
写真や映像を起点に人の「思い」を形にする事業で独自の立ち位置を確立した株式会社アスカネット。2025年に代表取締役社長に就任した村上大吉朗氏は、同社の新規事業を牽引してきた人物だ。市場環境が変化する中、現在は創業時のミッションに立ち返り、新たな展開を進めている。なぜ安定を求めず、未知の領域へ挑み続けるのか。デジタル時代に「記録を価値にし、記憶を記録に」変える本質とは何か。村上氏が実践する具体的な行動指針と、次世代へ向けた展望に迫る。
「2つ以上うえの視点」が育てた経営者の視座と挑戦心
ーーまずは、貴社に入社した経緯から教えてください。
村上大吉朗:
27歳の時、前職の財務担当としての経験を経て、アスカネットに入社しました。入社前から弊社のフォトブックを利用する機会があり、よく知っていたためです。私自身も自分で撮った写真を一冊の本にまとめて、友人の結婚式でプレゼントしたことがあります。友人も私自身も深く感動した経験として記憶に残りました。デジタルデータを手触りのある写真集にして手渡す。その際の心が震えるような体験を、より多くの人へ届けたいという強い思いが原点です。
ーー入社後はどのようなことに注力されたのですか。
村上大吉朗:
数々の新規事業を牽引しました。活動の原動力は、「未知の領域を開拓する純粋な喜び」に尽きますね。当時はフォトブック自体が世間に浸透しておらず、大規模な広告宣伝に頼ることはできませんでした。そのため、誰にどのような価値を届けるべきか、地道に考え行動するところから始めました。
実行に移す試行錯誤のプロセスに魅力を感じていたことから、執行役員として新規事業の推進を担う際にも意識していたことがあります。それは「自身の1つ上ではなく、2つ以上うえの役職者の視点で業務と向き合う」姿勢です。最終的な意思決定者である社長の立場を想像しながら課題に取り組むことで、事業全体を俯瞰できるようになります。「2つ以上うえの視点を持てば、自然と視座は上がる」。この考え方が、結果として自らの成長を後押ししてくれました。
課題を前向きに捉える組織づくりと「思いをカタチに。」への原点回帰
ーー社長就任後はどのような取り組みをされましたか。
村上大吉朗:
当時、一部の事業で業績が伸び悩む課題を抱えており、抜本的な立て直しが急務でした。社長就任にあたり、私がまず着手したのは現場の実行力を高める体制の構築です。各事業部門へ実績と実力を持つ人材を配置しつつ、組織全体の求心力を取り戻すための取り組みも行いました。創業時のミッション「思いをカタチに。」という言葉を再定義したのです。
単なるスローガンで終わらせず、日々の業務の具体的な行動基準として落とし込むことで、全社員が同じ方向へ進むための羅針盤になるように再設計しました。これにより、組織内の意思疎通を円滑にし、変化に対応できる強い体制を整えることができたのです。
ーー組織をまとめる上で最も大切にしている考えは何でしょうか。
村上大吉朗:
「笑う門には福来る」という言葉を大切にしています。活気のない場所に人は集まらず、事業の成長も見込めません。業績が低迷している時期は、組織全体が消極的な空気に包まれがちです。しかし、最も危険なのは「なぜ失敗しているのか、原因が分からない」という状態に陥ることです。逆に言えば、直面している課題の正体が明確になれば、不安は消え去ります。うまくいっていないことの実態が何かわかると、「わらけてくる」ものです。真の要因さえ把握できれば、あとはそれを解決するための具体的な行動へと前向きに移るだけだと考えています。
デジタル時代における「写真の本質」と唯一無二の強み

ーー貴社の事業の根底にある強みとは何でしょうか。
村上大吉朗:
創業時の写真館向け事業を起点に、人の人生における重要な節目に寄り添い続けてきた点です。遺影写真の作成から個人のフォトブックまで幅広く手がけています。近年は画像のデジタル化が進み、写真を撮影する機会が格段に増えました。しかし、私たちが提供しているのは、単なる画像データの保存機能ではありません。
事業の核としているのは、「記録を価値に」変えるプロセスです。無機質なデータを手触りのある形あるものへと変換する。そして、大切な人とともに振り返る時間を提供するのです。高度な画像処理技術を活用しながらも、人の感情に永く寄り添い続けること。温もりのある体験を創出することこそが、弊社の事業の根幹を支えています。
「未来の黒子になる」 空中ディスプレイが創る次世代の体験
ーー現在、力を入れている事業についてお聞かせください。
村上大吉朗:
最先端技術である「空中ディスプレイ事業」です。約15年にわたりチャレンジを重ねてきたこの技術は、現在、本格的な市場導入の段階を迎えています。特に海外市場への展開に注力しており、先進的な自動車メーカーなどへの技術提供が進行中です。自動車の車内空間に映像を投影し、非接触で操作できる技術を使い、空間をより上質なものにすることを目指しています。
また国内においても、公共施設における案内端末の導入など、現実空間とデジタル情報を融合させた新たな技術を開拓しています。弊社の目指す姿は、社会インフラや製品の背後で「未来の黒子になる」ことです。最先端の技術で世の中に驚きと利便性を提供し続け、開拓精神を持つ社員とともに、「アスカネットの新たな歴史」を築いていきます。
編集後記
「2つ以上うえの視点を持つ」という徹底した仕事への姿勢と、「笑う門には福来る」と語る温かな人間味。村上社長との対話を通じて、アスカネットが培ってきた独自の技術の根底には、常に「人の思い」への深い共感があることが読み取れた。デジタルデータがあふれる現代において、あえて「カタチにする」ことの価値を追求する。さらに、最先端の空中ディスプレイ技術で次世代のインフラを支えようとしている。変化を恐れず、本質的な価値の提供に挑み続ける同社の展開が、人々の生活にどのような体験をもたらすのか。飽くなき挑戦はこれからも続く。

村上大吉朗/1977年、広島生まれ。立命館大学卒業。事業会社勤務を経て2004年、株式会社アスカネットに入社。フォトブック事業コンシューマ部門の責任者となり、OEM部門の立ち上げに寄与。2020年、取締役に就任。2025年より代表取締役社長。大切にしている言葉は「笑う門には福来る」。村上水軍の末裔。