
大手証券会社での厳しい環境を経て、コロナ禍に未経験で物流業界へ飛び込み起業した株式会社TWCの代表取締役である権藤成雅氏。創業から5年で売上高15億円を達成し、現在は「2030年に売上高100億円」という目標を見据えている。「運送業を憧れの選択肢へ」というビジョンを掲げ、属人的な業界において大手並みの管理体制を構築した。徹底した仕組み化の裏で大切にする「非合理の合理性」とは何か。同社の成長の軌跡と、未来に向けた組織変革の裏側に迫る。
証券会社での挫折を糧にコロナ禍で決意した起業への道
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
権藤成雅:
もともとは服が大好きだったこともあり、アパレル業界のバイヤーを目指していました。実際に就職活動の際は、百貨店などからも内定をいただいていたのですが、当時働いていたアルバイト先の社長から業界の将来性を指摘されたことで、自分の進路を考え直したのです。
あらためて自分を見つめ直したとき、大学まで剣道一筋だった私は、学業に対して強いコンプレックスを抱えていることに気づき、「経済も知らずに社会に出るのはまずい」という焦りを覚えました。一方で、「やるからには、業界トップの環境で一番になりたい」という思いもあったのです。それらが重なり、自分を最も鍛え上げられそうな証券会社への入社を決意しました。
入社後は朝早くから夜遅くまで、心身ともに限界に挑むような日々が続きました。それでも「成果を出したい」「同期に負けたくない」という熱意を原動力に、必死で業務に食らいついていましたね。
ーーその後、起業に至ったのはどのような経緯からでしょうか。
権藤成雅:
きっかけとなったのは、証券会社時代に直面したある出来事です。最も懇意にしていたお客様の資産が、市場の変動により一日で半値になってしまいました。それまで築いてきた人間関係が「お金」という尺度で一瞬にして崩れ、縁を切られてしまったのです。それが本当にショックで、証券会社では4年弱勤めましたが、それを機に転職を決意しました。
その後、ベンチャー企業へ参画します。そこで初めて物流の現場を経験したのですが、コロナ禍による需要減少で、売上高がゼロになるという厳しい状況に直面しました。ただ、もともと家系が経営者で、いつかは社長になりたいという思いをずっと抱いていました。そんな折、現在の副代表である親友から「一緒に会社をやろう」と声をかけられ、この苦境こそがタイミングだと思い、起業を決意しました。
逆算経営がもたらした「5年で15億円」の成長

ーー現在の事業内容と、貴社独自の強みは何でしょうか。
権藤成雅:
強みは、24時間・365日欠員の出ない配送体制です。事業としては軽貨物運送を主軸に、大手配送企業の下請けからメーカーとの直接取引、引越し事業まで幅広く展開しています。たとえば専属ドライバーが急に休んだ場合でも、会社側で必ず人員を補填します。荷主の配送に決して穴をあけないこのリスク排除の仕組みが、顧客からの揺るぎない信頼獲得につながっています。
ーー創業からわずか5年で売上高15億円という急成長を遂げられた要因はどこにあるとお考えですか。
権藤成雅:
最大の要因は、高い目標から逆算して事業を組み立てる「逆算経営」の実践です。当初は「2025年に10億円」を目標としていましたが、事業拡大に伴い「2030年に売上高100億円」へと再設定しました。この高い目標から逆算して事業を再設計した結果、10億円という壁が単なる通過点となり、突破できたのです。また、私自身が現場を離れ、営業や組織づくりに専念したことも重要な転機でした。現場の従業員から反発を受ける時期もありましたが、会社を拡大するためには不可欠な決断でした。
徹底した仕組み化と「非合理の合理性」で業界を変える
ーー組織づくりにおいては、どのような取り組みを実践されているのですか。
権藤成雅:
「運送業を憧れの選択肢へ」というビジョンを掲げ、従業員の可能性を最大化するために徹底した仕組み化と多様な進路の提示を行っています。運送業界には、ドライバーが十分に報われない環境が残っているのが実情です。それを覆すために、私たちは「稼げる」「かっこいい」「安定した環境」を提供したいと考えています。そのために取り入れたのが、徹底した組織づくりです。1人の管理者が目を行き届かせられる限界は5〜6人と言われています。そこで、統括、エリアマネージャー、リーダーというピラミッド型の組織体制を厳格に構築しました。こうした仕組み化によって、大手並みの管理体制を敷いています。
さらに、働き手の希望に合わせ、3つのキャリアプランも用意しました。現場を極めたい人のためのプラン、マネジメントを目指すキャリアアッププラン、そして独立を支援するプランです。実際に、すでに3名が自社から独立し、数億円規模の経営者にまで成長しています。
ーー最後に、会社として最も大切にしている価値観をお聞かせください。
権藤成雅:
効率重視の裏で人間らしい感情を重んじる「非合理の合理性」です。効率的で合理的な仕組みの構築も重要ですが、あえて非合理な行動をとることが深い信頼に結びつくと考えています。
たとえば、お客様からクレームをいただいた際、電話で済ませず直接足を運んで、誠心誠意お詫びをします。あるいは、闘病生活に入った仲間のために、経営会議の時間のほとんどを割いて「どう支援できるか」を真剣に話し合い、募金を集めるといった行動です。仕組み化で事業基盤を固める一方、人と人との関係においてはこうした熱量を何よりも重視しています。これからもこの思いを胸に、関わるすべての人にとって憧れの選択肢となる会社をつくり上げます。
編集後記
権藤氏の言葉で最も印象に残ったのは「非合理の合理性」という考え方だ。1人の管理範囲を限定する厳格な組織体制を敷き、100億円から逆算した緻密な経営戦略を立てるなど、一見すると「合理性」を極めているように映る。しかし、根底に流れているのは、人間関係や感情という数値化できない「熱量」だ。大手証券会社時代の挫折や、コロナ禍での過酷な船出を乗り越えた権藤氏。だからこそ、効率だけでは人は動かないという本質に辿り着いたのだろう。「運送業を憧れの選択肢へ」というビジョンは、その熱量に共鳴する仲間たちと共に、着実に現実のものになりつつある。同社が物流業界の景色をどう変えていくのか、その躍進から目が離せない。

権藤成雅/1992年、神戸市生まれ。立教大学法学部卒業。幼少期から大学まで剣道に打ち込み、新卒で野村證券株式会社に入社。その後ベンチャー企業を経て、コロナ禍の売上高ゼロという苦境から2020年に創業。2021年に法人化。現在は代表として、物流業界を「憧れの選択肢」にすることを目指す。特に軽配送の仕組みを根底から再構築し、業界が抱える構造的課題の解決と新たな価値創造に挑んでいる。