしまうケースも少なくありませんでした。

そのような状況下で事業をスタートさせ、私が高校時代まで暮らした兵庫県丹波篠山でのプロジェクトから始まりました。そして一つひとつ実績を重ねていく中で、周りの市町からもお声をかけていただけるようになり、現在では全国の地域からご相談をいただいています。

表面上は「古民家再生」という点では同じに見えるかもしれませんが、実はその裏側のスキームは地域ごとにまったく異なります。関わる事業者、ターゲットとなる客層、ファイナンスの組成方法など、すべてがオーダーメイドです。ある地域では自治体がオーナーになり、ある地域では民間企業が出資をする。運営も地元企業が担う場合もあります。これは最初から計画していたわけではなく、それぞれの地域で「どうすれば持続可能になるか」を突き詰めた結果です。トライ・アンド・エラーを繰り返すうちに、地域の状況に合わせて11パターンの事業スキームを組めるようになりました。物件や地域の属性に応じた最適な提案ができるノウハウ、そして現場で蓄えた知見こそが、私たちの最大の強みだと自負しています。

地域に眠る「点」を「面」に変える成功事例

ーー地域全体を活性化させるために、どのようなアプローチを取っていますか。

藤原岳史:
私たちは、地域活性化において「点を面にする」という表現を使います。古民家を改修した施設単体(点)だけが良くても、まちは変わりません。その施設を起点に、パン屋さんや近隣の商店、住民の方々がつながり、地域全体としての魅力が面的に生まれることが重要です。できれば1棟だけではなく、地域に広く波及するように最初の開発では3棟以上を再生するよう計画します。こうすることで地域内に面的な広がりを生み出し、外から訪れる人と地域の人の接点を増やすことができます。

こうした「面的な広がり」をより強固なものにするため、地域に長く根付く地元企業への支援も欠かせません。長年地域を支えてきた企業の中には、まちの衰退に危機感を抱きつつも、自社の資産やビジネスをどう生かせばよいか悩まれているケースが多く見受けられます。私たちはそうした企業に対し、課題解決に向けて次の100年を見据えたビジョンを共に構築します。地域のシンボルである企業が新たな活力を生み出すことで、まち全体の発展につながるという手応えを感じています。

ーー地域において、貴社はどのような存在でありたいですか。

藤原岳史:
私たちは地域にとっての「縁側」のような存在でありたいと考えています。家の内と外の境界が曖昧な縁側のように、地域の人と外から来る人が自然と交流し、混ざり合う場所をつくるためです。

私たちが主役になるのではなく、あくまで黒子として伴走し、地域の方々が自走できる仕組みを整えることが役割です。外からの視点を持って地域の魅力を再発見し、それを地元の方々に「こんなに素晴らしい価値があるんですよ」と伝え返すこと。それが、真の意味での地方創生につながると信じています。地域住民の方々が「自分たちのまちが良い方向に変わっていく」と実感できることこそが、プロジェクトの持続性を高める鍵となります。

まちづくりのプロを育てる「人材育成」への転換

ーー組織づくりや人材採用については、どのように考えていますか。

藤原岳史:
まちづくり事業は前例のないことに挑戦し、地域ごとの複雑な課題に泥臭く向き合う仕事です。今までのやり方では解決できない課題に対峙しなければならないため、既存の枠組みにとらわれず、新しい可能性を探して何度でも試行錯誤を繰り返せる人材の育成が欠かせません。NOTEとして、自社で活躍するプロフェッショナルを育てることはもちろん重要です。しかしそれと同時に、幅広く地域で活躍できる人材の輩出にもつなげていければと考えています。

たとえば今の若い世代は、社会課題への感度が非常に高く、地方創生に対して柔軟で非常に熱い思いを持っており、そうした力が次の時代の地域をつくっていくと信じています。彼らが成長すれば、地域への入り込み方も事業のつくり方も、さらに自由で新しいものになっていくでしょう。

