
XR領域でプロデュース業を軸に実績を積み上げてきた株式会社360Channel(サンロクマルチャンネル)。同社は現在、ARナビとデジタルマップを活用し、施設内の回遊や体験そのものを最適化する新事業「360maps(サンロクマルマップ)」を展開している。直近では、内閣官房国際博覧会推進本部事務局が推進する、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の様子を「体験」として後世に伝えるための「デジタルアーカイブ」制作にも協力し、空間を後世に遺す取り組みも本格化させている。
単なる技術トレンドにとどまらず、「移動」や「空間」の価値そのものを再設計しようとする同社は、「新しいテクノロジーを身近にし、人々にオドロキを」というミッションを掲げ、組織改革も実行中だ。代表取締役社長就任後、次々と新たな事業構想を打ち出す小松恵司氏に、これからの展望と組織づくりについて詳しくうかがった。
「人々にオドロキを」提供する社員主導のボトムアップ型組織
ーー社長就任後、組織づくりにおいてどのような点に注力されていますか。
小松恵司:
当社はXR領域においてプロデュース業を軸に事業を展開してきましたが、さらなる飛躍のためには、トップダウンではなく、現場から新しいアイデアが自発的に湧き上がる、ボトムアップ型の環境が必要だと感じていました。
当社は「新しいテクノロジーを身近にし、人々にオドロキを」というミッションを掲げています。この「オドロキ」が何から生まれるのかと考えたとき、単なる技術ではなく、その根底には「提案すること」が不可欠であるという結論に至りました。そのため、現在はより提案型の組織になることを目指し、社員にはどのような場面においても提案を意識してもらうよう伝えています。制作力に加え、自分たちで新しいオドロキの種を提案し、実行できるボトムアップ型の文化を根付かせることが、当社の成長には欠かせないと考えています。
ーー全社員の提案を吸い上げる仕組みについて教えてください。
小松恵司:
具体策として、社内に先端技術研究開発ラボ「Creative Lab. / AI Lab.」を設立しました。これは通常のプロジェクトとは別に職種を問わず社員が興味関心のあるテーマについて自由に研究開発や発表ができる場所です。年次や部署の垣根を越え、誰もが自由にアイデアを発信・検証できる場を設けることで、これまでにない斬新な発想や事業の種が次々と生まれ始めています。
さらに、これらのラボの取り組みから派生する形でテクノロジーとクリエイターが交差する共創コミュニティ「Digital Intersection(デジタル・インターセクション)」も発足させました。XR・AI領域の第一線で活躍するクリエイター・技術者を招き、業界や企業の枠組みを越えてリアルな対話の場をつくる取り組みです。社内発の発想を社内だけに閉じず、業界横断のシナジーへと広げていくことを目指しています。
「360maps」が実現する、移動体験の再設計

ーー貴社の事業展開において、今後はどのような領域に注力されていくのですか。
小松恵司:
これまでのプロデュース業という強固な基盤を活かしつつ、事業構造を大きく変革していこうとしています。その中核となるのが、私が社長就任後に推進している新事業「360maps(サンロクマルマップ)」です。
現在、Googleなどが提供する都市データ等は世の中に普及していますが、施設や建物の中のデータまでは十分に連携されていません。当社はこうした場所ごとの空間を撮影・スキャンしてデータ化し、それを単なるエンターテインメントとしての活用にとどめず、ARナビやデジタルマップを通じた体験設計に活用しています。
体験設計を通じて蓄積される空間データは、継続的な価値創出を支える基盤となり得るものであり、将来的にはこのデータ自体が価値を持ち、資産として活用されていく可能性もあると考えています。
万博での取り組みに見るデジタルアーカイブの可能性
ーー現在進めているプロジェクトについて教えてください。
小松恵司:
万博での取り組みの延長として、大規模イベントや施設のデジタルアーカイブにも取り組んでいます。
大阪・関西万博においては、デジタルアーカイブ制作に協力し、会場およびパビリオンの空間を高精細なVRコンテンツとして記録しました。具体的には会場外観を約938スポットにわたり12Kの実写画像で撮影し、さらにパビリオン内観についても107カ所を8Kの実写動画として記録しました。
これにより会期終了後には体験できなくなる空間を誰もがいつでもアクセスできる形で残すことが可能になります。この取り組みは、空間や体験をデジタル上に保存するだけでなく、その後の活用の可能性を広げる基盤にもなり得ると考えています。今後はデジタルアーカイブの取り組みを観光や文化領域などへの展開も進めていく方針です。
地域から世界へ広がる新たなコンテンツエコシステムの構築
ーー貴社で働くことで、どのような活躍が期待できますか。
小松恵司:
当社は年齢や社歴をほとんど気にしない社風であり、意欲と能力があればどんどんチャンスをつかんで活躍できる環境です。実際に学生のアルバイトとして入社した方が社員になり、現在マネージャーとして活躍している事例もあります。また、入社してすぐに能力を発揮し、若くしてマネージャーに抜擢されたメンバーもいます。現在、新しいテクノロジーを活用して次々とサービスを生み出しているため、事業を牽引する覚悟がある方には、事業部の責任者として活躍いただきたいと考えています。
ーー今後の展望についてお話しいただけますか。
小松恵司:
今後はコンテンツ制作やサービス提供の拠点を国内外へと広げていく構想を持っています。その地域にいる人材が自らコンテンツを生み出し、発信していけるような仕組みを構築することが重要だと考えています。地域ごとの魅力を活かしたコンテンツが生まれ、それが流通していくことで、新たな価値の循環が生まれるはずです。こうした取り組みを通じて、地域創生にも寄与する持続可能な形で空間体験の価値を広げていく方針です。
ーー最後に、今後の採用に向けたメッセージをお願いします。
小松恵司:
私たちが目指しているのは、単に技術のトレンドに乗ることではありません。自らの手で未来のトレンドそのものをつくり出し、空間や体験の新しいスタンダードを生み出すことです。このスケールの大きな展望に共感し、新しいテクノロジーで人々にオドロキを届けながら、社会にインパクトを与えたいという熱意ある方々にぜひ参画していただきたいですね。これから、一緒に新しい未来をつくりましょう。
編集後記
技術のトレンドを追いかけるのではなく、自らの手で未来のトレンドそのものをつくり出そうとする小松氏のスケールの大きな展望が非常に印象的だった。トップダウンではなく社員一人ひとりのアイデアが原動力となる組織文化が、創業から10年の制作実績を持つ同社の新たな挑戦を支えている。大阪・関西万博でのVR技術を活用した「リアルで撮影した空間アーカイブ」や、「360maps」の展開に見られるように、その取り組みは単なる制作領域にとどまらず、体験のあり方そのものに踏み込んでいる。地域発のエコシステム構築など、次々と描かれるビジョンがどのように現実のものとなっていくのか、同社のさらなる飛躍から目が離せない。

小松恵司/東京都生まれ。法政大学経営学部経営学科卒業。株式会社AOI Pro.でCMプロデューサーとしてキャリアを積む。2016年に株式会社360Channel入社。XRビジネスプロデュース事業を立ち上げ、事業責任者として事業拡大を牽引。2021年に取締役、2023年に代表取締役社長に就任。