
脱炭素社会の切り札として期待される洋上風力発電。しかし、遠浅の海が少ない日本において、その普及には地理的な課題が立ちはだかる。この壁に対し、深い海でも設置可能な「浮体式」かつ「垂直軸型」という独自の風車で挑むのが、株式会社アルバトロス・テクノロジーだ。同社が描くのは、単なる電力供給の枠を超えた壮大なビジョン。風車そのものを国内で製造し、その技術を世界へ輸出することで、日本を「エネルギー技術の輸出国」へと変貌させることだ。安定した大学研究者のポストを捨て起業の道を選んだ代表取締役の秋元博路氏。「常識を疑うこと」を信条とし、次世代のエネルギー産業を切り拓く同氏に、日本が世界で勝つための戦略と、その根底にある熱い思いを聞いた。
船舶工学の視点で捉えた風車の違和感 常識を疑い最適解へ
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
秋元博路:
もともと私は、大学の博士課程で船舶海洋工学を専攻していました。その後、研究者として鳥取大学や東京大学、そして韓国や大阪の大学を渡り歩き、流体シミュレーションなどの研究に従事していました。実は当初、再生可能エネルギーの分野に進もうとは全く考えていなかったのです。
転機となったのは、2011年の東日本大震災と原発事故でした。あの未曾有の災害を目の当たりにし、「日本には海のエネルギーをもっと活用する必要があるのではないか」と痛烈に感じたのです。当時すでに「浮体式風車」の概念はありましたが、船舶工学の専門家である私から見ると、既存の設計には大きな違和感がありました。
ーーどのような点に違和感を持たれたのですか。
秋元博路:
「重心の高さ」です。船や海洋構造物の基本は、安定させるために重心を下げることです。しかし、既存の浮体式風車は、陸上の風車をそのまま海に浮かべたような構造をしており、重い発電機がはるか高い位置にあるため、重心が非常に高くなっていました。これでは波に揺られやすく、支えるための浮体(土台)も巨大で高コストにならざるを得ません。陸上であれば地面が支えてくれるので問題ありませんが、海の上では話が別です。「なぜ重心が高いままなのか」。そう考えたとき、それは単に「陸の常識」をそのまま海に持ち込んでいるだけだと気づきました。
そこで私は、船舶工学の知見を活かし、海に浮かべるのに最適な形を一から考え直しました。そうして辿り着いたのが、重い発電機等を海面近くに配置し、風車と浮体が一体となって回転する、現在の「垂直軸型」のデザインなのです。
日本で作る次世代風車 「製造革命」でエネルギー自立へ

ーー開発されている風車の強みについて具体的に教えてください。
秋元博路:
最大の特徴は、圧倒的なコストダウンと製造のしやすさです。従来の大型風車の羽根は、航空機の翼のように複雑な形状をしており、巨大な型を使って一体成型で作られます。たとえるなら「たい焼き」のような作り方です。大型化が進むにつれ、その型は100メートルを超えることもあり、設備投資や輸送のハードルが極めて高くなってしまいます。
一方、私たちが開発している風車のブレードは、金太郎飴のように断面が一定の形状をしています。これは「連続引抜成形」という手法で、穴を通して材料を連続的に引き出すことで作られます。私たちはこれを「パスタマシン」方式と呼んでいますが、この方法なら設備もコンパクトで済み、自動化も容易です。また、これまでの風車は台風などの強風に弱いとされてきましたが、私たちの風車は、羽を複数のアームで支えること、浮体ごと傾くことで風を受け流せることにより、台風の暴風域内でも回転停止であれば壊れない強度を持っています。
ーー事業において、特にこだわっていることは何でしょうか。
秋元博路:
私たちが最もこだわっているのは、「日本国内で製造する」ことです。現在、日本の風力発電市場は海外メーカーの独壇場となりつつあり、残念ながら国内メーカーの撤退も相次ぎました。しかし、風車を海外から買い続けるだけでは、原油を輸入するのと変わらず、日本の国富は流出し続けてしまいます。
エネルギーを輸入に頼る構造から脱却し、真に自立するためには、国内で作る仕組みが不可欠なのです。そのため、私たちの風車は日本のサプライチェーンで作れるように設計しています。たとえば、製造が難しい巨大な発電機を一つ作るのではなく、日本の中小企業でも製造可能なサイズの発電機を複数組み合わせることで、同じ出力を得る工夫を凝らしました。電気代として支払われたお金が、海外ではなく国内のメーカーやそこで働く人々に還元される。そうして初めて、日本経済のエコシステムが健全に回るようになると考えています。
ーー貴社の今後の展望についてお聞かせください。
秋元博路:
日本がエネルギー分野で世界と渡り合える勝算は十分にあります。日本は広大な排他的経済水域を持つ島国であり、沖に出れば風は強く安定しているため、ポテンシャルは計り知れません。
私たちは、エネルギーそのものではなく、「エネルギーを取り込む技術」を輸出する国になれるはずです。かつての産油国が石油を輸出したように、日本はこの風車を製造する技術やノウハウを世界に提供することで、間接的な「エネルギー供給国」の筆頭になれる可能性があります。その実現に向けて、まずは小型の実証機を海に浮かべ、次は数メガワット級の大型実証機、そして将来的には多数の風車が並ぶ「ウインドファーム」の建設を目指しています。認証機関との折衝やサプライチェーンの構築など、道のりは決して平坦ではありませんが、一歩ずつ着実に進めています。
ーー最後に、次世代の方々へのメッセージをお願いします。
秋元博路:
皆さんにお伝えしたいのは「常識を疑うこと」の大切さです。常識とは、あくまで過去の情報の圧縮にすぎません。「垂直軸型は効率が悪い」「洋上風力はコストが高い」といった定説も、前提条件や技術が変われば覆せます。今ある常識にとらわれず、自分の頭で本質を考え抜くこと。それが新しい価値を生み出し、社会を変える原動力になると私は信じています。
編集後記
「研究者は論文を書けば評価されるが、経営者は結果を出して初めて責任を果たせる」。秋元氏の言葉には、アカデミアから実業界へと転身した並々ならぬ覚悟が滲んでいた。輸入に頼る日本のエネルギー事情を憂い、単なる技術開発に留まらず、産業構造の変革まで見据える視座の高さに圧倒された。常識を疑い、逆境をチャンスに変える同社の挑戦。日本の海に浮かぶ「純国産」の風車が、世界のエネルギー地図を塗り替える日は、そう遠くないかもしれない。同社の今後の飛躍に、大いに期待したい。

秋元博路/1967年千葉県生まれ、東京大学博士課程修了(船舶海洋工学)。日韓で大学教員として教育・研究に従事しながら、東日本大震災をきっかけに海洋再生可能エネルギーの実用化を目指して合同会社を設立。2022年に合同会社から株式会社アルバトロス・テクノロジーへ組織変更して代表取締役となる。低コスト・国産の大型浮体式垂直軸型風車の実用化・事業化を目指し、複数の電力会社、海運会社、重工メーカーと連携している。