「まちづくり業」の確立に向けた組織の進化

ーー今後の展望について、お聞かせいただけますか。

藤原岳史:
現在、NIPPONIA事業をさらに発展させて「まちづくり」を一つの産業として確立させるために、機能の専門化を進めています。その一環として、NIPPONIAオペレーションズ株式会社と、NIPPONIAコモンズパートナーズ株式会社というグループ会社を設立することを決めました。

ーーそれぞれの会社ではどのような役割があるのですか。

藤原岳史:
まず、NIPPONIAオペレーションズ株式会社は、ホテルの運営を専門に行う会社です。NIPPONIAの宿は通常のホテルと異なり、地域に溶け込み、住民の方々と宿泊客をつなぐ橋渡し役としての役割も求められます。地域ごとの特性に合わせ、顧客満足度を高めるだけでなく、働くスタッフにとっても働きがいのある環境をつくり、NIPPONIA独自の世界観を表現する運営体制を構築することを目的としています。運営のプロフェッショナル集団をつくることで、サービスの質を飛躍的に向上させます。

一方、NIPPONIAコモンズパートナーズ株式会社は、資金調達を専門に担う会社です。古民家や文化的資産といった日本の「未来資源」を次世代に残すためには、持続的な資金の流れが不可欠です。しかし、地方の古い物件に対する融資や投資は、担保価値の評価などが難しく、金融機関にとっても判断が難しい領域でした。そこで、この会社が投資家と資金を必要とする地域をつなぐ役割を果たし、経済的な循環を生み出していきます。

「運営」と「資金調達」という両輪を専門会社として切り出すことで、本体である弊社はより本質的なエリア開発や企画に注力できる体制を整えました。これによって、より多くの地域で、よりスピーディーに事業を展開できるようになります。

それぞれの強みを活かしたまちづくりの実現

ーー最後に、これからの目標を教えてください。

藤原岳史:
私たちは、地域の暮らしと文化こそが、これからの日本において最も重要な価値を持つと考えています。田舎の里山の風景や土地に根付いた生活様式は、数百年前から先人が必然性を持って紡いできたものです。地域の宝そのものである「暮らし・文化」をもう一度信じて、世の中にその価値を広めていく。そして「次の50年、100年後の日本へつなげられるものがある」ということを、事業を通じて証明していきたいと思っています。

最近では、自治体だけでなく大手企業から「一緒にまちづくりに取り組みたい」という問い合わせも増えてきました。地方創生やSDGsといった社会貢献事業に挑む企業は多いものの、収益面の壁などがあり形に残せていないケースは少なくありません。弊社のプラットフォームを活用し、日本のさまざまな企業がそれぞれの得意分野を活かして地方創生に参画する。そうすることで、地方創生はボランティアではなく、一大産業にもなりうると確信しています。

まちづくり事業の可能性を市場に問うフェーズから、より実効性のある産業へと昇華させるフェーズへ。人材育成やコンテンツ造成にも注力し、100年後の日本に誇れる景色を残していきたいですね。

編集後記

人口減少や空き家問題など、日本の地方が抱える課題は深刻だ。しかし、藤原氏の言葉からは、それらを「可能性」と捉える力強い意志が感じられた。単なる建物の再生にとどまらず、運営と資金調達の両輪を強化し「まちづくり業」という新たな産業の確立に挑む同社。新卒採用への意欲や、グループ会社の設立による専門性の強化は、同社が次のステージへと進む確かな一歩といえる。地域住民を巻き込み、点と点をつないで線にする同社の取り組みは、日本の原風景を守るだけでなく、そこに新しい経済循環を生み出している。100年先の未来を見据えたその挑戦に、今後も注目していきたい。

藤原岳史/1974年、兵庫県丹波篠山市に生まれる。外食企業での勤務を経てアメリカのIT企業にインターン。帰国後、数社のIT企業勤務を経てシナジーマーケティング株式会社に入社、上場メンバーとして寄与。その後、故郷の活性化に取り組むためUターン。2010年に一般社団法人ノオト代表理事就任。2016年5月に株式会社NOTEを設立、代表取締役に就任。現在は、古民家等の地域資源を活用した地域活性化事業である「NIPPONIA」を全国で展開中。